14試合で2勝9ホールド1セーブと、ほぼ全ての登板で役割を果たしている
8月から幕張にやってきた剛腕は、優勝争いを続けるチームへ瞬く間に溶け込み、ブルペンに欠かすことのできないピースとなりつつある。国吉佑樹投手が後半戦から千葉ロッテのセットアッパーに定着し、防御率1.29と抜群の安定感を発揮。故障で離脱した唐川侑己投手の穴を埋め、佐々木千隼投手、益田直也投手と共に、強力な勝利の方程式を形成している。
横浜DeNA時代はロングリリーフとしての登板が主だったが、移籍後は僅差の試合で1イニングを任されるように。ここまでの14イニングで許した失点はわずかに2つで、2勝9ホールド1セーブを記録するなど、チームの勝利に直結する投球を見せている。9月24日に30歳を迎える右腕が覚醒を果たした理由は、いったいどこにあるのだろうか。
今回は、国吉投手が残してきた年度別成績に加えて、移籍前後における各種指標の違い、結果球になった球種の割合、球種ごとの打撃結果の内訳を紹介。それらの数字をもとに、国吉投手が出色の活躍を見せている理由に迫っていきたい。(成績は9月15日試合終了時点)
横浜DeNA時代はロングリリーフを主戦場に高い奪三振率を記録
まずは、国吉投手がプロ入り後に残してきた年度別成績を見ていこう。
国吉投手は、秀岳館高校から2009年の育成選手ドラフト1位で横浜ベイスターズに入団。プロ2年目の2011年途中に支配下登録を勝ち取ると、2012年には先発ローテーションに加わり112.2イニングを投じた。2014年からはリリーフに転向し、ロングリリーフとして49試合で62.1イニングを消化。14ホールド2セーブを記録するなど、飛躍のシーズンを過ごした。
続く2015年にもブルペンの一角として防御率2.43と好投を見せたが、そこから2018年までの3年間は登板機会が大きく減少。しかし、2019年には自己最多の53試合に登板して69.1イニングを投げ、奪三振率10.51と素晴らしい奪三振力を発揮した。2020年にも42試合に登板して10ホールドを記録し、防御率3.13と投球内容も良化。奪三振率は9.98と高い水準を維持しており、ブルペンの貴重なピースとなっていた。
2021年もロングリリーフとして登板を重ねたが、防御率は5.16と前年から2点以上悪化。6月14日に有吉優樹投手とのトレードで千葉ロッテに移籍するも、故障の影響で7月までは千葉ロッテでの登板がなかった。しかし、8月のリーグ再開後は戦列に加わり、セットアッパーとして先述の通りに素晴らしい投球を続けている。
移籍前後で結果球の割合にさほど大きな変化はないが……
続けて、2021年の国吉投手が投じた球種について見ていきたい。各打者の打席の最後に投じた、いわゆる「結果球」の割合を、移籍前後に分けて紹介しよう。
横浜DeNA時代と千葉ロッテ移籍後のどちらも、球種配分にそこまで大きな変化は見受けられない。ただ、千葉ロッテ移籍後はツーシームをほぼ完全に封印し、 フォークの割合を少し多くしているように、細かな違いが生じていることも確かだ。
また、移籍前後のどちらでも、決め球でもあるフォークは投球の割合としては10%前後。千葉ロッテへの移籍後は、その使用頻度がさらに若干増加している。今季の国吉投手は速球とカットボールを軸に投球を組み立てているが、移籍後はその傾向にやや変化が見られた。
各種の指標を確認すると、モデルチェンジの様子が顕著に見て取れる
次に、今季の国吉投手が移籍前後で記録した数字をもとに、各種の指標について見ていきたい。
奪三振率、与四球率ともに移籍後は低下しており、K/BBは1.63と極端に悪い数字に。千葉ロッテでは抜群の安定感を発揮している国吉投手だが、指標の面ではむしろ、横浜DeNA時代のほうが良いという点はやや意外なところだ。
こうした数字からも、移籍前は昨季以前と同様に、三振を奪うことを主眼に置いた投球を繰り広げていたと考えられる。その一方で、移籍後に記録した内野ゴロでのダブルプレーが、14試合を投げた時点で既に3度もある点は見逃せない。奪三振率の低下も含め、打たせて取る投球へとシフトしつつあるという点が、各種の数字からも読み取れる。
ありとあらゆる局面で頼れ、被打率も低いカットボールはまさに「決め球」
続けて、国吉投手が移籍後に記録した球種別の成績を見ていきたい。
まず目を引くのが、被打率.200と抜群の安定感を誇っているカットボールだ。この球種は手元で動くという特性もあり、一般的には打たせて取るために用いられることが多い。国吉投手もカットボールで6つのゴロを打たせており、四球や犠打などを除いた打数全体のうち、ゴロが占める割合が.319に達している。セオリー通り、打たせて取る球としてしっかりと威力を発揮していることが、この数字にも表れている。
しかし、国吉投手のカットボールは140km/h台中盤に達する速度から鋭く曲がるため、三振を奪うための球としても頼ることができ、球種別で最多となる7三振を奪っている。打たせて取る際にも、空振りを取る際にも使える、まさに「決め球」と呼ぶに相応しい球種だ。
横浜DeNA時代の2019年には161km/hを計測した快速球は、国吉投手にとって最大の持ち味の一つだ。しかし、移籍後は被打率.238と、3つの球種の中で最も高い数字に。また、速球で奪った三振の数も2つにとどまっている一方で、20打数のうちゴロが7つと、カットボールよりも速球のほうがゴロ比率が高くなっている。
フォークは結果球になった回数が6回とさほど多投してはいないが、うち3回が三振と、空振りを奪う球として一定の威力を発揮している。打者にしてみれば、当然ながら追い込まれた状態で落ちる球を頭から消すわけにはいかない。速球とカットボールの割合が多いからこそ、フォークの存在そのものが投球術の幅を広げている面もあるだろう。
澤村拓一投手の再来のような活躍で、今後もチームの優勝争いを支えてくれるか
千葉ロッテはチーム全体の奪三振率が6.97とリーグで2番目に低く、チームの投手陣全体が打たせて取る投球を展開する傾向に。国吉投手もその例に漏れず、移籍後は速球とカットボールの双方でゴロを打たせており、各種の数字を見ても、グラウンドボールピッチャーへのモデルチェンジがうまく機能している。
当然ながら、選手の獲得や補強は、対象の選手の特性や長所について調査したうえで、チームにとってプラスになるという判断のもとで進められる。国吉投手と同じく昨季途中にトレードで加入し、大車輪の活躍でチームの2位フィニッシュに貢献した、澤村拓一投手(現・レッドソックス)の再来のような活躍を見せる国吉投手の獲得は、まさに期待通りの成果をもたらしていると言えそうだ。
今季の防御率が1.88という素晴らしい投球を続けてきた唐川投手の離脱は、チームにとっても非常に大きな痛手となる可能性が高かった。その穴を最小限にとどめている国吉投手の存在は、チームが中断明けに好調を維持している大きな要因の一つとなっている。
今後も安定感のある投球を続け、チームに2005年以来となるリーグ優勝をもたらすことができるか。身長196cmの巨躯に違わぬ圧巻の存在感を発揮している頼もしい新戦力が、優勝争いを繰り広げるチームにさらなる勢いをもたらしているのは、もはや疑いようのないところだ。
文・望月遼太
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