移籍期限最終日の8月31日、元広島東洋カープの小窪哲也選手が、千葉ロッテに入団することが発表された。小窪選手にとっては、およそ半年以上ぶりのNPB復帰となった。
初出場でいきなり本塁打を放つ豪快デビュー
千葉ロッテ入団後、小窪選手はファーム4試合で打率.385と結果を残し、9月9日のオリックス戦で昇格即スタメン出場を果たす。そして7回の第3打席、移籍後初安打が本塁打に。新天地でのデビュー戦から、強烈なインパクトを残した。
その後、チームは9回の荻野貴司選手の同点本塁打によって、敗色濃厚の試合を引き分けに持ち込んでいる。首位攻防戦という重要な局面で、反撃ののろしを上げる小窪選手の一発は、価値あるものだったと言えるだろう。
今回は、そんな小窪選手の過去の経歴や、広島時代に発揮した長所に加え、千葉ロッテの現在のチーム事情に基づき、小窪選手に求められる役割を紹介。勝利の味を知るベテランが若いチームにもたらすものについて、あらためて考えていきたい。
2009年には正遊撃手の座に大きく近づいたものの……
まず、小窪選手が広島時代に記録した年度別成績について見ていこう。
小窪選手はPL学園高校、青山学院大学を経て、2007年の大学生・社会人ドラフト3巡目で広島に入団。1年目の2008年は、正遊撃手だった梵英心氏の不振もあって、遊撃手としての出場が多かった。時には二塁手や三塁手も務めつつ、随所でガッツあるプレーを披露。クライマックスシリーズ進出を争うチームにあって、新人ながら存在感を発揮した。
続く2009年は、出場機会こそ減らしたものの、打率.295、出塁率.371と、守備の負担が大きい遊撃手としては十分に優れた成績を記録。正遊撃手に大きく近づくシーズンとした。
続く2010年はレギュラー獲りの期待も大きかったが、監督交代を機に梵氏が完全復活を果たし、全試合に出場して打率.306、43盗塁で盗塁王のタイトルも獲得したことで大きく風向きが変わる。自身の不振に加えて、三塁手としてもベテランの石井琢朗氏が打率.318と復活しており、一度は近づいたレギュラーの座は、残念ながら遠のいてしまった。
スーパーサブ、まとめ役としてチームに欠かせない存在に
それでも、内野の全ポジションをこなすユーティリティ性と、一定以上の打力を持つ小窪選手の特性は、スーパーサブに適したものだった。チーム事情に応じて与えられた役割をこなし続け、2014年には代打打率.389と大活躍。続く2015年にも代打打率.380と抜群の成功率を維持し、勝負強い代打の切り札として新境地を開拓した。
2015年オフにFA権を取得したが、残留を選択し、2016年からは選手会長に就任。成績は過去2年に比べて不振だったものの、PL学園高校、青山学院大学とアマチュアの名門でキャプテンを務めた経験を活かしてチームを引っ張り、25年ぶりのリーグ優勝に貢献。2017年もリーグ連覇を達成し、選手会長として臨んだ2年間でともに優勝を果たした。
2018年には、17試合の出場ながらも打率.308と復活の兆しを見せたが、若手の台頭もあって出場機会は減少。わずか3試合の出場に終わった2020年オフ、球団から指導者としての道を打診されるも、現役続行を希望して固辞、退団を発表した。退団が決まっている11月11日の中日戦では代打で出場。シーズン初安打となる惜別の一打を放ち、13年間を過ごした広島のユニフォームに別れを告げた。
そして2021年6月に九州アジアリーグの火の国サラマンダーズに入団し、打率.421と圧巻の成績を残す。その活躍が認められ、移籍期限ぎりぎりの8月31日に千葉ロッテが獲得を発表する運びとなった。
現在好調の千葉ロッテだが、代打の層はかなり手薄
先述の通り、小窪選手は2014年、2015年と2年連続で代打打率が.380以上を記録。勝負所での代打として、抜群の数字を残した実績を持つ。2016年以降は、代打成功率がやや落ち込んでいたが、2018年は年間打率.308、2019年は同.246という成績で、ベテランになってからも一定の存在感を示していた。
そして、今季の千葉ロッテは代打の層がかなり手薄となっている。現チームの主な代打・指名打者要員の顔ぶれと、その打撃成績は下記の通りだ。
中でも、チームの4番打者として活躍した経験を持つ井上晴哉選手の不振が痛いところ。若手の山口航輝選手はスタメンとしての出場機会も増えているが、ベンチスタートの際には右の代打の一番手となる。スーパーサブとして幅広い起用に応えている岡大海選手は打撃の波が激しく、代打よりも代走や守備固めとしての起用が多くなっている。
左打者の中では、角中勝也選手に期待をかけたいところだが、シーズンの代打打率は.091と芳しくない。菅野剛士選手、鳥谷敬選手、佐藤都志也選手、福田秀平選手といった左打者たちも揃って結果を残せておらず、代打の期待値は低いと言わざるを得ない。
小窪選手自身も9月27日時点で打率.071と苦しんでいるが、入団後に立った15打席のうち12打席がスタメン出場だった。過去に実績のある代打としての起用が増えてきた際に結果を残すことができれば、代打不足に悩むチームの助けとなるだろう。
小窪選手のキャプテンシーは、優勝に向けたラストピースとなるか
小窪選手は、長年キャプテンや選手会長などのまとめ役を務めてきた経験を持つ。昨季、高いプロ意識を持つ大ベテランの鳥谷選手の加入がチームの2位躍進に寄与しており、小窪選手にもそれに近い役割が期待されるところだろう。
現在の千葉ロッテのメンバーで、レギュラーとしてNPBでリーグ優勝を経験したことがある選手は、小窪選手に加えて、鳥谷選手(2005年・阪神)、美馬学投手(2013年・楽天)、レアード選手と岡選手(2016年・北海道日本ハム)、福田選手(2010年、2011年、2015年、2017年・福岡ソフトバンク)の6名だ。
鳥谷選手と福田選手は現在一軍に帯同していないため、「勝ち方」を知っている小窪選手の存在は、若手の多いチームにとって大きな意義を持つ。実際の数字を見ても、小窪選手が一軍昇格して以降のチームは9勝4敗2分と、好調が続いている点は見逃せない。
代打としての実績に加え、豊富な勝利の経験という無形の財産を持つ小窪選手。優勝争いを勝ち抜くうえで、その存在が若きチームにどのような化学反応をもたらすか。ベテランがグラウンドやベンチで見せる一挙手一投足にも、ぜひ注目してみてはいかがだろうか。
文・望月遼太
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