勝負のシーズン終盤戦は、チーム全体の層の厚さが問われる時期でもある
6月に開幕した2020年のレギュラーシーズンも、いよいよ10月と11月の試合を残すのみとなった。各チームとしても、ラストスパートに向けて調子を上げていきたいところだが、今季は6連戦が続く過密気味の日程が続いている。それもあって、投手・野手ともに、蓄積疲労の影響が表れやすい時期でもあることだろう。
チームとしての選手層が問われる状況なだけに、今後は二軍で好調を維持している選手の登用が増えてくることも考えられる。とりわけ、選手としてのピークをこれから迎える中堅、あるいは経験豊富なベテランといった年齢層の選手たちにとっては、残されたシーズンでどれだけのアピールを見せられるかが、ひいては来季以降にの活躍も結びつくはずだ。
今回は、現在二軍で調整を続けている中堅、およびベテランと呼べる年齢の選手たちの中で、今季の一軍での出場機会が多いとはいえない選手たちを紹介していきたい。過去の活躍と今季の二軍での成績を個別に振り返っていくとともに、勝負の終盤戦における切り札となりうる、実力者たちの活躍に期待を寄せたい。
吉川光夫投手(北海道日本ハム)
吉川投手は2012年に最優秀防御率とリーグMVPを獲得し、同年のファイターズのリーグ制覇にも大きく貢献した実績を持つ。その後も先発陣の一角として登板を重ねたが、2016年オフにトレードで巨人に移籍。昨季途中に再びトレードで古巣復帰を果たしたものの、4試合の登板で防御率6.75と、かつてのような投球は見せられなかった。
今季は左の中継ぎとして開幕一軍入りを果たし、5試合で防御率3.38とまずまずの投球を見せていた。しかし、7月4日の試合を最後に一軍での登板機会は訪れていない状況だ。それでも、二軍では引き続きリリーフとして登板を重ね、安定した投球を続けている。19.1イニングで12四球と制球面では課題が残るが、投球回を上回る奪三振を記録している点は大きな魅力。かつてのMVP左腕は、リリーフとして新境地を開拓した姿を見せられるか。
谷口雄也選手(北海道日本ハム)
現在28歳の谷口選手はプロ4年目の2014年から出場機会を増加させていき、外野のレギュラー争いへと加わった。そして、2016年には激しい定位置争いの中で83試合に出場し、打率.254、9犠打と持ち味を発揮してリーグ優勝にも貢献した。だが、レギュラー獲得も期待された2017年に右ひざの靱帯損傷という大ケガを負い、その後の2シーズンをほぼ棒に振ることになってしまう。
それでも不屈の闘志でリハビリを乗り越えて一軍復帰を果たすと、2019年には一軍で3年ぶりとなる本塁打も記録。復活に向け、新たな一歩を踏み出した。今季は一軍では6試合の出場にとどまっているものの、二軍では27試合で5本塁打、OPS1.107とまさに格の違いを見せつけている。ケガからの復活というだけでなく、本格的なブレイクに向けて。童顔のハードパンチャーは、虎視眈々と出場機会をうかがっていることだろう。
下水流昂選手(楽天)
下水流選手は広島時代に左投手キラーとして活躍し、スタメンでも代打でも随所で存在感を発揮。レギュラー獲得こそならなかったものの、勝負強い打撃を活かして2016年と2018年のセ・リーグ優勝に貢献した経験の持ち主だ。昨季途中にトレードで移籍した楽天でも、同様に対左投手の局面で巧みな打撃を披露。パ・リーグ初挑戦ながら、50試合で打率.250、出塁率.333と一定の成績を残していた。
移籍2年目を迎え、リーグの水にも慣れた今季はさらなる活躍も期待されたが、一軍では12試合の出場で打率.125と結果を残せず。それでも二軍では安定した打撃を見せ、OPS.855と優秀な成績を記録している。一軍の打線はリーグトップの得点数を記録しているだけに、その中に割って入るのは簡単ではないだろう。だが、下水流選手には「左殺し」という明確な武器がある。自らの長所を活かし、あらためて存在感を示したいところだ。
大谷智久投手(千葉ロッテ)
