2020年12月8日、オリックスは、元阪神・能見篤史投手の獲得を発表。16年間、縦縞一筋で104勝を積み上げた左腕は、奇しくも関西ダービーの相手チームに「選手兼任投手コーチ」として加入することとなった。2020年は34試合に登板し、防御率4.74。美しいフォームとキレのあるストレートは41歳を迎えた今もなお魅力的で、新天地でもう一花咲かせてくれることを、多くのファンが期待している。
オリックスは有望な若手投手が少なくないだけに、ベテランから薫陶を受ける選手たちはもちろんのこと、能見投手自身も多くの刺激を感じられるだろう。「選手兼任コーチ」は、その名の通り選手としてチームに貢献しながら、コーチとしてもチームの成長に寄与する重大な責任を負う。難しい役割を託された能見投手のようなパ・リーグの「兼任コーチ」を見ていこう。
鶴岡慎也選手(2019~バッテリーコーチ兼捕手)
北海道日本ハムの鶴岡選手は、2018年10月に「バッテリーコーチ兼捕手」に就任。選手としては、安定したフィールディングと意外性のある打撃のほか、親しみのあるキャラクターで人気を博しており、ダルビッシュ有投手(現サンディエゴ・パドレス)との名コンビはあまりにも有名だろう。
「バッテリーコーチ兼捕手」1年目の2019年シーズンは、主に控え捕手として35試合に出場しながら、清水優心選手、宇佐見真吾選手といった若手捕手の育成に努めた。ただ2020年は、選手としてはわずか18試合出場に終わり、チームも捕逸数リーグワースト(13)と苦しんだ。2021年は選手としてしぶとい働きを見せるとともに、コーチとしてもチームの課題解決に向けて、3年目の経験値を生かしたいところだ。
實松一成氏(2018~二軍育成コーチ兼捕手)
實松氏は、2017年オフに巨人を戦力外となった後、プロ入りから7年間在籍した北海道日本ハムに「二軍育成コーチ兼捕手」として復帰した。それから現役を引退するまでの2年間は、二軍コーチ兼任ということもあって通算の一軍出場は6試合にとどまったが、2020年から巨人の二軍バッテリーコーチに就任し、若手捕手の育成に注力している。
中嶋聡監督(2007~2015バッテリーコーチ兼捕手)
現在オリックスの監督を務める中嶋氏は、9年もの間コーチ兼任選手を務めていた。阪急、オリックス、西武、横浜などでプレーし、2004年から北海道日本ハムへ。2006年には抑え捕手としてチームのリーグ優勝、日本一に貢献すると、2007年から「バッテリーコーチ兼捕手」に就任、2015年までの長きにわたってその務めを果たした。
同年、実働29年というプロ野球タイ記録を樹立して現役を引退した後、北海道日本ハムのチーム統轄本部GM特別補佐、バッテリー兼作戦コーチを経て、2019年、オリックスの二軍監督に。2020年8月からは一軍監督代行として指揮を執ることとなり、積極的な若手起用でチームに活気を与えた。2021年は一軍監督として、悲願の上位進出を狙う。
渡辺直人氏(2020選手兼一軍打撃コーチ)
渡辺氏は、2020年シーズンを楽天の「選手兼一軍打撃コーチ」として過ごした。楽天でプロ生活をスタートし、横浜DeNA、埼玉西武を渡り歩いたが、いずれにおいてもファンやチームメイトに愛された選手だけに、指導者としての適性は誰もが期待するところだろう。2018年に楽天復帰後、2020年は「選手兼任一軍打撃コーチ」に。ただ試合には出場せず、主にコーチとして一軍に帯同した。
同年9月に引退を表明し、引退試合となった11月6日の埼玉西武戦では、長打やヘッドスライディングで魅せ、遊撃手としても併殺を完成させ、有終の美を飾った。2021年からは、楽天の一軍打撃コーチに専念することとなる。
福浦和也氏(2018選手兼任打撃コーチほか)
千葉ロッテ一筋の福浦氏は、2018年に「選手兼任打撃コーチ」に。そのシーズンも選手として82試合に出場し、2000安打の大台へと到達するなど、「幕張の安打製造機」の健在ぶりを見せつけている。翌年は「二軍打撃コーチ兼選手」となるが、開幕前にシーズン終了後の引退を表明。引退試合では定位置の一塁守備で超美技を魅せるなど、「俺たちの福浦」らしくファンを沸かせた。2020年からは二軍ヘッド兼打撃コーチを務め、藤原恭大選手ら若手野手の育成に力を注いでいる。
今岡真訪/誠氏(2012選手兼任二軍打撃・守備コーチ)
球界屈指のクラッチヒッターだった今岡氏は、2010年に阪神から千葉ロッテに移籍後、2012年シーズンを「選手兼任打撃・守備コーチ」として過ごした。その年に現役を引退し、解説者を経て、2016年から阪神の二軍打撃兼野手総合コーチに。2017年には登録名を現在の「今岡真訪」に変更した。
2017年オフ、千葉ロッテ二軍監督に就任、2020年オフに一軍ヘッドコーチとなる。井口資仁監督とは同学年で、1996年のアトランタオリンピックでも二遊間を組んだ仲だ。昨季2位と躍進したチームを今度こそリーグ優勝に導くべく、指揮官を支えたいところ。
稲葉篤紀氏(2013コーチ兼外野手)
現在侍ジャパンの監督を務める稲葉氏も、コーチ兼任選手の経験がある。北海道日本ハムの選手時代は、勝負強いバッティングと全力プレーで愛され、2008年の北京五輪、2009、2013年のWBCなどで日の丸を背負った。2013年「コーチ兼外野手」となり、選手としても91試合に出場。翌年は選手専任するも44試合出場にとどまり、現役を引退した。
その後はプロ野球解説者、日本代表チームの打撃コーチを歴任し、2017年に侍ジャパントップチームの新監督に就任。2019年のプレミア12ではチームを世界一に導いたが、2021年夏に予定されている東京五輪ではどのような手腕を見せるか、注目が集まる。
松井稼頭央氏(2018選手兼テクニカルコーチ)
言わずと知れたスタープレイヤーである松井氏も、埼玉西武で「選手兼テクニカルコーチ」を経験した。その輝かしいキャリアのスタートは西武だったが、2004年から渡米、2011年に楽天に加入する。2013年には主将として球団創設初の日本一に貢献し、年齢を感じさせないプレーを続けた。そして2018年「選手兼テクニカルコーチ」として15年ぶりに埼玉西武に復帰し、選手としては一軍で30試合に出場した。その年限りで現役引退し、2019年シーズンからは埼玉西武の二軍監督を務めている。
陰日向にチームを支えるコーチ兼任選手に期待
パ・リーグのコーチ兼任選手を紹介したが、現役時代にコーチ就任を打診されるだけあり、名選手が揃っている印象だ。本来プロ野球選手は、チームを勝利に導くための「相手チームとの戦い」と、自身のポジションを守るための「チーム内の戦い」を同時にこなしている。自身の知識・経験を同ポジションの仲間に与える行為は、つまりはライバルの成長を後押しすることであり、長期的に見ればチームの底上げにつながるかもしれないが、自らの立場を脅かすことにもなるかもしれない。
選手としてもコーチとしても結果を求められるコーチ兼任選手が抱えるそのジレンマは、専任選手よりさらに深刻なものとなる。しかし、逆に言えばそのような難しい役割を任せるに足るほど、彼らは首脳陣から信頼され、チームメイトから慕われているのだろう。もがきながらも広い視野で「目の前の勝利」と「その先」を見据える彼らに、今後も期待したい。
文・岩井惇
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