就任5年目に何を思うのか? 指揮官の本音を届ける月連載
球春到来。今年も2月1日からNPB12球団が一斉に春季キャンプをスタートさせた。新型コロナウイルス感染防止対策を十分にはかりながら、2年ぶりに行われる有観客開催。活気を取り戻しつつあるキャンプ地の様子からも、ファンの今季への期待感がうかがえる。
昨季は惜しくも141試合目でリーグ優勝を逃した千葉ロッテは、沖縄・石垣島で1次キャンプの真っ只中。10日からの第3クールを終えると、1軍は沖縄本島へ移動し、練習試合とオープン戦による実戦調整を始める。
2年連続でリーグ2位につけながら、あと一歩が遠かった。今年こそあの悔しさを晴らすべく、掲げたチームスローガンは「頂点を、つかむ。」。不退転の決意を端的に言い表したスローガンを胸に戦う2022年シーズンに向けて、井口資仁監督は何を思うのか。
今季もFull-Countでは月連載シリーズとして、就任5シーズン目となる井口監督の心の内を真っ直ぐにお届けしていく。
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今年もキャンプが始まりました。石垣島は例年より気温が低く、なかなかスッキリ晴れませんが、チームは順調に第2クールまで終えました。選手1人ひとりはもちろん、チームとしての大きな活気を感じています。
選手たちは皆、とてもいい状態でキャンプインを迎えてくれました。若手にはそれぞれ、冬の課題として筋量の目安やトレーニングで目標とすべき数値を与えていましたが、それが中堅以上の選手にもいい刺激になったようです。2019年にはキャンプ初日に紅白戦を行いましたが、2月1日から試合ができる体に仕上げてくることが、今ではチームとして当たり前。今年も初日から投内連係やシートノックなど難なくできる点に、チームとしての成長を感じます。
中村奨吾、藤岡(裕大)といった中堅が昨年以上に精力的に動いていますし、若手は秋季キャンプで取り組んだことのレベルを少しも落とさずに継続できている。冬場にしっかり動いてきた様子がうかがえますし、ここまで大きな怪我人が出ていないことは大きいですね。
今季キーポイントの1つは「チームプレーの精度」
2022年、我々が目指すものは1つしかありません。「優勝」です。今季のチームスローガンは「頂点を、つかむ。」。河合(克美)球団社長をはじめ、いろいろな方とスローガンを決めるための話し合いをさせていただいた時、「今年はこれしかないだろう」と全員の想いが一致しました。選手とファンの皆さんにしっかりと思いが伝わるものにしたい。そして、昨年あと一歩で届かなかった悔しさや、我々だけではなくファンの皆さんも感じている。なので、「つかみ取る」ではなく「つかむ」という短い言葉で想いの強さを表しています。
シーズン最終盤まで優勝を争いながら141試合目で逃した悔しさを、僕はまだ消化してはいません。この悔しさは消化せずに持ち続けなければいけないもの。それが今年の原動力になるわけです。僕は悔しいという気持ちの中には、自分を成長させるための前向きな要素が詰まっていると思います。選手たちもあの悔しさを絶対に忘れてはいけないし、リセットしてはいけない。昨年の経験を生かしてこその今シーズン。悔しさと同時に、最後まで優勝争いできる力がついたという自信は大きな収穫でした。
昨年は若手選手たちが1軍での経験を積みながら、中堅、ベテランとの上手く融合する中で優勝争いができました。そこから先に進むには、今年は若手が結果を残さなければいけません。ある程度は我慢して成長を見守る姿勢も必要ではありますが、今年は若手にしっかり結果を求めさせていきます。キャンプではA班に若手を多く抜擢したことで、中堅の尻に火が着き、いい意味での競争が生まれています。まだ、誰もレギュラーは確定していませんから、開幕まで大いに争ってもらいたいものです。