大谷投手はプロ5年目の2014年に、49試合で防御率1.94という素晴らしい成績を記録してセットアッパーの座に定着。それ以降も勝ちパターンの一角として安定した投球を続け、5シーズン連続で30試合以上に登板した。その間常に2桁のホールドを記録し続け、優れた制球力を武器にフル回転。頼れるベテランとして、重要な局面での登板を重ねていた。
だが、2019年には一軍登板がわずか2試合と出場機会が激減。今季も二軍では安定した投球を続けて変わらぬ実力を示しているものの、一軍ではいまだに登板機会が得られていない状況だ。一軍では唐川侑己投手、澤村拓一投手、益田直也投手という勝利の方程式が安定感を示しているものの、フランク・ハーマン投手の故障離脱もあり、一時期に比べて層が薄くなっているのも確か。豊富な経験を活かし、優勝争いを続けるチームの力となれるか。
有吉優樹投手(千葉ロッテ)
有吉投手はルーキーイヤーの2017年に、53試合に登板して防御率2.87という数字を残し、リリーフとして活躍を見せる。続く2018年はシーズン途中から先発に回り、6勝5敗、防御率3.74と新たな役割でも安定感を発揮。マルチな才能を活かして投手陣の貴重なピースとなっていたが、2019年には開幕直後に故障で戦列を離れ、年間を通じてわずか2試合の登板に終わってしまう。
それでもリハビリを乗り越えて翌2020年には戦列へ復帰し、7月7日の埼玉西武戦で6回2失点の好投を披露。679日ぶりとなる復活の白星を挙げた。だが、今季の登板は3試合、うち先発登板は2試合のみと、ここまで多くの登板機会が得られているとは言えない状況だ。充実しつつあるリリーフ陣に比べて、千葉ロッテの先発陣はやや手薄な状態が続いている。シーズン終盤に登板のチャンスを掴み、完全復活を強く印象付けたいところだ。
細谷圭選手(千葉ロッテ)
細谷選手はプロ8年目の2013年に、内野のバイプレーヤーとして貴重な働きを見せて一軍に定着。そして、プロ11年目の2016年には打撃が開眼。6月下旬まで.300前後の打率をキープし、自己最多の116試合に出場。夏場に調子を落としたものの、打率.275とキャリアハイの成績を残した。しかし、2017年以降は3シーズン続けて打率1割台と打撃不振に陥ってしまい、出場機会も直近2シーズン続けて20試合台にとどまっていた。
今季は二軍で打率.288と一定の成績を残しているが、10月まで一軍での出場は一度もなかった。今季の千葉ロッテは角中勝也選手、菅野剛士選手、清田育宏選手、佐藤都志也選手と代打の層が厚かったが、感染症の影響で主力が大量離脱する事態に。この状況で一軍昇格の声がかかった細谷選手にとっては、まさに大きなチャンスといえる。長きにわたった二軍での調整の日々を経て、再び一軍の舞台で存在感を示せるだろうか。
海田智行投手(オリックス)
海田投手はプロ1年目から中継ぎとして一軍で31試合に登板し、その後も貴重な左のリリーフとしてフル回転。2016年と2019年の2度、50試合以上に登板した経験も持ち、特に2019年は55試合の登板で防御率1.84と、まさに抜群の安定感を誇った。前年同様にセットアッパーとしての活躍が期待された2020年だったが、6月26日に4失点、7月5日に3失点と崩れるケースが目立ち、その7月5日の登板を最後に、一軍での出場機会がない状況だ。
その後は二軍での登板を重ねているが、ここでは安定した投球を続けているというだけではなく、18.2イニングで18三振という高い奪三振率も記録。一軍では山田修義投手、富山凌雅投手、齋藤綱記投手といった面々が左の中継ぎとして控えているが、海田投手が昨季に近い投球を見せられれば、一軍のブルペンにとっても貴重な駒になるはず。好調のチームを支える投手陣に、厚みをもたらす存在となれる可能性は大いにあるだろう。
東明大貴投手(オリックス)
東明投手はプロ1年目の2014年から先発と中継ぎの双方をこなして一軍に定着すると、続く2015年には規定投球回に到達して10勝をマーク。主力投手としての地位を確立したかに見えたが、翌年は1勝10敗と一転して不振に陥ったうえに、以降は故障で登板数自体も減少。それでも、2018年には7試合で防御率2.27と、本来の実力が戻ってきたことを垣間見せている。
