2020年のパ・リーグ各チームは、なかなか1番打者を固定できなかった。メジャー移籍のため、2019年シーズンまで不動の1番だった秋山翔吾選手が抜けた埼玉西武はもちろんのこと、前年終了時点でトップバッターを固定できていなかったオリックスと福岡ソフトバンクも、その選定に時間を要している。
チームによっては、埼玉西武のコーリー・スパンジェンバーグ選手や、オリックスのT-岡田選手のように、長打力のある選手が思い切って1番に起用されることもあった。一方でさまざまな理由で空いてしまった1番の座に抜擢され、しっかりと適性を見せ付けた若手も少なくはない。今回は、2020年のパ・リーグのトップバッターについて見ていく。
北海道日本ハムファイターズ
北海道日本ハムは、パ・リーグの中で最も1番打者に困らないチームだった。打率・出塁率の両面で高い水準の数字が期待でき、盗塁をはじめとした機動力の面でも貢献度の高い、西川遥輝選手の存在があったからだ。
西川選手はシーズンの序盤、打率が.217まで落ち込む時期もあったが、7月12日からの5試合で10安打という固め打ちを見せ、あっという間に復調した。惜しくも2年ぶり4度目の盗塁王は逃したものの、例年より少ない試合数の中で自己最多に迫る42盗塁をマーク。ともに4年ぶりとなる打率.300、出塁率.400にも到達し、不動のトップバッターとして申し分のない活躍だった。
休養や打線の組み替えで西川選手が1番を外れたときは、大田泰示選手、杉谷拳士選手、淺間大基選手らが代役を務めたが、まだまだ本命を脅かすほどには至らず。2020年オフのメジャー移籍を希望していた西川選手の残留が決まったとはいえ、そろそろ「ポスト西川」の台頭も待たれるところだ。
東北楽天ゴールデンイーグルス
楽天は、主に茂木栄五郎選手が1番を務め、開幕当初は打率.300を超える活躍でチームをけん引していた。だが、3番を打っていたジャバリ・ブラッシュ選手の不振もあり、7月中旬からは茂木選手が3番に回る機会が増加。空いたトップバッターの座には、田中和基選手や岡島豪郎選手らが入り、最終的にはドラ1ルーキーの小深田大翔選手が定着した。
小深田選手は最終的に112試合に出場して規定打席に到達し、打率.288、出塁率.364。9番に回ることもあったが、切り込み隊長として充分な成績を記録している。もともと即戦力としての期待は高かったが、しっかりとそれに応えた形だ。
埼玉西武ライオンズ
不動の1番打者だった秋山選手が退団し、その穴を埋めることが急務だった埼玉西武。開幕から7月初旬までは、新外国人のスパンジェンバーグ選手をトップバッターに据える思い切った策を採用した。そのスパンジェンバーグ選手は、6月23日の福岡ソフトバンク戦で来日1号となる満塁弾を放つという派手な活躍も見せている。しかし、打率・出塁率ともに伸び悩んだこともあり、その座は鈴木将平選手に譲ることに。
鈴木選手は抜擢当初、打率.300を超える好調ぶりでチームをけん引したが、徐々に調子を落としてレギュラー獲得は果たせず。同じく若手の高木渉選手、実績のある外崎修汰選手や木村文紀選手らを試した末に、最後は金子侑司選手が1番打者に定着した。2019年シーズンは盗塁王に輝きながらも、開幕から起用された1番としては結果を残せなかった金子選手。苦い経験を経て、来季は与えられた役割を全うできるか注目だ。
千葉ロッテマリーンズ
千葉ロッテでは、2019年にリーグ3位の打率.315を記録した荻野貴司選手が、引き続きトップバッターとして躍動。7月22日の時点で打率.333、出塁率.415と絶好調だったが、故障によって長期離脱を余儀なくされる事態に。福田秀平選手が入れ替わりで昇格し代役を務めたものの、開幕直前の故障の影響もあってか不振にあえぐこととなる。
そんな中で台頭したのが、開幕前に育成から支配下登録された和田康士朗選手だ。俊足と広い守備範囲を活かし、代走のみならずスタメン、1番打者としてもインパクトを残した。二軍で首位打者を獲得した加藤翔平選手も、コンタクト、選球眼の両面で大きく成長を見せ、一軍では規定打席未到達ながら打率.300という成績を残している。
また、新型コロナウイルス感染の影響で荻野貴選手、和田選手を含む主力が大量離脱した終盤は、高卒2年目の藤原恭大選手が昇格後即1番打者を務め、思い切りの良いプレーを披露。プロ1号と2号をいずれも先頭打者本塁打で記録するという離れ業を演じ、強肩で知られる福岡ソフトバンクの甲斐拓也選手からプロ初盗塁を決めるなど、ドラ1としての高いポテンシャルの一端を示している。
オリックス・バファローズ
オリックスはT-岡田選手を1番に置いて開幕したが、その後はさまざまな選手を起用することに。しかし、2019年に新人ながら交流戦首位打者に輝いた中川圭太選手は不振に陥り、宗佑磨選手、大城滉二選手も結果を残せず。1番打者が固定できないことが、チームの苦戦につながっている面もあった。
ただ、故障で出遅れていた福田周平選手が復帰後、優れた選球眼を発揮する。シーズンで出塁率.366と好成績を残すと、さらに佐野皓大選手も77試合で20盗塁、盗塁成功率.833と機動力を見せ付け、終盤戦でトップバッターを務めることも。2選手は持ち味こそ異なるものの、チームに足りない部分を埋める貴重なピースとなった。
福岡ソフトバンクホークス
福岡ソフトバンクでは序盤、開幕前から絶好調だった栗原陵矢選手がトップバッターとして出場。内外野をこなす汎用性とパンチ力を活かし、そのままレギュラーとしてシーズンを完走した。その栗原選手が、より強みを発揮できるクリーンアップに回ることも増えた7月下旬以降は多くの選手が1番で試され、9月以降は周東佑京選手が定着している。
2019年オフには代走の切り札として日本代表にも選出された周東選手の俊足ぶりは、今や野球ファンの間で広く知られるところだろう。盗塁王にも輝いた圧倒的な脚力はやはり大きな武器だ。それに加えて打率.270、出塁率.325と打撃面の成長も著しく、足のスペシャリストから鷹の切り込み隊長へと進化を続けている。
1番としてチャンスをつかんだ若手が多数
パ・リーグでは、シーズンを通して1番打者として出場を続けたのは北海道日本ハムの西川選手のみだった。ケガや不振で単純に適任者がいなかったというケースもあるが、楽天の茂木選手や福岡ソフトバンクの栗原選手のように、他の選手との兼ね合いや本人の適性を考えたうえで、トップバッターを変更したと思われるケースもある。
そして、楽天の小深田選手、千葉ロッテの藤原選手、オリックスの佐野選手、福岡ソフトバンクの周東選手などは、さまざまな理由で1番打者に抜擢されて結果を残したが、自身に訪れた少ないチャンスを逃さなかったという点では同じだろう。若手がトップバッターという重要な打順を任され、将来を期待させる活躍を見せてくれたことも、イレギュラーな対応に追われ、苦しんだ2020年だったからこそ見られた傾向のひとつかもしれない。
彼らは来季も切り込み隊長の座を争い、あるいは完全に自分のものとすることができるだろうか。1番打者の固定は、チーム全体を安定させるうえで重要なファクターだ。各選手の活躍は、チーム全体の中長期的なビジョンにおいても、非常に重要なものとなってくる。
文・望月遼太
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