補殺だけでなく、走者の進塁抑止なども含めた送球による貢献を表した「ARM Rating」
外野手の守備において必要な要素の1つとなるのが「肩の強さ」だ。守備範囲の広さや捕球能力と共に、走者を先の塁に進ませないための送球も名手には欠かせない能力と言える。
肩の強い外野手、また肩が強くなくとも送球が正確な外野手であれば、走者は先の塁を狙いにくくなる。例えば、走者一塁での右前安打で右翼手の“肩”で走者を三塁に進ませない、走者二塁で本塁に突入させない、というのも外野手の“抑止力”と言える。
野球を科学的に分析するセイバーメトリクスでは「ARM Ratings」という指標がある。これは、送球により走者を刺した外野手の「補殺」だけでなく、走者を進ませなかった「抑止力」も含めて、外野手の送球による貢献を得点換算したもの。この「ARM Ratings」において、12球団で上位に位置する選手を見ていこう。
外野手の送球は肩が良いだけでは不十分だ。打球へのチャージの速さや捕ってから送球に移るまでの速さ、そして送球の正確さも必要になる。指標の上位に位置する選手は、肩が強いというわけではなく、こうした“総合的な送球力”に秀でていると考えた方がいいだろう。
12球団の外野手で「ARM」でトップとなったのは東京ヤクルトの青木
セイバーメトリクスの指標を用いて分析などを行う株式会社DELTAによって分析された「ARM Raitings」を基に検証してみよう。なお、対象は外野手として昨季300イニング以上を守った選手に限定した。
12球団で最もこの「ARM Raitings」が高かったのは東京ヤクルトのベテラン青木宣親。今季は99試合に左翼手として出場して「ARM」は全外野手でもダントツの6.9をマーク。青木はリーグ2位の6補殺を記録するだけでなく、進塁抑止においても貢献が高かったと言える。
青木に次ぐ2位は千葉ロッテのレオネス・マーティン。マーティンは強肩で知られ、補殺数もパ・リーグ外野手トップの8補殺をマークしている。その強肩で走者が次の塁を狙うことを抑止していたことを示しているだろう。3位には福岡ソフトバンクの栗原陵矢、4位には福岡ソフトバンクの上林誠知、5位にはゴールデングラブ賞にも輝いた北海道日本ハムの大田泰示が入った。特に上林と大田は強肩外野手として広く知られており、上位に位置するのは納得の結果と言える。
6位の東京ヤクルトの塩見泰隆に次ぐ7位に入ったのが阪神の近本光司で「ARM」は3.1。塩見は中堅手での「ARM」は2.5で、中堅手に限れば近本がトップだ。補殺数はリーグ4位の5個。あまり強肩のイメージは持たれない近本だが、昨季はこの「ARM」で12球団トップの数字を残しており、指標上では総合的な進塁抑止という面で秀でていると言える。
セ・リーグ補殺数トップの鈴木誠也は「ARM」は全体16位の0.1
8位には中日の大島洋平が続き、9位以下は広島の長野久義、福岡ソフトバンクのジュリスベル・グラシアル、中日の平田良介、福岡ソフトバンクの中村晃、オリックスの佐野皓大、北海道日本ハムの近藤健介と続いていく。意外なのが広島の鈴木誠也だ。リーグトップの8補殺をマークしている一方で、「ARM」の0.1は16位。強肩として名を馳せる鈴木だが、進塁抑止の指標は優れていなかった。
逆に最下位だったのは阪神のジェリー・サンズ。「ARM」は-4.1となっている。さらには埼玉西武のコーリー・スパンジェンバーグ、北海道日本ハムの西川遥輝、オリックスのT-岡田、楽天のステフェン・ロメロなどと続いていく。
一概に肩の強さだけでは分からない外野手の守備の貢献度。こういった指標を参考に、改めて選手の守備を見てみるのも面白い野球の見方になるかもしれない。
(Full-Count編集部 データ提供:DELTA)
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2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』も運営する。
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