先発投手の消化イニング数が減少傾向にある中で……
2021年のパ・リーグにおいては、6球団すべてに2桁勝利を記録した投手が存在した。2017年以降の直近5年間で全球団に10勝投手が誕生したケースは、2018年と2021年の2回だけだった。投手分業の進行により、先発投手の消化イニング数が減少傾向にあることを考えれば、先述の記録は少なからず意義のあるものと捉えられよう。
今回は、各球団におけるチーム内最多勝投手に焦点を当て、各投手の一軍デビュー以降の年度別成績や、これまでの活躍を紹介。昨季の投球内容をあらためて振り返るとともに、2022年のさらなる快投にも期待を寄せたい。
上沢直之投手(北海道日本ハム)
上沢投手は高卒3年目の2014年に一軍デビューを果たし、プロ初完封を含む8勝を記録。20歳という若さで台頭を見せたが、それから2年後の2016年に右ひじの手術を経験。それでも、リハビリを乗り越えて2017年に復帰を果たすと、大黒柱だった大谷翔平投手が退団した2018年に11勝を記録。一躍、ファイターズのエース格へと成長を遂げた。
翌2019年は自身初の開幕投手を務め、前年と同様に先発陣の軸の一人として奮闘。10試合に登板した時点で5勝と2年連続の2桁勝利に向けて順調だったが、6月18日の試合でライナーを左ひざに受けて骨折し、残りのシーズンを棒に振る事態に。再び大きな故障に見舞われたが、続く2020年に復帰を果たし、15試合で8勝とハイペースで勝ち星を積み上げた。
そして、2021年は自己最多となる12勝を記録し、防御率も自身初の2点台とキャリアハイの成績を残した。2度の大きな故障を乗り越えた不屈の精神に加えて、一軍登板のあった6シーズンのうち5年間で防御率3点台前半以下と、高い実力に裏打ちされた安定感も出色。チームの体制が大きく変化する今季も、エースとしての活躍に期待したいところだ。
則本昂大投手(東北楽天)
則本投手はプロ1年目の2013年に開幕投手の大役を任され、いきなり15勝を挙げる大活躍を披露。文句なしの新人王に輝いただけでなく、チームの創設以来初となるリーグ優勝と日本一にも大きく貢献した。翌2014年からは田中将大投手の退団もあって、早くもエース格としての働きが求められる立場となった。
そして、則本投手はプロ入りから6年連続で2桁勝利という数字を残し、その期待に十二分に応えてみせた。特筆すべきは抜群の奪三振力で、キャリア通算の奪三振率は9.32。2014年から2019年まで5年連続で最多奪三振を獲得し、4年連続200奪三振という快挙も達成。2017年には、7試合連続2桁奪三振というNPB新記録も樹立している。
故障などもあって2019年からは2年続けて5勝止まりだったが、2021年は3年ぶりに規定投球回に到達し、同じく3年ぶりの2桁勝利を記録。奪三振率も9.46とキャリア平均を上回る数値で、エース復活を強く印象付けた。今季はあと4勝に迫った通算100勝、残り50イニングとなった通算1500投球回という2つの節目も存在。開幕投手にも内定し、ますます注目を浴びそうだ。
高橋光成投手(埼玉西武)
高橋光成投手は1年目の2015年に早くも一軍デビューを果たし、プロ初完封を含む5勝をマーク。同年8月には4勝1敗、防御率2.96と高卒新人とは思えないほどの活躍を見せ、史上最年少で月間MVPを受賞した。続く2016年には10代の若さで先発ローテーションの一角に加わり、近未来のエース候補として期待を集めた。
だが、2017年と2018年はいずれも故障に苦しみ、チームが躍進する中でなかなか登板機会を増やせず。それでも、2019年は終盤に故障離脱するまでは先発陣の一角として登板を重ね、自身初の2桁勝利を記録してリーグ優勝に貢献。翌2020年には初めて規定投球回に到達し、課題だった防御率も3点台まで改善してみせた。
2021年は初めて開幕投手の大役を任され、名実ともにエースとしての役割が求められる中で、自己最多の11勝を記録した。同年2月に24歳を迎えたばかりながら、手薄な先発陣の中で軸として奮闘を見せている。2年連続の開幕投手に指名された2022年も進化を続け、昨季以上の成績を残せるかに注目だ。
小島和哉投手(千葉ロッテ)
