引き分けの増加は2021年シーズンをどう変えた? 2010年以降の数字からその影響を考える

パ・リーグ インサイト 望月遼太

2022.2.9(水) 07:00

京セラドーム大阪(C)ORIX Buffaloes
京セラドーム大阪(C)ORIX Buffaloes

引き分けの多いシーズンは過去にも

 社会情勢の変化に伴い、野球界に生じた大きな変化は、ペナントレースすらも変化させていた。2020年シーズンに延長イニングが従来の12回から10回に短縮されたことに続き、2021年には延長戦自体を取りやめ、9回打ち切りというルール変更がなされた。

 このような措置が取られたのは、昨季が初めてではない。2011年と2012年においても、東日本大震災に伴う電力節約のための措置として、「試合開始から3時間30分が過ぎた後に、新たな延長イニングに入らない」という、俗に「3時間半ルール」と呼ばれた施策が行われていた。

 数字の面でも、2011年と2012年は先述のようなルールの変更が影響してか、他の年に比べて引き分けの数が多かった。しかし、2021年シーズンはその2シーズンと比べても、引き分けの数がより多くなっていた。昨季の全日程終了時の順位表は以下の通り。

2021年パ・リーグ順位表(C)PLM
2021年パ・リーグ順位表(C)PLM

 6球団すべてが15以上の引き分けを記録する、まさに歴史的な引き分けの多さだった。10回打ち切りだった昨季は、120試合制ということを勘案しても、8引き分けが最多と極端に多い数字ではなかった。そのため、わずか1イニングのこととはいえ、延長戦の取りやめは数字の面でも非常に大きな影響を及ぼしていたといえる。

 そこで、今回は、2010年以降のパ・リーグにおける各順位ごとのチーム成績を、それぞれ表にして紹介。引き分けの多かった年とそうでない年ではどんな変化が生じていたのか、実際の数字をもとに見ていきたい。

1位

2010年以降のパ・リーグ勝率1位球団(C)PLM
2010年以降のパ・リーグ勝率1位球団(C)PLM

 10試合の引き分けがありながら88勝を積み上げた2011年の福岡ソフトバンクは、144試合中98試合が引き分け以上という驚異的な安定感を発揮。敗戦数46は直近10年間では最も少なく、勝率.657という数字も2017年と並んで最高タイだった。

 また、2012年の北海道日本ハムは11個の引き分けを記録し、試合数が24試合少なかった2020年の福岡ソフトバンクと勝利数がほぼ変わらず。勝率も2010年の福岡ソフトバンクに次いで下から2番目と、数字の面ではやや低い水準となった。ただ、敗戦数は他の年と比べても極端に多いとは言えず、「負けないこと」がリーグ優勝をもたらしている。

 2020年の福岡ソフトバンクは143試合換算でも引き分けの数が6試合と、他のシーズンに比べてもさほど多くはなく、勝率も.635と十分に高い水準だった。しかし、昨季のオリックスは引き分けが18個と極めて多く、勝利数も過去12年間で最少。それでも最終的な勝率は.560と極端に低くはなく、2012年の北海道日本ハムと同様に、引き分けを効果的に優勝へとつなげている。

2位

2010年以降のパ・リーグ勝率2位球団(C)PLM
2010年以降のパ・リーグ勝率2位球団(C)PLM

 パ・リーグではシーズン終盤まで激しい優勝争いが演じられることが多く、中には2016年の福岡ソフトバンクのように、勝率.600を超えながら優勝を逃すケースも存在。80勝以上を記録しながら2位に終わったチームも2014年以降の8年間で3度存在しており、シーズンによっては優勝していてもおかしくない成績だった2位チームは少なくない。

 そんななかで、2011年の北海道日本ハム、2012年の埼玉西武はともに72勝と、2019年までの2位チームの中では最も少ない数字に。また、2011年のファイターズは勝率の面でも期間内で最も低い数字であり、2012年も下から3番目。やはり、引き分けの多さが、順位の面で好成績を収めたチームの勝率にも影響していたと考えられる。

 しかし、2020年と2021年の千葉ロッテはともに勝利数が60台と、先述した2シーズン以上に少なくなっていた。ただ、最終盤まで優勝を争った2021年は引き分けの数が19と多い一方で、敗戦数は57と表内で2番目に少ない数字だった。同年のオリックスと同様に、そう簡単には負けない戦いを続けていたことが、優勝争いにもつながっていたと考えられる。