ただ、昨季は7試合で防御率7.11と安定感を欠き、ローテーションへの再定着はならず。今季はリリーフに転向して再起を図ったものの、ここまで一軍では2試合の登板にとどまっている。それでも、海田投手と同様に二軍では安定した投球を続けており、投球内容が良化していることをうかがわせる。元々先発だけでなくリリーフとしての経験も持ち合わせる投手なだけに、新たな持ち場で完全復活へのきっかけをつかんでほしいところだ。
松田遼馬投手(福岡ソフトバンク)
松田遼投手は阪神時代、2013年からの5年間で登板数が20試合を下回ったのが1度のみと、リリーフ陣の一角として一定の存在感を見せていた。シーズン途中のトレードで福岡ソフトバンクの一員となった2018年こそ2試合の登板にとどまったものの、移籍2年目の2019年には自己最多の51試合と登板機会を大きく伸ばし、防御率3.81と奮闘。52イニングで57奪三振と三振を奪う能力の高さも示し、故障者が続出したブルペンを懸命に支えた。
前年の活躍を受け、今季はさらなる活躍も期待されたが、ここまで一軍での登板は一度もない。それでも、二軍では安定した防御率を記録しているだけでなく、34回で33奪三振と持ち味も変わっていない。現役通算で183.1回を投げて185奪三振という高い奪三振能力を誇る26歳の右腕が、優勝争いを繰り広げるチームに活力をもたらす存在となる可能性は大いにありそうだ。
内川聖一選手(福岡ソフトバンク)
通算2171安打を放ち、史上2人目となる両リーグ首位打者を達成した経験を持つ内川聖一選手といえば、言わずと知れた球界を代表するヒットメーカーだ。昨季もレギュラーとして137試合に出場しただけでなく、一塁手として守備率10割というパ・リーグ史上初の快挙も達成。今季で福岡ソフトバンクに加入してからちょうど10年目となるベテランは、精神的支柱としてもチームに欠かせない存在だった。
だが、今季は栗原陵矢選手ら若手の台頭もあり、開幕から一軍出場が一度もない状況が続いている。だが、二軍ではさすがの打撃を見せて格の違いを感じさせており、状態的にはいつ一軍に上がっても優れた打撃技術を発揮してくれそうだ。これまでのキャリアで披露してきた、ポストシーズンでの驚異的な勝負強さは言うに及ばず。3年ぶりのリーグ王座奪還に向けて戦うチームを、グラウンド内外で後押しする姿は見られるだろうか。
埼玉西武の選手が取り上げられなかった理由は……
内川聖一選手や吉川投手のようにタイトル獲得歴もある実績十分の選手もいれば、谷口選手、有吉投手、東明投手のように、大ケガを乗り越え、再び一軍の舞台で活躍する機会をうかがっている選手もいる。また、海田投手や松田遼投手のように、前年に優秀な成績を残しながら今季は出場機会を減らしている投手も存在し、順位を左右する終盤戦に、チームの助けとなってくれそうな選手は少なくないと言えそうだ。
また、今回は埼玉西武の選手を1名も取り上げられなかったが、ライオンズは二軍で一定以上の成績を記録している選手は、早めに一軍に登用する傾向が強いことがその理由としてある。そして、序盤戦は一軍で結果を残せなかった田村伊知郎投手や、シーズン途中から一軍に合流したエルネスト・メヒア選手のように、実際に一軍昇格後に二軍での調整を活かし、貴重な戦力となっている選手たちも、ライオンズでは少なからず存在している。
プロ野球選手たるもの、一軍での活躍が最も重要な評価の対象となるのは間違いないところ。若手であれば、二軍での身体作りや実戦経験に時間を割くことも、将来を見据えた上では重要となってくる。ただ、中堅より上の年齢層の選手たちにとっては、シーズンのどこかで一軍の舞台で活躍できるか否かが、今後の野球人生にも影響を及ぼすことだろう。残り少ないシーズン、雌伏の時を迎えている実力者たちの巻き返しに期待したいところだ。
文・望月遼太
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