数々の大投手が成しえなかった3つの記録を、プロ入りからわずか14試合で達成
高校時代から用いられてきた「令和の怪物」という称号は、もはや決して大げさなものではない。2022年4月10日、千葉ロッテの佐々木朗希投手がNPB史上16人目となる完全試合を達成した。NPBでは28年ぶりの快挙というだけでなく、この試合ではさまざまな記録が達成された。同日に佐々木朗投手が残した、主な記録は下記の通り。
完全試合の史上最年少記録と連続打者奪三振は、どちらも1950年代から1960年と、60年以上も前に達成された記録であった。すなわち、NPBにその名を残す数々の大投手たちでも成しえなかった3つの記録に、佐々木朗投手はプロ入りからわずか14試合目にして到達したことになる。
今回は、4月10日の試合で記録された投球データを詳細に紹介するとともに、この日の佐々木朗投手はどこがすぐれていたのかについて、より深く掘り下げていきたい。
19個の奪三振を奪いながら、異次元の“省エネ投球”を披露した
まずは、この試合で佐々木朗投手が投じた105球がもたらした投球結果一覧を紹介する(データは12日更新時点)。
佐々木朗投手は2021年9月以降のレギュラーシーズンで27イニングを投げ、この間与えた四球はわずかに3つ。昨季終盤の時点で、四球を出すこと自体が非常に少なくなっていた。このように若くして高い制球力を備える佐々木朗投手だが、この日のコントロールは過去の登板の中でも群を抜くものだった。
打者27人のうち、カウントが3ボールになったのはたった1度、7回表の後藤駿太選手の打席のみ。2ボールとなった回数すらわずか6度と、バッティングカウントを迎えること自体が非常に稀だった。
また、ボールゾーンに投じられた球は全部で42球だが、そのうち相手が手を出さずにボールとなった球は23球だけ。19個もの奪三振を記録しながら打者一人あたりに要した球は3.89球と、まさに異次元の“省エネ投球”だった。
例えど真ん中であっても捉えられない、まさに抜群の球威
投球数が少なかった理由の一端は、次に示す、佐々木朗投手が記録した投球コースにも表れている。
全105球のうち、ストライクゾーンに投じられた球の割合がちょうど60%。試合を通じて積極的にゾーン内で勝負していたことが、この数字にも示されている。さらに、ストライクゾーンに行った66球のうち、およそ4割を占める26球が低めに制球されていた点も特筆に値するだろう。
また、ど真ん中に行ってしまった11球に関しても、ファールが7球、見逃しが3球、空振りが1球という内訳に。甘いコースに行った球であっても捉えられた当たりは一つもないという事実が、佐々木朗投手の並外れた球威を物語っている。
データにも示される、「狙い通りに奪った三振」の多さ
次に、佐々木朗投手が三振を奪ったコースを確認していきたい。
19個の奪三振のうち、低めのボールで記録したものが16個。その中でも、低めのボールゾーンで記録した10個の三振は全てフォークと、狙い通りの配球で空振りを奪っていたことが読み取れる。また、4つの見逃し三振のうち2つは、左打者のひざ元に完璧に決まって記録。三振を奪いに行ってきっちりと投げきれる精度の高さは、まさに圧巻だった。
試合全体を通じて、カーブは3球しか使わなかったが……
続いて、この日の佐々木朗投手が投じた球種の割合を見ていきたい。
最速で164km/hに達したストレートが約6割と、快速球を主体に投球を組み立てていたことがわかる。変化球の中ではフォークの割合が全体のおよそ3分の1となり、カーブとスライダーの割合はかなり少なくなっていた。
しかし、投じられた3球のカーブのうち2つは、4回表に吉田正尚選手を相手に投じられたものだった。吉田正選手は試合開始前の段階で14試合に出場し、三振はわずかに1つ。昨季はシーズン全体で喫した三振が26個のみと、極めて三振が少ない打者として知られる。
そんな吉田正選手に対して、佐々木朗投手は第1打席でフォークを振らせて3球三振。続く第2打席ではカーブを2球続けて追い込み、4球目のフォークで再び空振り三振を奪った。投球の引き出しの多さを見せたうえで、7回の第3打席はひざ元の速球で見逃し三振。少ない投球数でもアクセントとなった緩い球は、NPB屈指の好打者封じにも寄与していた。
速球の割合は全体の6割に達したが、結果球では全く違った傾向に
先述の割合を見ると、この日の佐々木朗投手は速球を最大の武器としていたようにも感じられる。だが、アウトを奪った27球、いわゆる「結果球」における球種を確認すると、その傾向は大きく異なってくる。
ストレートで奪ったアウトは8つにとどまり、結果球全体の7割をフォークが占めた。試合全体を通じて投じたフォークの数は35球であり、そのうち半分以上が結果球となっている。
そして、奪三振を記録した球種においては、この傾向がより顕著となっている。
速球で奪った三振はわずかに4個で、19個の三振のうち約8割をフォークによって記録した。終盤に至るまで160km/h以上を計測していた速球以上に、バットに当てることすら困難だったこの日のフォークが打者を苦しめていたことがうかがえる。
また、この日佐々木朗投手が打たせた28個のファール(捕邪飛1本を含む)のうち、速球を打ったものが実に25球に達した点も示唆的だ。力強い速球でファールを打たせてカウントを稼ぎ、最後はフォークで仕留める。奪三振のコースにも表れていたバッテリーの狙いの適切さは、その他のデータにも明確に示されている。
この日の佐々木朗投手には、野手のファインプレーすら不要だった?
最後に、この試合におけるオリックス打線の打席結果一覧を見ていきたい。
奪三振が多いということは、それだけ前に飛ぶ打球自体が少なかったということにもなる。ただ、三振以外の結果にはほぼ偏りがなく、レフト以外の各ポジションにまんべんなく打球が飛んでいた。すなわち、オリックス打線にとっては、特定のコースや球種に狙いを絞り、追っ付けや引っ張りを図ることすらできないほどの投球だったということだろう。
また、前に飛んだ打球は初回の先頭打者である後藤選手のセカンドゴロを除けば、いずれも野手の定位置に近い当たりだったことも特筆ものだ。ノーヒット・ノーランのような記録の裏にはファインプレーあり、と言われることも多いが、この日の佐々木朗投手の場合は、そうした野手がヒットをもぎ取るプレーすら必要としなかったということだ。
あらゆる意味で過去に類を見ない、まさに球史に残る快投だった
今回取り上げた各種の数字を見ても、まさしく過去に類を見ないほどの驚くべき内容だったことがうかがえる。「プロ野球史上最高」との声すら上がっているこの日の投球が、あらゆる意味で球史に残る歴史的なピッチングだったことに、疑問の余地はないことだろう。
これだけの投球を展開したのが、20歳の佐々木朗投手と18歳の松川選手という非常に若い二人だったという点も、この試合がもたらしたインパクトを増幅させている。若き名コンビがこのまま成長を続ければ、今後もさらなる衝撃をもたらす快投を見せてくれるかもしれない。そんな途方もない期待すら抱かせる、圧倒的な105球のパーフェクトゲームだった。
文・望月遼太
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