このまま放置をすれば今後の危機につながる? 野球界発展のために重要な活動

パ・リーグ インサイト 新川諒

2018.5.10(木) 16:41

(C)PLM
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スポーツの世界には人材が圧倒的に足りていない。これはスポーツ業界に限ったことではないかもしれないが、現場で働くスタッフなどからよく耳にする言葉だ。

人材不足から来る日々の運営に追われる現状のスタッフの多忙さ。学生や球団で働きたいと希望する者たちを生かすことがまだまだ難しい現状はあるが、パシフィック・リーグでは球団単位で積極的に人材育成に取り組む球団もある。

2018年度4月から福岡ソフトバンクホークスは地元九州産業大学と共に人材育成に取り組むプロジェクトを開始した。新学部として開設したばかりの人間科学部スポーツ健康科学科では今後、球団と球界を支える人材育成を行うため、福岡ソフトバンクホークスで働くスタッフたちによるプロ野球ビジネスの現状を学ぶスポーツビジネス講座が開かれることとなった。教室での授業だけではなく、実際にヤフオクドーム、タマスタ筑後などの施設への“課外授業"も存在する。

そして大学の特性が生かされた多様なスポーツ人材の育成にも取り組んでいく。ビジネスの人材だけではなく、スポーツフォトグラファーを目指す九州産業大学の芸術部の学生たちには、試合撮影の体験や関連する実務を経験する機会が与えられる。大学が誇る豊富な“人材"を対象に球団が研修の場を提供する。

楽天、福岡ソフトバンクの取り組み

九州産業大学の福田拓哉准教授は九州・福岡にプロスポーツが集積されているにもかかわらず、スポーツビジネスを柱とした教育を行っている大学が存在していなかったことを問題視。この状況を変えようと、新学部開設のタイミングで福岡ソフトバンクホークスに相談したことから今回の取り組みは実現に向けて動き出した。「産学一如」を建学の理想とする九州産業大学としてホークスは、これに適した存在だった。

地域密着を大切にしたプロ野球ならではの取り組みは、2013年に楽天イーグルスが東北大学と共に「スポーツ経営実践論」の講座を先駆者的な形で行っている。2015年からは福島大学とも同様な取り組みを行い、生徒たちは現場でのチケットマーケティングやゲームオペレーションを体験する実践なども与えられた。

実際に楽天イーグルス関係者に話を聞いたところ、この講義に参加した学生からチームスタッフになったものはまだいないようだ。球団では2015年より新卒採用を始めたが、まだ受講学生の入学には至っていないものの、インターンシップや新卒エントリーで入社を勝ち取ったものは存在する。今後、講座を受講した学生が入社まで駆け上がっていくストーリーが生まれれば、今後の可能性をさらに大きなものへと広げていくだろう。

海の向こう、アメリカでは…

米国ではスポーツ業界を志す学生も大学のプログラムも多く、大学と1つのプロ球団が一体になって何カ月にも及ぶ講義を組み立てるという例はあまり多くないように思う。だが球団から現役職員が授業にゲスト講師として訪れたり、実際に学生たちが球場やアリーナに足を運び“生"の声を聞いたりすることは多々ある。多くの球団は各方面から来るゲスト講師のリクエストを公式サイトで承っており、公式サイトで学校や会社からのリクエストに応じてフロントの職員を派遣している。

さらには学生たちが考えるマーケティングプランを球団職員が審査するなどというプロジェクトも私の大学時代には存在した。形は違ったとしても様々な関わり方を球団は地元の大学と作り出している。身近な存在を将来的な職員として迎え入れることは球団にとってもメリットは大きい。

実際、私もメジャーリーグ球団とのインターンシップを行うことができたのはこういった球団と大学との取り組みからだった。講師として訪れたOBに授業が終わった後、名刺をもらったことがあった。その時はそれ以上の進展はなかったが、少し時間が経過した後に連絡を取り、自分の持つ経験や日本語という武器が球団の思惑と一致することとなりインターンとして採用されることとなった。

求められる学生の姿は

今回の九州産業大学の取り組みは活気的なことであることは間違いない。だが参加する学生にとっては授業を受ければ、自然と福岡ソフトバンクホークスの職員となるチャンスが転がってくるわけではない。実際に授業を受け、関係性を築き、自らその扉を開いていくことで色んな可能性へと広がっていく。そんなストーリーが各地、各球団で見ることができればより面白い世界が広がってくるのではないだろうか。

前出した福田准教授も「能動的に学習し、講師へ質問したり、関連する本を読んだり、現場に足を運んだりと積極的に活動してほしい。講座が終わった後もインターンや共同研究の場に参加したり、他のスポーツ組織での経験が積めるように自ら動いたりと、未来の自分を形作ることを意識した活動を継続してほしいと願っています」と、学生たちに積極的な姿勢を求めている。

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パ・リーグ インサイト 新川諒

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