選手個々のレベルアップを図ることはもちろんですが、今年はチームプレーの精度を上げることも1つのキーポイントだと考えています。キャンプイン前日のミーティングでも全員に伝えました。牽制プレーや投内連係、外野からの中継プレーなど守備だけではなく、打撃でも点ではなくて線、面として畳みかけられるか。そこが徹底できずに落とした1勝2勝が、優勝できなかった原因だと考えています。勝てるはずだったのに……という試合は極力減らさなければいけません。
キャンプイン前日のミーティングでは、目標設定の仕方についてアドバイスを送りました。選手がそれぞれ掲げた今シーズンの目標をどうやって実現させるのか。1年を通じての大きな目標を自分なりに少し噛み砕いて、半年、1か月、あるいは1週間という単位の小さな目標に変換してみるといいと思います。小さな目標をクリアし続けた結果、大きな目標が達成できているという流れです。シーズン中には必ず迷う時があります。そんな時でも自分のクリアできそうな範囲に目標を置いておけば、自分がやるべきことが見えてくるし、ブレることはありません。
新人離れした吸収力と対応力を持つ松川「何の違和感もなくドッシリ」
第2クールを終えて、野手では山口航輝、和田康士朗の動きが非常にいいと思います。特に康士朗はバットのスイングが非常に強くなりました。相当練習してきたようです。投手陣は、今年から木村龍治投手コーチが加わったことがいい刺激にもなっているようです。改めてアピールしなければいけないですから。また、木村コーチはトレーニングコーチの経験もあるので、投手コーチ+トレーニングコーチという両方の観点から勝つための練習メニューを提案してくれる。体のことも考えながら、選手の限界ギリギリを攻める内容にしてくれています。
そんな中、やはり(佐々木)朗希の状態は目を見張るものがあります。ブルペンでは初回からかなり飛ばしていましたが、昨年より筋量も体重もかなり増えましたし、自信と責任感を持った顔になってきました。オフの間も1日も欠かさず野球のことを考えていたようです。本人は開幕ローテ入りが目標だと言っているようですが、それは最低限の話。先発ローテーションを1年守る中でどれだけのピッチングを見せてくれるのか。そこを楽しみにしています。
もう1人、目に留まったのが松川虎生ですね。高校生ルーキーなのにキャンプイン初日から何の違和感もなくドッシリとチームに馴染んでいる。スイングも安定しているし、右中間にしっかり打てるタイプ。いろいろな意味で引けを取らない頼もしさがあります。投手への声の掛け方や投内連携での指示の出し方もいいし、コーチからアドバイスを受けると翌日にはしっかり修正されている。吸収する能力や対応力が非常に高い選手ですね。こういう選手は高いレベルを経験させると伸びていくタイプ。そういった点も考慮しながら、どうやって育てていくか考えていきたいと思います。
松川が加わったことで、今年はキャッチャー陣にいい競争が生まれそうです。昨年は田村(龍弘)が怪我で離脱した間、柿沼(友哉)がその穴を埋め、トレードで加藤(匠馬)が移籍してきた。打撃のいい佐藤都志也もいます。どんな争いになるのか楽しみですね。
キャッチャーだけではなく、野手も投手もまだポジションはすべて白紙です。ある程度の構想は頭の中にありますが、キャンプが進むにつれ、印象は大きく変わりつつあります。15日から沖縄本島で実戦が始まりますが、中堅やベテランが本格的に加わってくる前に、若手がどれだけアピールできるか。「中堅やベテランが来る前にポジションを取ってしまえ」とハッパを掛けていますが、第3クールで何を見せてくれるのか、期待感しかありません。
ファンの皆さんにも、今年は期待を持っていただきたいと思います。ファンの皆さんとも一緒に「頂点を、つかむ。」という目標だけを目指していきたい。おそらく「いよいよこういう年が来たか」という想いと「そろそろ行けるだろう」という想いがあると思います。その両方の想いに応えられるよう、我々はしっかりといい準備を重ねていくのみ。期待していてください。
(佐藤直子 / Naoko Sato)
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