浦和学院高校時代に春のセンバツで優勝投手となった経験を持つ小島投手は、早稲田大学でも主戦投手として活躍。千葉ロッテでも1年目から開幕ローテーション入りを果たしたが、プロ初登板の試合では2回8失点と打ち込まれ、そのまま定着とはならず。それでもシーズン途中から先発陣の一角に加わり、プロ初年度から貴重な経験を積んだ。
続く2020年も開幕ローテーションに加わり、年間を通じて先発として登板を重ねた。規定投球回には6.2イニング足りなかったものの、防御率は3点台と前年からの成長を示した。続く2021年は好不調の波こそ激しかったものの、9月11日以降の4試合で3完投・2完封と終盤戦で覚醒。自身初の2桁勝利と規定投球回到達も果たす、飛躍のシーズンを送った。
昨季の千葉ロッテは強力なリリーフ陣を擁したが、チーム内で2桁勝利を記録したのは小島投手ただ一人。背番号を「14」に変更して臨む今季、名実ともに左のエースとして一本立ちできるか。毎年成績を向上させ続けている25歳の若き左腕が今季見せる投球は、本人とチームの双方にとって、非常に重要な意味を持ってきそうだ。
山本由伸投手(オリックス)
山本投手は高卒1年目の2017年に先発としてプロ初勝利を挙げると、続く2018年にはリリーフに転向してブレイク。9月19日以降は故障で登板できなかったにもかかわらず、セットアッパーとしてリーグ2位の32ホールドを記録した。翌2019年には先発に再転向し、防御率1点台と前年を上回る快投を披露。自身初タイトルとなる、最優秀防御率の座に輝いた。
2020年には奪三振率が飛躍的に向上し、リーグ最多タイの149奪三振を記録して2年連続でタイトルを獲得。そして、2021年にはまさに圧倒的な投球を見せ、最多勝、最高勝率、最多奪三振、最優秀防御率の投手4冠を達成。それに加えて、リーグMVP、沢村賞、ベストナイン、ゴールデングラブ賞も獲得し、まさに投手タイトルを総なめにしてみせた。
2021年は防御率1.39、奪三振率9.57、K/BB5.15と数字の面でも抜群の水準で、名実ともに球界を代表する投手に。23歳にしてチーム悲願のリーグ優勝の立役者にもなった若き大エースは、今季もより成長した姿を見せてくれるか。チームのみならず、リーグの勝ち頭でもある若き剛腕の投球には、今季も熱い注目が寄せられることだろう。
千賀滉大投手(福岡ソフトバンク)
千賀投手は2010年の育成ドラフト4巡目という順位でプロ入りし、プロ2年目の2012年に支配下登録を勝ち取る。3年目の2013年に中継ぎとしてブレイクを果たし、奪三振率13.58という圧巻の数字を記録した。リリーフとしても十二分に優れた才能を示していたが、2016年に先発に本格転向して以降はさらなる躍進を見せていく。
2016年からは6年連続2桁勝利を継続中で、同じく6年続けて投球回を上回る奪三振数を記録。2017年に最高勝率、2019年に最多奪三振、そして2020年には最多勝、最優秀防御率、最多奪三振の投手3冠と、数多くのタイトルも手にしてきた。キャリア通算の奪三振率は則本投手をも上回る10.44という数字であり、まさにリーグを代表する剛腕といえよう。
2021年は故障の影響で前半戦では2試合しか登板できず、7月6日の試合では2.2回で10失点とまさかの展開に。それでも8月以降は11試合で9勝と驚異的なペースで勝ち星を積み上げ、シーズン最終登板の10月25日に2桁勝利に到達。苦しみながらもエースとしての貫禄を見せつけた昨季を経て、今季は開幕からフル回転での活躍が期待されるところだ。
各投手は今季も、緊迫した投手戦をファンに見せてくれそうだ
山本投手、高橋光成投手、小島投手の3名はいずれも25歳以下とまだ若く、今後のさらなる伸びしろも期待される存在だ。一方で、則本投手、千賀投手、上沢投手は20代後半から30代前半と、年齢的には選手として脂が乗りきってくる時期となる。各投手の昨季の活躍を思えば、今季もそれと同等か、あるいは昨季を上回るような活躍が期待されるところだ。
エースと目される投手は対戦カードの頭を任されることも多く、必然的に緊迫した投手戦を演じることも増えてくる。そんななかで、きっちりと援護を勝ち星に結び付けていくような、いわばエースとしての責務を果たすことができるか。チームを数多の勝利に導いてきた各投手が、今季も白熱の投球を見せてくれることに期待したいところだ。
文・望月遼太
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