なぜ日本の一プロ野球球団が海外の親善試合に協賛をしたのか?そう疑問に思う方も少なくはないだろう。そこにはこれまでの埼玉西武ライオンズの海外での地道な活動、そしてもっと大きなビジョンがあった。今回は実際に協賛活動に尽力したライオンズの事業部リーダーを務める別府学氏にお話をうかがった。
遡れば、ライオンズの海外での野球振興への取り組みは2013年ミクロネシアからスタートした。元々は日本統治下であった国で、日本人から伝わった野球が今でもベースボールという言葉に摩り替えられることなく残っていた。文化は残っているものの、野球ができる環境や用具が減っている現状がそこにはあった。その現状を少しでも変えようと、ライオンズは野球の活動が続いている国へ寄付することを開始した。活動は他の国へも広がり、台風の被害にあったフィリピン共和国の子供たちへの寄付。それが今でも現地のYMCAと協力して野球普及活動は続いている。さらに支援の輪はカンボジア野球協会の副会長を務める日本人を通じてカンボジアへも広がっていった。
カンボジアでは小学校への野球道具の寄付を始めることで、教育の場でも使われることとなった。実際に野球ができる環境を持つ学校では体育の授業としても取り入れられるようになった。そしてライオンズが次なる活動の場を求めていたときに、カンボジアで開催される親善試合の情報を知ることとなった。
これまでの活動は選手、ファンから集めた野球道具などを「届ける」だけに終わっていたが、今回はカンボジア野球協会主催の国際親善試合を協賛するという形でより多くの国のこどもたちへ野球を広げていくことが可能となった。今までやってきたライオンズの活動をさらに発展させ、広めていくための野球大会の協賛だった。夏休みなどの期間にライオンズ主催試合でファンから寄付してもらった野球用具をより世界中の多くの子どもたちへ提供するきっかけができたのだ。ファン、選手、球団が一体となって行ってきた取り組みにより、野球用具が世界中の子供たちの手に渡っていく。
ライオンズにとっても輸送費などの関係で1年に1ヶ国を支援することに留まっていたが、今回は試合の協賛となることで参加国全てに支援することが可能となった。参加したチームにはライオンズの帽子、ユニホーム、そして球団公式キャラクターであるレオのぬいぐるみが配布された。さらには子供たちが気軽に野球をしていけるようにゴムボールやカラーバットも提供された。
野球をやり初めている国は増えてきているが、まだまだ満足にプレーできる環境や用具が揃っている国や地域は限られている。それでも連盟が存在しない中球場の整備を行っているベトナムや現地へ飛び、日本人指導者が代表監督を務めるもしくは務める予定のマレーシア、パキスタン、インドネシアなど野球に力を注いでいるところも多くなっている。
アジアではどうしてもサッカーの普及が進んでいるが、それ以外の選択肢を与えるためにも各地でバットやボールを気軽に手にすることができる環境を少しでも増やしていく。野球を知らない人がアジアではまだまだ多い。競技人口が減ってきている現状があるため日本だけではなく、野球の輪を世界中にも広げていく必要がある。野球に興味を持ち、日本で勉強もしくはプレーをして、再び自国へ戻って指導者として野球を広げるアジア人が増えていくことが1つの好循環を生み出す。もちろんライオンズの選手として活躍することがチームにとっては理想の形には違いない。
この親善試合直前にはインドが不参加となる“トラブル”も発生したが、それでもライオンズにとっては初めて海外の試合でプロ野球球団のチーム名が冠スポンサーとなる前例を作る意味のある機会となった。野球界だけではなく、思いを共有した郵船ロジスティクスやカンボジアの日系企業も賛同し、アジアへの野球普及が1つ形となった。各国の同世代が集まり、野球を楽しむ。ライオンズにとっては海外で球団名を知ってもらう単純な活動ではなく、もっと大きなビジョンの下、野球普及のきっかけを作るためのカンボジア親善試合の協賛だった。
今回はライオンズとしての取り組みではあったが、今後その輪を広げていくことを強く望んでいる。別府氏は最後に言う。
「1球団だけで普及活動を行っていても中々広がっていかず、定着も難しい。ライオンズが独自で行っていくというよりは、色々な活動を行っていき、ライオンズの取り組みをきっかけとして、他の球団、メディア、ファンの方に知ってもらい、興味を持ってもらい活動に参加していってもらいたい。」
野球とソフトボールは2020年東京五輪から正式種目として復帰する。ライオンズだけでなく野球界全体がオリンピック、パラリンピックに向けて野球普及活動に取り組んでいる。ライオンズはすでにパラリンピックも意識し、車椅子ソフトボールへの支援も行っている。
今後ライオンズを始め、球界全体がさまざまな形で野球普及活動に取り組み、その輪を国内だけではなく、アジアへ、世界へ広げていくことを期待したい。
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