36歳にして最多安打・盗塁王の2冠に。荻野貴司の打撃に見られる「進化」とは?

パ・リーグ インサイト 望月遼太

千葉ロッテマリーンズ・荻野貴司選手【撮影:丹羽海凪】
千葉ロッテマリーンズ・荻野貴司選手【撮影:丹羽海凪】

故障を克服し、ついに自身初の全試合出場を達成

 2021年、千葉ロッテの荻野貴司選手が最多安打と盗塁王の2冠に輝いた。荻野貴選手はプロ入り当初から、抜群の脚力を活かしたスピード感のあるプレーで大きなインパクトを残していた。だが、毎年のように故障によって戦列を離れる時期があり、その能力をフルに活かせない時期が続いていた。

 しかし、近年は故障離脱が減少し、2021年には143試合全てで1番打者として出場。ついにその高い能力を発揮できるようになりつつある荻野貴選手だが、故障が続いていた時期に比べ、選手としての特性にも少なからず変化がみられることにお気づきだろうか。

 今回は、そんな荻野貴選手の年度別成績や各種指標に加えて、盗塁成功率や内野安打数といった数字を紹介。それらの情報から見えてくる、荻野貴選手の変化について見ていきたい。

長年ケガに苦しめられてきたが、近年はその傾向に変化が見られる

 まず、荻野貴選手の年度別成績について見ていきたい。

荻野貴司選手年度別成績(C)PLM
荻野貴司選手年度別成績(C)PLM

 荻野貴選手はルーキーイヤーの2010年序盤に2番打者として鮮烈な活躍を見せたが、5月に負ったケガで残りのシーズンを棒に振ることに。続く2011年も再び5月に故障し、残りシーズンは全休となった。その後も出場した試合では高い能力を発揮していたものの、なかなか故障による負の連鎖を脱出できずにいた。

 しかし、背番号を「0」に変更した2017年から、徐々に風向きが変わり始める。同年は序盤戦こそ不振で二軍調整を強いられたものの、一軍復帰後は好調を維持してスタメンを奪回。プロ入り後初めて、故障による離脱を経験せずにシーズンを戦い抜いた。

 続く2018年には開幕から1番打者に定着したものの、7月の打席でスイング中にボールを右手に当て、残りのシーズンを棒に振ることに。それでも、故障が癒えた2019年には再び一番打者として活躍。腰痛による短期間の離脱こそあったものの、自身初の規定打席に到達し、打率.315という好成績を記録。ベストナインとゴールデングラブ賞もそれぞれ初受賞する、充実のシーズンを送った。

 翌2020年も引き続きトップバッターとして躍動したが、故障やコロナウイルス感染の影響で出場試合数は減少。捲土重来を期して臨んだ2021年、ついにキャリア初となる全試合出場を果たし、それぞれ自身初の最多安打と盗塁王も受賞。2年ぶり2度目となるゴールデングラブ賞も受賞し、不動の主軸として力強くチームをけん引した。

元々は三振も四球も少ないタイプだったが、近年はより指標が良化

 続けて、荻野貴選手がこれまでに記録した各種の指標についても確認しよう。

荻野貴司選手年度別指標(C)PLM
荻野貴司選手年度別指標(C)PLM

 2018年までの9年間で出塁率.350を超えたのは2度のみと、かつてはそれほど四球を選ぶタイプではなかった。しかし、2019年以降は出塁率が3年連続で.367を上回っているだけでなく、四球率も2019年以降は目に見えて向上し、直近の2年間は.800を超える水準に。IsoDも2年続けて.070以上と、近年に入ってから、リードオフマンとしての適性がさらに高まりつつある。

 また、荻野貴選手は四球は多くないが三振も少ない、いわゆる早打ちの選手でもある。現在に至るまでその傾向は続いており、三振率は12シーズン中7度にわたって10%未満と、かなり優れた水準にある。俊足の荻野貴選手は相手守備にプレッシャーをかけられる存在でもあるため、三振の少なさは、選手としての適性にもマッチしていると考えられる。

 先述した三振も四球も少ないという特性はBB/Kにも影響しており、BB/Kが1.00を超える、すなわち三振数を四球数が上回った年も3度存在。そんな中でも、近年は四球が増加したこともあり、3年続けて.710以上とBB/Kが向上している。こうした点からも、荻野貴選手の打者としての成熟ぶりがうかがえるところだ。

