プロ野球選手は足においてもアスリートである
あらためていうまでもないが、プロ野球選手は国内屈指のアスリートである。
スタジアムでは、速い球を投げるピッチャーがいて、それを力強く打ち返すバッターがいる。それぞれ、“力=パワー”を感じさせるイメージが強いが、“スピード”でファンを驚かせる選手たちもいる。
今回は、そんなスピードの魅力を知ることができる二塁打に着目し、打ってから二塁ベースに到達するタイムのランキングが登場。東京オリンピック開催によって中断していたペナントレースが、再び始動した8月13日から9月12日までの1カ月におけるパ・リーグトップ5を紹介していこう
外野手転向で能力を生かした岡島豪郎選手(東北楽天)
まず、5位はプロ入り10年目の岡島豪郎選手(東北楽天)がランクインした。今年で32歳になる岡島選手だが、元々は捕手として東北楽天に入団。打力と身体能力を生かすために外野手に転向。途中、故障や不調で控えやファームで過ごした時期もあり、2019年には一度捕手登録に戻したこともあったが、今年から再び外野手登録になると、打撃好調でライトのポジションを確保している。
岡島選手のセールスポイントは、何歳になっても若い選手に見劣りしないアグレッシブで躍動感あふれるプレーにつきる。
ランクインした二塁打の二塁到達タイムは7秒77。上沢直之投手(北海道日本ハム)が投じた内角高めのストレートをライト線へ打ち返したときのものだが、目一杯振り切ったため、走塁のスタートは少し遅れた。
ところが、ライトの選手がライン際のゴロをフェンス近くで捕球している頃には、すでに一塁を回って二塁へ向かっており、そこで「行ける」と思ったのか、さらに加速して二塁へ。途中、軽く流しているかのような走り方だったにもかかわらず、あっという間にたどり着き、余裕のスライディングで二塁打にした。
このスピードこそが、岡島選手の魅力と言っていいだろう。
茂木栄五郎選手(東北楽天)の好タイムは打球判断にあり
5位の岡島選手を0秒02ほど上回る7秒75のタイムで4位に入った茂木栄五郎選手(東北楽天)の一打は、タイムだけでなくシチュエーションも岡島選手に似たものだった。
茂木選手もほぼフルスイングしていたため、走塁の出足はあまり良くはなかった。しかし、ライトのマーティン選手(千葉ロッテ)がライト線の打球に追いつく間に一気に二塁へ向かい、楽勝で二塁打にしてみせた。
実は、このプレーには茂木選手の優れた打球判断があったからこそ二塁打にできた可能性が高い。
ライトのマーティン選手は強肩で知られる元メジャーリーガーゆえに、フェンス付近のかなり深い位置で捕球したとはいえ、後ろに抜けていない打球に対して二塁を狙うのには度胸がいる。マーティン選手の肩を警戒して一塁でストップするのが一般的な選手の判断だろう。
だが、茂木選手はマーティン選手が捕球した位置や体勢から正確に二塁ベースには戻ってこないと読んで、躊躇せずに二塁に向かったものと思われる。
そこには、マーティン選手が右投げの選手で、ライト線の打球に追いついた場合には、一度大きく回転してからでないと送球できないというタイムロスも頭に入っていたはずだ。
元々、足の速い茂木選手ではあるが、そうした判断力があるからこそ迷いなく走り切ることができて、好タイムにつながったとみている。
1年目からランクインの有望株・来田涼斗選手(オリックス)
ここでオリックスの、いや、いずれはパ・リーグを代表する外野手に成長するかもしれない新星が登場。
その名は、来田涼斗選手。明石商業高校出身で、2019年春のセンバツでは、当時2年生ながら1試合に先頭打者本塁打とサヨナラ本塁打を記録して一躍注目をあびた華のある「柳田悠岐タイプ」の外野手である。期待はしていたが、まさか1年目から一軍に昇格し、7秒72というタイムで3位に入賞してくるとは思わなかった。大器の片鱗をみせつけてきた格好だ。
しかも、このときの走塁はスライディングすることなく二塁にたどり着いたスタンディングダブルである。好タイムを出していながらまだ余裕がある状態であり、それはそのまま来田のこれからの「伸びしろ」と置き換えていいだろう。
スライディングをして二塁に到達したときは、どのくらいのタイムを記録するのか? 来田選手の今後の二塁打も目が離せそうにない。
2位西川遥輝選手(北海道日本ハム)は感性の男?
