山川選手が3・4月に記録した本塁打率は歴史的な数値
埼玉西武の山川穂高選手が4月28日の楽天戦で今季10号ホームランを放った。その翌日にもレフトスタンドへ叩き込み、3・4月だけでリーグ最多の11本を稼ぎ出している。以下の表のように、開幕から5月を迎えるまでに2ケタ本塁打へ到達した打者は、2000年以降のパ・リーグで延べ13人。その中で、今季の山川選手が記録した本塁打率7.55は2番目に低い数値だ。
本塁打率の低さは、ホームランを1本打つまでに要した打数が少ないことを意味する。この19年間は開幕日や試合数がそれぞれ違うため、3・4月の本塁打数を単純に数えるのではなく、本塁打率を比較することで、山川選手のアーチ量産スピードを明確にしたい。
現在の山川選手を上回るペースでホームランを叩き込んでいたのが、2001年のカブレラ氏(西武)だ。前年に2Aの53試合で35本塁打を記録していた怪力は、来日から約1カ月で17本塁打、40打点を残すなど猛威を振るった。4月に選んだ四球は5だけで四球率は5.4%だったが、5月以降は4カ月連続で15.0%以上に跳ね上がっており、対戦相手の警戒が増したことがうかがえる。
結局、NPB1年目の選手としては最多の49本塁打を放ったカブレラ氏だが、序盤に巻き起こした最大風速を考えれば、後半戦の16本には物足りなさもあった。その点を考慮したわけではないだろうが、翌02年には7月→11本、8月→15本、9・10月→11本とピークを後半に持ってきて、当時のシーズン本塁打タイ記録となる55ホーマーを叩き込んだ。
ローズ氏(大阪近鉄)はパ・リーグだけで最多の3回も3・4月に2ケタ本塁打を記録したが、02年に前出したカブレラ氏の後塵を拝すなど、いずれもタイトルには届かず。巨人へ移籍した04年は40本塁打以上が6人と打高投低の傾向が顕著なシーズンで、最終的にタイロン・ウッズ氏(横浜)とキングの座を分け合っている。
ちなみに、当時のシーズン最多タイである55本塁打を記録した01年のローズ氏は、7月以外に毎月8本塁打以上をマークするなど長期のスランプなし。リーグ優勝を争う戦いが佳境に入った8月は打率.411、11本塁打、長打率.811の大爆発だった。
04年に自己最多の36本塁打を放った城島健司氏(福岡ダイエー)は、アテネ五輪に参加して約1カ月もチームを離れた。その影響でシーズンは116試合の出場となったが、単純に前年と同じ551打数換算であれば46本塁打のペース。この本数は、同年にタイトルを獲得した松中信彦氏(福岡ダイエー)とセギノール氏(北海道日本ハム)が放った44本を上回る。
セ・リーグのランキングに目を移すと、04年の阿部慎之助選手(巨人)が4月に放った32安打のうち実に半分がホームランだった。シーズン記録となる259本塁打を樹立する「史上最強打線」にあって、開幕から主に8番を務めた阿部選手だったが、23試合でリーグトップの35打点、長打率.977と驚異的な数字を残している。ただし、5月は6本を追加しながら、6月以降は月ごとで2→3→2→2→2と低空飛行で終わった。
他方、西の人気球団では06年の濱中治氏(阪神)が4月に打率.435、10本塁打、長打率.913と、生え抜き和製スラッガー候補の活躍に、ファンは色めき立った。濱中氏はこのシーズンに、それまでは毎年のように悩まされてきた故障に見舞われることもなく、規定打席に到達して初の打率3割をクリアするなどキャリアベストの成績を収めている。たが、最も期待されていた本塁打の上積みは、5月からの117試合で10本と失速した。
03年のペタジーニ氏(巨人)は故障の影響で100試合の出場とともに34本塁打も来日以降で最少だったが、本塁打率は3・4月以降も大幅に落ちることはなかった。シーズンで記録した本塁打率9.74は本塁打王に輝いた1999年、2001年よりも優秀な数字で、打席に入りさえすれば持ち前のパワーを証明し続けている。
本塁打数とともに、今後の山川選手の打撃アプローチに注目したい
初のタイトル獲得へ猛威を振るう山川選手のバットだが、表中にあるように、00年以降の3・4月に2ケタ本塁打に届きながらタイトルを獲得した打者はパ・リーグでは皆無で、セ・リーグでもわずか2人しかいない。ホームランダービーは出だしが全てではないということだ。
とはいえ、リーグ最多のホームランを記録した38人で、3・4月に5本未満だった打者も8人しかおらず、出遅れがレース展開に影響することも、また事実だ。山川選手のチームメイトである中村剛也選手は12年→1本、14年→1本、とスロースターターの気質を覗かせながら、最後はまくってタイトル争いを制したが、例外的な存在と言える。
レギュラー定着を掲げて今季に臨み、必死の形相でプレーする山川選手は現在の勢いを持続できるだろうか。過去に序盤で爆発した打者たちと同様に、今後は厳しいマークが予想される。「ホームランはピッチャーが生み出すもの」の考え方に沿えば、極端な話、スタンドイン不可能なボールをピッチャーが投じ続ければ、ホームランバッターは商売あがったりだ。
ただ、ここで目を付けたいのは、山川選手がもうひとつの目標として「OPS1.000」を公言していることだ。長打率と出塁率の和で求められるOPSを高く維持するには、長打と同時に出塁能力も求められる。
対戦するチームのバッテリーは今後、長打を警戒して際どいコースに投げ込む場面が増えるかもしれない。だが、山川選手が「長打にできるボールが来ないなら四球を選ぶ」と割り切れば、今のペースで本塁打の数が伸び続けずともチームの得点増に貢献できる。それは、埼玉西武の打線全体が極めて高い打力を誇るからだ。
自らのバットで得点を叩き出せるのが一流の打者なら、バットを振らずして打線全体を活性化させられる存在は超一流と呼べるかもしれない。「優れたホームランバッター」か、それ以上に稀有な「真の四番」か――。結論は数年先を待つ必要があるかもしれないが、過去のジンクスを吹き飛ばせば、より一層の箔が付くことに間違いはない。
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