3位、4位

2010年以降のパ・リーグ勝率3位球団(C)PLM
2010年以降のパ・リーグ勝率3位球団(C)PLM

 2010年以降のパ・リーグにおいては、シーズン負け越しでAクラスに入ったチームは1つも存在していない。そんな中で、2011年の埼玉西武は勝ち越しが1つ、2012年の福岡ソフトバンクは勝ち越しが2つと、揃って5割ラインギリギリの成績で3位に入っていた。

 また、2020年の埼玉西武は勝率.500と、唯一勝ち越しなしでAクラスに。そして、2021年の東北楽天は勝率こそ.516と一定の数字を残したが、66勝という数字は143試合以上のシーズンでは最少だった。やはり、引き分けが多くなりやすいルールが導入されたシーズンは、3位のチームに関してもそれぞれ特異な傾向が出ていたといえよう。

2010年以降のパ・リーグ勝率4位球団(C)PLM
2010年以降のパ・リーグ勝率4位球団(C)PLM

 一方で、惜しくもAクラス入りを逃した2011年のオリックスと2012年の楽天も、ともに勝率5割以上を記録。2011年のオリックスは勝利数では3位を1つ上回っており、2012年の楽天は3位と勝利数が同じだった。ただ、両チームともに3位とは引き分けの数がそれぞれ2つずつ少なく、引き分けに持ち込めた試合が僅かに少なかったことが明暗を分けている。

 一方で、2020年の東北楽天と2021年の福岡ソフトバンクは引き分けの数こそ3位チームよりも多かったものの、それぞれ勝率は.500未満だった。2011年と2012年のケースとは逆に、負け越してしまったことにより、引き分けの多さがマイナスに働いてしまったといえる。

5位、6位

2010年以降のパ・リーグ勝率5位球団(C)PLM
2010年以降のパ・リーグ勝率5位球団(C)PLM

 2012年に5位に沈んだ千葉ロッテはリーグ最多の15個、2021年の北海道日本ハムはリーグ最多と1個差の20個と、ともに非常に多くの引き分けを記録していた。順位が低いということは、チーム自体が上手く機能していたとは言い難いはずだが、それでもこれだけ多くの試合を引き分けに持ち込めているという点が、この2シーズンの環境を象徴している。

2010年以降のパ・リーグ勝率6位球団(C)PLM
2010年以降のパ・リーグ勝率6位球団(C)PLM

 また、残念ながら最下位に沈んだ2011年の千葉ロッテ、2012年のオリックス、2021年の埼玉西武も、それぞれ10個以上の引き分けを記録。その影響もあり、2011年の千葉ロッテが記録した54勝という数字は、勝率が.300台と大苦戦を強いられた2017年と同数に。2021年の埼玉西武が記録した55勝もそれに近い数字であり、引き分けの多い環境下では、得失点のバランスが崩れた下位チームほど厳しい成績に直面していた。

優勝チームはいずれも、引き分けが多い中で試合巧者ぶりを発揮

 2011年と2020年の福岡ソフトバンクは引き分けの多さも含めて高い勝率を記録し、2012年の北海道日本ハムと2021年のオリックスは、勝利数こそほかの年の優勝チームより少なかったものの、引き分けによる勝率の維持を効果的に生かした。優勝チームはいずれも、引き分けをうまく結果に結び付けていたことがわかる。

 また、2011年、2012年、2020年と、4シーズン中3シーズンが勝率.500近辺の争いとなったAクラス争いにおいても、引き分けの数が3位と4位の差に直結していた。勝率が高いチームのみならず、勝ち負けがほぼ同数のチームにとっても、勝ちでも負けでもないという、「引き分け」という結果が持つ価値は大きくなっていたといえる。

 2011年、2012年、2020年といったほかの引き分けが多かったシーズンに比べても、2021年は非常に特異なシーズンだったといえる。2021年シーズン、勝てずとも引き分けに持ち込む試合運びを見せて上位に入ったチームが、2022年シーズン以降もその時々のルールに応じて試合巧者ぶりを発揮するか。2022年シーズンは延長12回までの実施に向けた調整が行われているが、コロナウイルスの感染拡大で、まだまだ予断を許さない状況ではあるだろう。こうした状況に応じた変化といった要素も、ペナントレースを占う上では、重要なファクターとなってくることだろう。

文・望月遼太

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パ・リーグ インサイト 望月遼太

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