「扇の要」と表現される通り、捕手のポジションはチームにとって非常に重要だ。しかし現代野球では、一人の捕手だけでシーズンを戦い抜くことは難しく、チーム事情や投手との相性に応じて、複数の捕手を使い分けることが珍しくない。
言い換えれば捕手は、たとえ主力がいてもいつか控えにチャンスが巡ってくるポジションだということ。まだ経験の浅い若手も、飛躍の足掛かりをつかめる可能性は高い。今回は、2021年シーズン終了時点で「一軍出場経験ゼロ」のパ・リーグ若手捕手の中から、期待の選手をピックアップ。経歴を紹介するとともに、今後のブレイクに期待を寄せたい。
梅林優貴選手(北海道日本ハム)
梅林選手は広島文化学園大学から、2019年のドラフト6位で北海道日本ハムに入団。プロ1年目の2020年は二軍で39試合に出場し、打撃面では打率.171と苦しんだ。しかし、続く2021年は55試合と出場機会を増加させ、前年ゼロだった本塁打も2本記録。打率.189と引き続きオフェンスに課題を残すが、着実に研鑽を積んでいる。
チームには清水優心選手、石川亮選手、郡拓也選手、田宮裕涼選手など、若手捕手が多く揃う。ただ、2021年に一軍でチーム最多の100試合に出場した清水選手は、2020年の盗塁阻止率が.200、2021年は同.203と、2年続けて厳しい数字だった。梅林選手には抜群の強肩という大きな武器があるだけに、長所を生かして競争に割って入りたいところだ。
水上桂選手(東北楽天)
水上選手は明石商業高校から、2019年ドラフト7位で東北楽天に入団。プロ1年目の2020年は二軍で23試合に出場し、打率.097だったが、2021年は79試合出場と正捕手に近い立場となり、打率も.175まで上げた。高校時代から捕手としての素質を高く評価されているだけに、このままバッティングを改善できればより期待の持てる存在となる。
東北楽天では2021年のオフに、足立祐一氏と下妻貴寛氏が現役を引退。現在の一軍捕手陣は、25歳の太田光選手、29歳の田中貴也選手、34歳の炭谷銀仁朗選手で、若手・中堅・ベテランと年齢層が分かれている。その一方で、愛知大学の安田悠馬選手がドラフト2位という高順位で指名を受けてもいる。20歳の水上選手も、年齢が近い強力なライバルの加入に奮起し、プロ3年目は一軍に殴り込みをかけられるか。
牧野翔矢選手(埼玉西武)
牧野選手は遊学館高校から、2018年のドラフト5位で埼玉西武に入団。プロ1年目の2019年は二軍で、打率こそ.163ながら44試合に出場した。続く2年目の序盤は、引き続き二軍で奮闘し、打席に立つ機会も前年より増えていたものの、6月に右有鉤骨を骨折。22試合出場にとどまった。
続く2021年は故障を乗り越え、二軍で34試合に出場。過去2年間は.160台だった打率も.272と大きく改善させている。二軍公式戦での初本塁打も放つなど、打撃面では大きな進化を遂げたと言えるだろう。一軍捕手陣は森友哉選手、岡田雅利選手、柘植世那選手と実力者が揃うが、牧野選手も2022年春季キャンプでA班に抜擢。本格ブレイクに期待がかかる。
植田将太選手(千葉ロッテ)
植田選手は慶応義塾大学から、2019年の育成ドラフト2位で千葉ロッテに入団。大学4年時に受けた右ひじのトミー・ジョン手術を克服し、1年目の2020年から二軍で35試合に出場した。続く2021年には、一軍の捕手陣に離脱者が相次ぎ、当時出場機会を分け合っていた宗接唯人氏が昇格したため、二軍でひとり大きな役割を担った。前年には.111だった打率も、66試合で.191というところまで向上させている。
公式戦中断期間中に行われたエキシビションマッチでもアピールに成功し、2021年8月30日には支配下選手登録も勝ち取った。同年のイースタン・リーグで最多勝に輝いた、チームメイトの森遼大朗投手に先んじて支配下に昇格した事実からも、植田選手への期待の大きさがうかがえる。マリーンズ捕手陣は総じて盗塁阻止に課題を残すだけに、持ち味の強肩を武器に、一軍へのステップアップを果たせる可能性はありそうだ。
中川拓真選手(オリックス)
中川拓選手は豊橋中央高校から、2020年のドラフト5位でオリックスに入団。プロ1年目の2021年は二軍で14試合の出場のみだったが、打率.276と高卒ルーキーとしては水準以上の数字を記録。将来のブレイクに期待を持たせている。
チーム内では、26歳の若月健也選手と31歳の伏見寅威選手が主戦捕手として活躍し、25歳の頓宮裕真選手、34歳の松井雅人選手がそれに次ぐ立ち位置にいる。19歳の中川拓選手には、年齢構成を考えても大きなチャンスがありそうだ。二軍でアピールを続け、近い将来の正捕手候補として一軍デビューを果たせるか、注目したい。
渡邉陸選手(福岡ソフトバンク)
渡邉選手は神村学園高校から、2018年育成ドラフト1位で福岡ソフトバンクに入団。プロ入りから2年間は三軍で腕を磨く日々が続いた。しかし、プロ3年目の2021年は二軍で66試合に出場し、打率.263と打撃面で存在感を発揮。この活躍が認められ、8月30日に支配下選手契約を勝ち取った。
ホークスでは、長くチームを支えた高谷裕亮選手が2021年限りで現役を引退。不動の正捕手を務める甲斐拓也選手の壁は厚いが、若手捕手の中で一軍での立ち位置を確立している選手はおらず、第二捕手を巡る争いは横一線だ。育成契約3年目に長足の進歩を遂げた渡邉選手は、甲斐選手と同じく、育成からの主戦捕手というシンデレラストーリーを歩めるか。
捕手併用、若手登用の増加という2つの追い風
牧野選手、中川拓選手、渡邉陸選手の3名は、いずれも2021年には二軍で打率.260以上を記録しており、打てる捕手としての期待がかかる。出番を増やすためにはディフェンス面の安定感が不可欠だが、このまま打撃面で一定以上の数字を残しながら研鑽を積めば、2022年シーズン中の一軍デビューも見えてくるだろう。
梅林選手、水上選手、植田選手の3名は、いずれも直近のシーズンで打率.100台と、オフェンスに課題を残す。それでも北海道日本ハムと千葉ロッテはチーム全体で盗塁阻止率に課題を残しているため、強肩という武器を活かして、一軍に割って入る余地はあるだろう。水上選手も年齢的にチャンスがありそうな情勢であり、3選手とも打撃面で成長を見せれば、一気に一軍で台頭する可能性はありそうだ。
捕手は経験が重要なポジションではあるが、近年は埼玉西武の森選手や千葉ロッテの田村龍弘選手のように、若いうちからチャンスを与えられ、正捕手の座を獲得する選手も増えつつある。今回紹介した選手たちも、前述した捕手併用の増加と若手登用の流れという、2つの追い風に乗っていってほしいところだ。
文・望月遼太
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