史上7人目の偉業となる、3年連続首位打者の達成なるか
現在のオリックスを語るにあたって、この男の存在は欠かすことのできないものだ。3番打者としてチームをけん引する吉田正尚選手は、直近2年続けて首位打者の座に輝いている。2シーズン連続での首位打者獲得は、2002年と2003年に2年続けて同タイトルを受賞した小笠原道大氏以来、実に19年ぶりの快挙となった。
2年連続の首位打者というだけでも久方ぶりの偉業だが、今季も首位打者を獲得して3年連続の戴冠となれば、2リーグ制導入以降では史上7人目という大記録となる。オリックスOBでもあるイチロー氏以来となる“長期政権”への挑戦だが、現在の吉田正選手には、それも可能と思わせるだけの実績と技術が備わっている。
今回は、吉田正選手のこれまでの経歴について紹介すると共に、「セイバーメトリクスで用いられる各種の指標」、「コース別打率」、「球種別打率」の3つの観点から、その打撃を分析。球界を代表する好打者に成長したバファローズの大黒柱について、データを基に掘り下げ、今季の活躍を占っていきたい。
故障を克服した3年目以降は、まさに安定感抜群の打撃を続けている
吉田正選手が記録してきた、年度別成績は下記の通り。
吉田正選手は青山学院大学から、2015年のドラフト1位でプロ入り。1年目の2016年から非凡な打撃センスを発揮していたが、プロ入りから2年間は腰の故障に悩まされ、出場試合数は60試合台にとどまっていた。しかし、2017年オフに腰椎椎間板ヘルニアの手術を受けたことで故障を克服。2018年からは3年連続で全試合出場を達成し、高い能力をフルに発揮できるようになっていった。
2017年以降は4年連続で打率.310、OPS.900を上回っており、その打撃の安定感は出色だ。2019年には森友哉選手とのタイトル争いに惜しくも敗れて打率2位に終わったが、2020年には自身初の首位打者を獲得。2021年は相次ぐケガに悩まされ、連続フル出場は3年で途切れたものの、自己最高のOPSを記録するなど、その打撃内容はさらに進化。2年連続となる首位打者に輝き、チームのリーグ優勝にも大きく貢献している。
「三振が少なく、四球は多い」という理想的な傾向を示している
続いて、吉田正選手が残してきた各種の打撃指標を見ていこう。
吉田正選手の特徴の一つとしてよく挙げられるのが、その三振数の少なさだ。三振を打席数で割って求める「三振率」も非常に低く、2020年から2年続けて三振率は.050台。およそ20打席に1度しか三振しない計算であり、そのコンタクト力はまさに驚異的だ。
三振が少ないことに加えて、四球を多く選べるという点も、吉田正選手の大きな特長の一つだ。出塁率が2017年から4年続けて.400を上回っているだけでなく、キャリア通算の四球率は.127、打率と出塁率の差を示す「IsoD」も.090と、四球の多さを示す指標はおしなべて優秀な水準に達している。
吉田正選手は2018年から3年連続で2桁の故意四球を記録しており、かつては後続の打者と天秤にかけたうえで、勝負を避けられることも多かった。しかし、2021年は同じ青山学院大学出身の杉本裕太郎選手が、吉田正選手の後を打つ4番打者として大ブレイク。それもあって、故意四球の数は2020年の17個から6個まで減少している。それでもなお優秀な四球率を維持している吉田正選手の選球眼は、まさに本物といえるだろう。
敬遠が減ったことにより、勝負強さも存分に発揮されるように
次に、選球眼を示す指標の一つである「K/BB」を見ていこう。この指標は1.00を超えれば非常に優秀で、1.50を上回れば驚異的な数値といえる。そんな中で、吉田正選手は2020年から2年続けて、三振数が四球数の半分以下という数字を記録。同期間のK/BBはいずれも2.20以上と、まさに異次元と呼べる領域に達している。
また、吉田正選手は通算打率.326に対して、通算の得点圏打率が.323とほぼ同水準になっている。とりわけ、2021年は得点圏打率.400と抜群の数字を残した。2020年まではチャンスで勝負を避けられることも少なくなかったが、厳しい攻めに遭う中でも結果を残したうえで、杉本選手の台頭によって勝負される機会が増えた昨季は、その勝負強さを大いに示したと言えよう。
吉田正選手は三振が非常に少なく、それでいて四球は多いという、打者として理想的な傾向を持ち合わせる。それに加えて、OPSや長打率の高さが示す通り、当然ながら甘く入れば一発長打の可能性も高い。“確実性の高いフルスイング”という独特の打撃スタイルは、指標の面でもまさに唯一無二と呼べるだけの、驚異的な完成度を誇っている。
ボールゾーンも含めて、吉田正選手に弱点はほぼ存在しない?
次に、2021年に吉田正選手が記録した、投球コース別の打率を紹介しよう。
ストライクゾーン内の9コースに関しては、いずれも打率.250以上を記録。この数字からも、明確な苦手コースが存在しないことが読み取れる。ど真ん中や高めといった甘いコースにはとりわけ高い打率を残しているのに対し、真ん中低めや外角低めといった、身体からやや遠いゾーンについては、他のコースに比べればやや低い数字となっている。
また、内角真ん中に対しても多少数字を落としているが、インハイやインローといった周辺のコースはいずれも打率.400を超えており、少しでもコースを間違えば痛打される。アウトコースも真ん中よりも高く浮けばヒットにされる可能性は高く、少しの制球ミスも許されない打者と言えよう。
さらにはボールゾーンにおいても高打率のコースが多く、特に低めは5コース全てで打率.250以上。こうしたボールゾーンに落ちる球への強さは、三振の少なさにもつながっていると考えられる。弱点らしい弱点が存在せず、ボール球でも痛打され、冷静に四球を選ぶ。吉田正選手を打ち取るのが至難の業であることは、この表に記された数字からも読み取れよう。
速い変化球、緩いカーブのどちらも得意としているが……
最後に、2021年に吉田正選手が記録した、球種別の打率を見ていこう。
シュートとチェンジアップを除く6球種に対しては、いずれも打率.310以上と高打率を記録。球種の面においても、弱点は少ないと考えられる。とりわけ、フォークに対して打率.439と強さを発揮している点は、低めのボールゾーンへの非常に高い対応力にもつながっていることだろう。
そんな中でも、シュートとチェンジアップの2球種はやや苦手としているようだ。特にチェンジアップは打率.152と、吉田正選手にとっては数少ない弱点といえるか。同様に緩急をつける目的で用いられるカーブは得意としているだけに、タイミングを外すチェンジアップを克服できれば、これまで以上にハイレベルな成績を残してくれる可能性もありそうだ。
吉田正選手の打席は、あらゆる意味で注目する価値にあふれている
ストライクゾーンならどこでも4回に1回は安打にするだけでなく、ボールゾーンですら安全とは言えない。球種の面でも穴は少なく、指標の面でもほぼ理想的な数字が残っている。吉田正選手のバッティングの完成度の高さは、今回取り上げた各種の成績にも示されている。
三振が極端に少ないということは、それだけ野球の醍醐味でもあるインプレーが増えることにもつながる。見る者の度肝を抜く豪快なフルスイングのみならず、吉田正選手の打席に注目する価値は大いにあるということだ。3年連続の首位打者に挑む吉田正選手のプレーから、今季も目を離すことはできなさそうだ。
文・望月遼太
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