盗塁阻止時における捕手の送球コントロールを分析 鷹甲斐拓也、中日加藤匠馬、巨人小林誠司は?

Full-Count

2020.4.18(土) 11:17

福岡ソフトバンク・甲斐拓也(左)、巨人・小林誠司※写真提供:Full-Count(写真:藤浦一都、荒川祐史)
福岡ソフトバンク・甲斐拓也(左)、巨人・小林誠司※写真提供:Full-Count(写真:藤浦一都、荒川祐史)

セパの“強肩”捕手の二塁送球コントロールを分析、高めの抜け球と三塁側へ外れる送球は盗塁阻止率が低下

 多くのタスクが求められる捕手の能力の中でも、肩の強さは特に重要な要素とされている。強肩捕手というと現在のNPBでは真っ先に福岡ソフトバンクの甲斐拓也の名前が挙がるだろう。盗塁阻止時に、捕手が捕球してから二塁ベースカバーの選手にボールが到着するまでの時間(ポップタイム)は昨季のNPB平均が1.96秒。そんな中、甲斐の場合は1.7秒を切ることもある。

 だが、いくら送球が速くとも、二塁ベースカバーの選手が捕球できないところに投げたのでは台無しだ。盗塁阻止にはボールのスピードだけでなく、捕球できるところ、その中でも野手が素早くタッチしやすいところに投げるコントロールが求められる。

 野球のデータ分析を行うDELTAでは、二塁盗塁阻止時に捕手の送球がどのコースに投げられたかを、2019年のNPBを対象に分析。今回はそのデータをもとに、NPBの代表的な捕手の送球コントロールについて見ていきたい。

 はじめに、全体の傾向を見ていきたい。盗塁阻止時の送球はどのあたりに投げるとアウトになりやすいのだろうか。下のイラストは二塁盗塁が発生し、送球が行われたケースの阻止率を、捕手側から見た視点でコース別に表したものだ。目安として、二塁ベースと、ベースカバー選手の捕球時におけるおおまかな頭の高さを中心に示している。横に引かれた黒線は下が地面、上が地面から約2メートルの高さ。青枠で囲んだ地面より下の値はワンバウンドないしショートバウンド送球となった時の阻止率だ。

二盗盗塁時の送球コース別盗塁阻止率(捕手視点)※写真提供:Full-Count(画像:DELTA)
二盗盗塁時の送球コース別盗塁阻止率(捕手視点)※写真提供:Full-Count(画像:DELTA)

 これを見ると、高めに浮く送球、またワンバウンドやショートバウンドの送球はアウトになりづらいことがわかる。特に約2メートル以上にあたる一番高いコースでは、どこも阻止率が20%以下と、ワンバウンドやショートバウンド送球以上に阻止率が落ち込んでいる。

 次に左右で見ると、二塁ベースを挟んで三塁側よりも一塁側で全体的に阻止率が高くなっている。ほぼベース上に来た下から2番目の高さで見ると三塁側が46.1%、一塁側が58.4%と10%以上の差が生まれている。一塁走者へのタッチは一塁側で行われる。一塁側への送球は、捕球地点からタッチまで要する時間が短くするため、阻止率が高くなっているのだろう。

 これらを見ると、コントロールの面で盗塁阻止率を高めるには(1)送球の高低のブレ、特に高めに送球が抜けることを制御し、(2)三塁側ではなくやや一塁側に投げることが重要であることがわかる。

ポップタイムに大きな差がない甲斐と森には制球面で違いが

 ここからは捕手ごとの比較を行っていく。まずは福岡ソフトバンクの甲斐、そして昨季のパ・リーグMVPである埼玉西武の森友哉の数字を見ていく。

 コントロールを見る前にスピードについて確認しておきたい。昨季の二塁送球平均ポップタイムはNPB平均が1.96秒。これに対し甲斐は平均1.88秒、森は1.92秒を記録している。甲斐の値はさすがだが、森もポップタイムに関しては十分なものがある。

 さてコントロールだ。イラストはさきほどのものと同様の基準を使い、それぞれのコースにどれだけの割合で送球が行われたかを示したものだ。さきほどのイラストは盗塁阻止率だったが、今回は送球の割合を示している。

甲斐拓也と森友哉のコース別送球割合を比較※写真提供:Full-Count(画像:DELTA)
甲斐拓也と森友哉のコース別送球割合を比較※写真提供:Full-Count(画像:DELTA)

 まずそれぞれの高め2つの行に注目したい。甲斐は頭より上のコースはいずれも送球割合が2.0%以下に抑えられている。これに対し、森は5%前後のコースが多い。甲斐に比べると、森の送球は高めに浮くことが多いようだ。またベース周辺への送球割合も低い。森は送球スピードには秀でているものの、制球にまだまだ課題を残しているようだ。

 甲斐は送球が胸より上にいかないことを、城島健司氏が称賛する報道も以前にあった。昨季のデータから見ても、甲斐の低めに集める能力の高さがうかがえる。ワンバウンドやショートバウンドの割合は森よりやや高いが、これはとにかく高くならないよう、低く投げることを意識しているからかもしれない。

“甲斐キャノン”以上!? 球界最速“加藤バズーカ”VSポップタイムは平均的もコントロール抜群の小林

 次はセの代表的な2人の捕手を比較する。まずは中日の加藤匠馬だ。昨季は自己最多の92試合に出場。その強肩は“加藤バズーカ”と呼ばれ、セ・リーグ走者の盗塁を度々防いだ。昨季の平均ポップタイムは1.88秒。これは甲斐を上回り、12球団の主要捕手で最速の値だ。

 加藤と比較するのは、守備型捕手の代表格と言える巨人の小林誠司。2016年から4年連続で盗塁阻止率リーグトップだが、意外にも昨季の平均ポップタイムは1.94秒と平凡だ。実はこれは昨季に限ったことではなく、小林は以前からポップタイムで見るとそれほど優れているわけではない。彼ら2捕手のコントロールを比較したのが次のイラストだ。

加藤匠馬と小林誠司のコース別送球割合を比較※写真提供:Full-Count(画像:DELTA)
加藤匠馬と小林誠司のコース別送球割合を比較※写真提供:Full-Count(画像:DELTA)

 まず加藤は、さきほどの森と同様に高めに浮く傾向が強いようだ。特に一塁側の高めに送球が抜ける傾向が見られる。ただ、その分ワンバウンドやショートバウンドは4人の捕手の中で最も少なく抑えられていた。ポップタイムだけでなく、コントロールの面でも能力の高さが見える。

 一方の小林は高めに浮く送球が非常に少ない。19回の送球のうち、捕球者の頭の目安より高く投げられたのはわずか2球だけ。甲斐と同じく低めに抑えることに成功している。さらにすごいのはここからである。

 小林はほとんどをよりアウトになりやすい一塁側に集めている。19球のうち三塁側に投げられたのはわずか4球のみ。捕球者が捕りやすいというだけでなく、素早くタッチできるところにピンポイントにコントロールしていることが読み取れる。ポップタイムはそれほど速くない小林が、毎年高い盗塁阻止率を維持できるのは、こうした的確なコントロールが1つの要因と言えるだろう。

 一般的には盗塁阻止時の捕手の送球はスピードばかりが注目されがちである。ただこうした視点を持ち込むことで、より盗塁を奥深いゲームとして楽しむことができるはずだ。野球が再開した際には、捕手の肩の強さだけでなくコントロールにも注目してみてはいかがだろうか。

(DELTA)

DELTA
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』も運営する。

記事提供:Full-Count

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