7秒71で来田とわずか0秒01差ながら2位になった西川遥輝選手の(北海道日本ハム)走塁もすごい。
何がすごいかというと、トップスピードに乗るまでが速い。加速の素晴らしさ、身体能力の高さが驚異的であることが、このタイムを記録したときの走塁からみてとれるのだ。
どういうことかというと、西川選手が放った三塁線を抜くゴロは、一塁を回った時点ですでにレフトの吉田正尚選手がほぼ追いついていた。それにもかかわらず、西川選手はそこから二塁へ向かう判断をしてギアを上げ、レフトから二塁へ送球が届くまでのわずかの間に一気に二塁に到達。ギリギリではあったが、二塁を奪いとっているのである。
実は、こういうプレーは評価するのが大変難しい。
西川選手は一塁を回った直後は二塁に行くことをあまり考えていなかった様子で、その後、瞬時に「いける」と踏んで急遽猛烈に走り出して二塁に向かっていた。それを、「打球判断が卓越」と述べるべきかどうか悩んでしまうのだ。
でも、「プロは結果がすべて」という見方もある。普通ならばヒット止まりの打球で二塁打にしたのだから、ナイスランなのは間違いない。
さらにいえば、あの一瞬で、レフトの捕球位置、捕球体勢、送球能力と自分の走力を比較して確信を持ってギアを上げたのであれば、それはやはり「好判断」と断言すべきだろう。
ましてや盗塁王を3度獲得している足のスペシャリスト・西川選手である。やはり、ここは「いける」と判断してからの加速のすばらしさを全面的に評価し、大いに称えたいと思う。
番外編 10秒71 森友哉(埼玉西武)
恒例の番外編は、計測中もっとも遅いタイムを記録した森友哉選手(埼玉西武)が登場する権利を見事に引き当てた。
一応、森選手に代わってこのプレーについて弁解すると、森選手は打球が切れて「ホームランになるか? ファウルになるか?」しか考えていなかったようである。
それが、ファウルにならず、外野フェンスの上端付近で跳ねてフェアになってしまったので、慌てて一塁を回って二塁へかけ込み、二桁のタイムになってしまったというわけだ。
実は森選手は全力で走らせると、決して鈍足ではない。韋駄天が揃うプロ野球の世界ではさすがにトップクラスとはいかないが、まともに走っていれば8秒台程度で走れるだろう。
次に機会があるときは、普通に走って二塁打にしたときの走塁をぜひみてみたい。
1位は走塁タイムランキング常連の「たまらん」あの人
栄えあるランキング1位に輝いたのは、源田壮亮選手(埼玉西武)の7秒50というタイムだった。源田選手は、走塁関係のタイムランキングではまさに常連中の常連。もはや、「まいど!」とお迎えしたくなるほどである。
そして、1位を記録したときのプレーは、まさに源田選手らしい走塁であった。右中間へのライナー性の打球をライトが回り込んで捕球するすきを見逃さず。ほとんど減速することなく一塁を回って一気に二塁へスライディング。途中からは、やや余裕すら感じられる走りで7秒50というタイムを出してしまった。
このタイムに至ったのは、打ってから減速することなく走りきったことが一番の要因だろう。ひとつでも先の塁を奪おうとする姿勢があるからこそできることで、それが単打から長打を生み出す錬金術になる。そんなお手本のような走塁が1位になったのは、ある意味必然の結果だったのかもしれない。
二塁打のときは打者走者に注目を
以上、二塁到達タイムTOP5を紹介したが、今回はランキングに福岡ソフトバンクと千葉ロッテの選手が入っていなかった。1カ月間限定の計測なので、めぐり合わせ次第で選手の名前が変わってくるのはやむを得ないことだろう。
福岡ソフトバンクには現在離脱中の周東佑京選手や牧原大成選手、千葉ロッテには荻野貴司選手や和田康士朗選手といった足だけでもメシが食える選手もいるし、次に機会があるときにはどんな選手が登場するだろうか?
それを楽しみに二塁打のシーンをみるのも、また一興というもの。二塁打のときは、打球だけでなく、走っている打者走者にもぜひ注目してみてほしい。
文・キビタキビオ
パ・リーグの2塁打到達時間TOP5 動画はこちら
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