 加えて、荻野貴選手はバットを短く持つスタイルながら、2019年と2021年に2桁本塁打を記録するなど、近年は長打力も増しつつある。出塁率に加えて長打率も上がったことにより、打者としての能力を示す指標となるOPSも改善。2015年から2017年までは3年連続でOPSが.600台だったが、2019年以降は3年連続で.750を超え、規定打席に到達した2019年と2021年は、いずれも.800前後の数字を記録している。

かつては圧倒的な盗塁成功率を誇っていたが……

 ここからは、荻野貴選手が記録した盗塁数と、盗塁成功率について触れていきたい。

荻野貴司選手年度別盗塁成績(C)PLM
荻野貴司選手年度別盗塁成績(C)PLM

 荻野貴選手の最大の持ち味と言えば、なんといってもその圧倒的な脚力だろう。度重なる故障によって出場試合数が50試合を下回ったシーズンも3度ありながら、プロ初年度から12年連続で2桁盗塁を記録。盗塁成功率が非常に高いことも特徴であり、通算盗塁成功率は一般的にセイバーメトリクスで損益分岐点とされる、.700という水準を大きく上回っている。

 しかし、2017年以前は8年間全てで盗塁成功率が.810を上回る驚異的な精度を誇っていたが、2018年以降は4年中3年で盗塁成功率.700台以下と、ベテランの域に差し掛かってからはその成功率に陰りがみられる。特に、2021年は自身初の盗塁王に輝いたものの、盗塁成功率はキャリアで初めて.600台に落ち込んでいるのは気がかりだ。

持ち前の俊足は、盗塁以外の面においてより活かされるように

 最後に、2015年以降の内野安打数と、安打の中に占める内野安打の割合を「内野安打数÷安打」で求めた数値を、以下に紹介したい。

荻野貴司選手内野安打成績(C)PLM
荻野貴司選手内野安打成績(C)PLM

 盗塁成功率は2021年に大きく低下した荻野貴選手だが、内野安打に関しては真逆の傾向が示されている。2015年以降は内野安打率が年々低下していき、2020年は.0508と非常に少なくなっていた。しかし、2021年は内野安打率が大きく上がり、安打数全体の15%近くを内野安打が占めていた。

 俊足の選手が多くの内野安打を記録している場合、いわゆる「走り打ち」の傾向があるとして懸念されることも少なくはない。しかし、2021年の荻野貴選手は2桁本塁打を記録し、二塁打と三塁打もそれぞれリーグ上位5傑入り。力強く振り抜く打撃を維持したうえで、活かすべきところで持ち前の俊足を活かしていると言えそうだ。

 また、荻野選手は2020年までセンターを主戦場としていたが、現在は主な守備位置をレフトに移している。新人時代の2010年には圧倒的な守備範囲とアクロバティックなプレーでインパクトを残したが、現在は当時のようなアグレッシブな守備を見せる機会は減少しつつある。

 それでも、今季はレフトとして瞬発力や球際の強さを活かし、幾度となく好守を見せてチームを救ってきた。外野手としては12球団最多の得票数でゴールデングラブ賞を受賞した事実が、その守備力が広く認められていることを示してもいる。こちらにおいても、かつてとは違った形で、持ち前の高い野球センスを発揮していると言えるだろう。

故障の克服だけでなく、打者としての成熟が好成績につながっている

 今回紹介した各種の指標にも表れている通り、30代半ばに差し掛かりつつあった時期から、荻野貴選手は打者としての完成度をさらに高めつつある。その脚力が盗塁だけでなく内野安打にもより活かされるようになったように、身体能力が若手時代には及ばない中でも、攻守にプレースタイルを少し変化させながら、成績そのものを向上させているのが出色だ。

 それでいて、決して脚力頼みの打撃スタイルに転換したわけではないことは、出塁率と長打率の双方が向上を見せている点に示されている。故障の減少と打者としての成熟が重なり、荻野貴選手の高い野球センスが存分に発揮できるようになったと言えよう。

 リードオフマンにとっての勲章である最多安打と、俊足選手にとっての勲章である盗塁王を、ともに獲得した荻野貴選手。2021年10月に36歳を迎えたが、まだまだ選手としての成長を続けている点は驚異的と言える。飽くなき進化を続ける万能の韋駄天の活躍からは、来季以降も決して目を離すことができなさそうだ。

文・望月遼太

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