新天地においても、安定感抜群の投球を継続している
初挑戦となったパ・リーグの舞台でも、“らしい”投球を存分に見せつけている。今季から福岡ソフトバンクに移籍した又吉克樹投手が、18試合に登板し失点は未だにゼロ。文字通り完璧な投球内容で、ホークスのブルペンを支えている。
中日時代もリリーフの主軸として長年にわたって活躍していたが、新天地で迎えた今季の投球内容が、さらなる向上を見せている点も興味深い。パ・リーグは速球派の投手が多いことで知られるが、そんな中で、右のサイドスローの又吉投手が繰り広げる、多彩な変化球を活かした投球術は、大いに効果を発揮していると言えそうだ。
今回は、又吉投手のこれまでの経歴を振り返るとともに、今季の投球内容についても紹介。「結果球の割合」「各種の指標」「左右別被打率」という3つのカテゴリーをもとに、その投球術について、より深く掘り下げていきたい。
長年にわたって中日のブルペンを支え、昨季はキャリアハイの数字を記録
まずは、又吉投手がこれまでに記録してきた年度別成績を見ていきたい(成績は5/20試合終了時点)。
又吉投手は沖縄県立西原高校、環太平洋大学、四国アイランドリーグplus・香川オリーブガイナーズを経て、2013年のドラフト2位で中日に入団。1年目の2014年から67試合に登板して9勝24ホールドを挙げ、防御率2.21と素晴らしい活躍を披露。そのままブルペンの一角に定着し、プロ初年度から3年連続で60試合以上に登板という快挙を達成した。
2017年には先発と中継ぎの両方を務め、防御率2.13という好成績を残してマルチな才能を発揮。2018年からの2シーズンはやや安定感を欠いたが、2020年は防御率2.77と復調。そして、2021年には防御率1.28、33ホールドというすばらしい数字を記録した。一時はクローザーの大役も任されるなど、プロ8年目でキャリアハイのシーズンを送っている。
同年オフにFA権を行使して福岡ソフトバンクに移籍し、新天地でも勝ちパターンの一角に定着。連投中の投手たちが温存された3月31日の試合では移籍後初セーブを挙げるなど、前年に一時期抑えを務めていた経験も生かしながら、幅広い局面でブルペンを支えている。
2021年の大胆なモデルチェンジが、成績の劇的な向上をもたらした
次に、直近の3年間における、結果球の球種割合を紹介しよう。
2020年はスライダーが結果球の約半数を占め、ストレートは全体のちょうど1/4。また、スライダーと逆方向に曲がるシュートと、緩急をつけるカーブも、それぞれ10%以上使用した。稀に投じていたチェンジアップも含め、多彩な球種を使い分けながら投球を組み立てていたことがわかる。
2021年は前年に多投していたスライダーが大きく減少し、新たに投げ始めたカットボールが全体のほぼ半分に達した。また、それなりの頻度で投じていたカーブを全く使わなくなった点も特徴的だ。前年に一切投じなかった球種を投球の軸に据えるのは勇気のいる決断となるが、又吉投手は大胆なモデルチェンジを成功させ、成績の大幅な向上へとつなげている。
2022年もここまでカットボールを多投する傾向は続き、全体の67.7%とその割合はさらに増加。それ以外の球種では、ストレートとシュート、スライダーとチェンジアップの割合が、それぞれ近い数字となっている。投球の軸であるカットボール、それに次ぐ割合で用いるストレートとシュート、緩急をつけるチェンジアップとスライダーと、結果球としての使用頻度を3つのカテゴリーに分け、多彩な球種をうまく使い分けているといえよう。
プロ入りから3年間はハイレベルな投球内容を示していたが……
続いて、又吉投手が残してきた年度別の指標を確認していきたい。
プロ1年目の2014年から3年間は、いずれも投球回を上回る奪三振数を記録。3.50を上回れば優秀とされる「K/BB」も、この期間は総じて優れた水準にあった。被打率やWHIPは徐々に悪化してこそいたものの、与四球率に関しては年々改善されており、最初の3年間はハイレベルな投球内容を継続していた。
2017年には先発としての登板機会が多かったこともあってか、奪三振率が大きく低下。それでも与四球率は2点台を維持しており、被打率とWHIPも前年から大きく改善。先発とリリーフの双方を経験することによる調整の難しさを考えれば、指標面でも決して悪くはない水準だったといえる。
しかし、2018年以降も奪三振率は以前の水準には戻らず、その一方で与四球率は大きく悪化。キャリアワーストの防御率を記録した2018年には被打率も.321と悪化しており、防御率が大きく上昇した理由の一端が、こうした各種の指標からも見て取れる。
2021年に残された複数の課題を、今季は相次いで解決している
意外なことに、抜群の安定感を示していた2021年もその傾向は続いており、奪三振率に関してはキャリアワーストの数字であった。与四球率も3.13と決して良い水準ではなく、K/BBは1.86とかなり低い水準に。被打率の低さによってWHIPや防御率は優秀な成績となったが、指標の面ではいくつかの課題を残していた状態でもあった。
そして、移籍1年目となった今季は奪三振率が8.35まで上昇し、与四球率も1.96と大きく改善。K/BBも4.25と非常に優れた水準に達しており、キャリアでも最高の制球力を示している。被打率も.136と非常に低く、WHIPは0.65という驚異的な水準に到達。こうした各種の指標にも、今季の又吉投手が前年の課題を解決し、さらなる進化を見せていることが表れている。
右打者に対しては抜群の強さを見せてきたが、今季は“プラスアルファ”も
最後に、直近の5シーズンにおける又吉投手の左右別被打率を紹介したい。
直近5シーズンのうち4シーズンで、対右打者のほうが被打率が低くなっている。右のサイドハンドという特性を生かし、特に右打者封じに対する高い適正を示してきたことの証左といえよう。
また、奪三振に関しても、直近5年間は全て対右打者のほうが多い数字に。その一方で、四球の数は5年続けて対左打者の方が多くなっている。右打者から見て外角に逃げていくスライダーやカットボールは、右のサイドスローにとっては生命線となる持ち球だ。奪三振数や四球数の傾向も、そうした事情に即していると考えられる。
そんな中で、2022年は対右打者の被打率が1割を切っていることに加え、これまでやや苦手としてきた対左打者に関しても、被打率.179と優秀な数字を記録。前年から使い始めたカットボールを活かし、左右を問わずに安定した投球を見せられていることが、昨季以上の快投へとつながっている。
投球スタイルの変化を成功させ、セ・パ両リーグでブルペンの主軸に
スライダーを多投する従来のスタイルから、カットボールを主体とした投球へのモデルチェンジを決断した又吉投手。2021年以降に大きく成績を向上させたタイミングと、球種配分が変化したタイミングが符合している点にも、この決断が奏功したことが示されている。
今や“宝刀”となったカットボールに加えて、多彩な変化球を操る熟練の投球スタイルで、パ・リーグの強打者たちを斬って取る又吉投手。独立リーグから這い上がり、セ・パ両リーグにおいてブルペンの主軸を務めるまでに成長した百戦錬磨のサイドハンドは、リーグ王座奪還を目指すチームにとっても、決して欠かすことのできない存在となるはずだ。
文・望月遼太
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