「どのポジションも今、僕の中ではフラット」 井口資仁監督独占インタ第1回
コロナ禍により開幕が約3か月遅れた2020年のNPB。終わってみれば、日本シリーズV4を飾った福岡ソフトバンクの圧倒的な強さが際立つシーズンとなった。だが、その常勝軍団に対し、レギュラーシーズンでは2年連続勝ち越しを収めているのが千葉ロッテだ。
昨季は60勝57敗で13年ぶりのパ・リーグ2位、4年ぶりのクライマックスシリーズ(CS)進出としたが、CSでは1勝もできず敗退。目指すリーグ優勝、日本シリーズ優勝には一歩も二歩も足りなかったが、井口資仁監督は2018年の就任以来、5位→4位→2位と着実にチームを引き上げてきた。福岡ソフトバンクに独走を許しながらも勝ち越した今季。46歳指揮官は何を思ったのか――。
2021年の幕開けとともに、就任4年目を迎える井口監督の本音に迫る全3回の独占インタビュー。第1回は「掴み取る」をキーワードにお届けする。
◇ ◇ ◇
120試合に短縮された2020年のレギュラーシーズン。千葉ロッテは首位福岡ソフトバンクに14ゲーム差の2位に食い込んだ。3位の埼玉西武とは1.5ゲーム差、4位の楽天までも2.5ゲーム差。シーズン最終盤に息詰まる2位争いを繰り広げる3球団に対し、福岡ソフトバンクは高みの見物を決め込んだ。4年ぶりに戦ったCSで、千葉ロッテは2試合連続で先制点を挙げながら、いずれも逆転負けで敗退。それでも井口監督は福岡ソフトバンクに対する苦手意識はない。
「2年連続でシーズンは勝ち越しているんで、そういう意味ではみんな自信はあると思います。こういう風に攻めればホークスに勝てるっていうツボのようなものは分かっているつもり。そこをチーム全体として攻められるか。嫌なイメージはないですね」
2019年は17勝8敗、2020年は12勝11敗。いずれの年も福岡ソフトバンクに勝ち越したのは、唯一千葉ロッテだった。井口監督は「投手陣がめちゃくちゃいい。あそこからどうやって点を取るか」と敵を称えながらも、こう続けた。
「CSでは千賀(滉大)投手も打っているし、東浜(巨)投手も打っている。あまり抑えられているイメージはない。いろいろなアプローチをしながらホークスに食らいついているんで、来年もいい勝負をしていきたいですね。尻尾は掴んだ。あとはホークスをガッツリ掴むイメージ、優勝を自分たちの力で掴み取るイメージですね」
指揮官が優勝のイメージを具体化できているのは、就任以来の3シーズンでチーム力は着実に上昇カーブを描いていると実感するからだ。「5年先、10年先に常に優勝争いができるチームを作る」と目標を掲げた通り、1軍メンバーには勝者のメンタリティーを叩き込みながら、ファームでは育成に着手。その成果が徐々に見えてきた。
楽天との3位争いで粘り切れずにCS進出を逃した2019年は、「競る経験のない選手がほとんどで、3位争いでも浮き足立っていた」と井口監督。2020年は、さらにプレッシャーのかかる優勝争いを展開しながら、2位に踏みとどまった。
「首位に追いつかなくちゃいけないし、下から追い越されてもいけないっていうプレッシャーを、みんなかなり感じていたと思います。ただ、これは上位で優勝争いするチームが必ず通らなくちゃいけない道。2位を決めた埼玉西武戦(11月8日)はシーズンで一番いい試合をして、みんなで最後を乗り切った。去年の戦いが集約された、いい試合だったと思います。チーム全体として非常に成長しているな、と」
成長著しい若手に対して「中堅がまだまだ伸び悩んでいる」
もちろん、まだまだ課題はある。シーズン序盤にレアードが故障で離脱すると長打は減少。長打率.355は12球団最下位という課題は最後まで解消されなかったが、自然と「繋ぐ野球」が浸透した。12球団最多となる491四球という数字が、それを物語っている。
「積極的に打つ姿勢を持ちながらも、追い込まれたら何とか粘る。相手投手に球数を多く投げさせるという意味では、先発投手に1イニング40球も放らせた試合もありました。そういう野球をせざるを得なかった部分もあるけど、みんなの意識が変わってボールを振らなくなったのは成長。これで今年はレアードが帰ってきたり、他の主力選手のホームラン数が増えれば、いい試合ができるんじゃないかと思います」
もう一つ、今年の課題として掲げるのが「中堅選手の奮起」だ。昨季は2017年ドラフト1位の安田尚憲が4番を任され、終盤には2018年ドラフト1位の藤原恭大がセンターに定着した。CSでも気を吐いた2人に、井口監督は「しっかりと成長してくれている」と目を輝かせるが、「中堅がまだまだ伸び悩んでいる。成績を見たら満足できる選手は1人もいない」と手厳しい。
「1シーズン戦い続けた経験を持つ中堅から、1人でも2人でも3割を打てる選手が出てこないといけないし、1年を通じて絶好調な選手が1人もいなかった。全員の浮き沈みが一致してしまうのがマリーンズといえばマリーンズだけど(苦笑)、それだとチームは優勝できません」
また、勝負の世界では人の良さは必ずしも美徳とはならない。チームが不調の波に呑まれている時、誰かが嫌われ役となり、チームにとって耳の痛いことを言わなければならないことがある。選手の自主性に期待する指揮官は、今季からキャプテン制を復活させ、7年目を迎える内野手の中村奨吾を任命。「今の時代はちゃんと言葉で伝えないとチームはまとまらない。自分がいい時も悪い時も、チームのためにやってくれと伝えました」と期待する。
前年にCS出場を逃した悔しさをバネにした2020年は、新たに優勝、そして日本シリーズ出場への想いを強くする悔しさを味わった。さらなる努力と奮起が必要なことは、誰よりも個々の選手が感じている。11月に行われた秋季キャンプで、指揮官はその想いに触れたという。
「いろいろ感じているでしょうね。だから、秋季キャンプはみんな、めちゃめちゃ良かったですよ。シーズンで見つけた課題に取り組めていたので。あの姿勢が春キャンプから開幕まで繋がるか。何よりもオフの過ごし方が大事になりますね」
今年もまた、2月1日のキャンプインから新たな戦いが始まる。
「去年の成績で言えば、レギュラーとしてポジションを保証されている選手はいませんよ。どのポジションも今、僕の中ではフラットです。外国人選手も補強する予定ですし、球団にはうまくトレードも動いてほしいと言っている。どんな準備をしてキャンプインするのか、楽しみですね」
目指すゴールはただ一つ。「優勝」だ。
「もう上はそこしかないですからね。掴み取ります」
(佐藤直子 / Naoko Sato)
記事提供: