東京ヤクルト、埼玉西武、北海道日本ハムで17年間プレーした米野智人さん
東京・下北沢。店の扉をくぐると、よく光が差し込む開放的な空間が広がる。提供されるカレーやサンドウィッチ、スイーツは、無農薬や自然栽培の食材がふんだんに使われている。賑わう店内で、忙しく腕をふるうひとりの男性。その穏やかな表情からは、かつて極限の舞台で戦った面影はあまり感じられない。
東京ヤクルトや埼玉西武、北海道日本ハムで17年間プレーした米野智人さん。2017年から『美味しく、楽しく、健康に』をコンセプトにしたカフェ「westside cafe」を営む。球史を代表する捕手・古田敦也氏の後継として、かつて“古田2世”と呼ばれた38歳が選んだ第2の人生とは――。店を訪ね、話を聞いた。
――野球選手をはじめスポーツ選手は、引退してからの第二の人生が難しい。米野さんの場合は、選手時代に興味を持った「食」が次の人生につながっていますね。
「僕は、野球が終わった後のビジョンも考えている人の方が、野球のパフォーマンスも上がるんじゃないかなと思うんです。絶対、ではないけれど、誰もがやめるときは必ず来るし、やめた後も生きていくために絶対に何か仕事をしなければいけないことも分かっている。だから野球関係じゃなくてもいい、他にやってみたいこと、それを仕事にできるかどうかを真剣に考えることが大事。野球をやめた後に『自分が第二の人生でこういう事をやるんだ』と思えている人の方が強いというか。悩んで変なプレッシャーを感じるより、引退後のことも考えて思い切ってできた方がいい気がします」
――今までやったことないことをやる、ってすごいことですよね。
「自分に何が合っているかもわからないし、合わないものもあるかもしれない。いろいろ手を出してみないといけない段階なんです。何が強みなのか、適職なのか、自分が野球以外に何ができるのかまだわからなくて探っている。野球選手だった人ってそういう人は多いと思います。野球って厳しい世界だけど、ある程度目標を決められるからわかりやすいんです。でも野球をやめるとやりたいことがないんですよ。でも生きていかなきゃいけないし、ものすごく嫌なことはやりたくないし、自分にとって苦じゃないことをどんどんやってみる。その中で、これは自分に向いている、これなら強みを生かせる、この先長くやってみたいと思えるものがあるかもしれないじゃないですか。とりあえず打席に立たないと。バット振らないとボールに当たらないから。だから今はまだそういう段階ですね」
――今の時期は、多くのプロ野球選手がユニホームを脱ぐタイミングでもあります。戦力外になり、現役引退を決断された上田剛史外野手とは一緒にプレーもされましたね。
「剛史はびっくりしたと思います……。本人も、まだやれるって思っていたでしょうし。結構一緒に現役時代やっていた数少ない選手だったので。もう今や、石川(雅規)さん、青木(宣親)、雄平とか、その辺りしかいなくなってしまいました」
かつて同僚だった上田剛史の引退に思い「縁の下の力持ちという存在」
――上田選手は、チームの精神的な支柱となるような選手でした。
「剛史のような、試合に出ていない中で縁の下の力持ちという存在は選手の士気が上がるんです。連敗している時なんかは特に連鎖するんです、ベンチも声が出なくなって。そんな中でどんな時も『まだまだこれからだ! 行くぞ!』といったような声を出してくれる選手がいると、上がるので本当に大事です。目に見えない所かもしれないけれど、間違いなく大事です。心の支えになるというか。じゃ次そのポジション誰がいるのかというのは(東京ヤクルトの場合)わからないですけど、間違いなく大切です」
――米野さん自身は17年間プレーし、2016年に引退されました。野球とは全く異なる道に進まれ、お店を開いてもう4年ですか?
「そうですね。まだ、たった4年です。それまで17年間野球をやって、雇ってもらっていましたが、今は自分たち主導で、色んなものを興してやっていかないといけない。結構、自分自身もお店の業務に入ることになったし、本当にいろいろ大変なんだなと感じました。いい経験です。野球以外の経験が少ないので、とりあえずこれからもいろんなことをやってみようと思ってます。感覚としては今はまだ、高卒4年目って感じです。僕は、プロに入って高卒4年目ってめちゃめちゃショボかったんです。ほんとそんな感じです(笑)」
――そんな中で今後も“食”は軸にしていきたいですか?
「そうですね。みんなに欠かせないものだし、大事だし、気にしなきゃいけないことだから。健康って大事じゃないですか。健康じゃないと仕事もできなくなるかもしれないし、パフォーマンスも下がってしまうかもしれない。仕事って人生で長くやらなきゃいけないものだから。その意味では、大切にしたいのは食事と睡眠です。これが健康の基本だと思うけど、今の人たちは難しいですよね。働きすぎだし、運動する時間もないし。時間があってもその前に疲れてしまって。仕事をたくさんしている人が素晴らしいという日本ではそういう人が多い。健康でいられるライフスタイルを提案していく仕事をしていきたいです」
――輸入事業も始められたんですよね。
「全粒オート麦からつくられる植物性のミルク、オーツミルクの輸入事業を始めました。自分もそうなのですが、日本人は牛乳が体に合わない人も多いんです。だからそれに代わるものや、その他のいいものがスーパーに並んでいて欲しいと思うし、流通させたくて。大きなことを言っていますけど、このカフェを始めてから、世界はこういう方に向かっているなと感じています。無理に全ての食生活を変えるとかではなく、できることから取り入れてもらう。そして、まずは知ってもらえるきっかけ作りができたらと思っています」
(新保友映 / Tomoe Shimbo)
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