「王者が王者である理由」埼玉西武ライオンズ代表選手・緒方寛海インタビュー

パ・リーグ インサイト

2020.1.11(土) 13:37

埼玉西武ライオンズ代表選手・緒方寛海(なたでここ)(C)PLM
埼玉西武ライオンズ代表選手・緒方寛海(なたでここ)(C)PLM

「eBASEBALL プロリーグ」の2018年のシーズン、埼玉西武は話題の中心だった。キャプテンの大川泰広選手(現東京ヤクルト)を中心に、神谷将徳選手、緒方寛海選手が好成績を収め、リーグ優勝、そして初代日本一の王座についた。中でも緒方選手はタイトル5冠にMVPを獲得。彼のパワプロルーツから、王者になった1年目と、王者として迎えた2年目について語ってもらった。

すべての始まりはほんの少しの興味から。初めてのパワプロ、大阪旅行ついでの予選

 緒方選手の始まりは父親に買ってもらった「パワプロクンポケット8」から。野球好きでもあったが、サクセスのストーリーにひかれ、それからの作品は全部プレイしているという。オンラインが始まった当初は中学生くらい。オリジナル選手で組んだアレンジチームでプレイしていたが、勝率は1割もなかったと笑っていた。

 2017年に「チャンピオンシップモード」ができ、8月頃にオンラインを本格的に始めたものの、11月ごろに飽きてしまい、しばらくパワプロから離れた。翌年の2018年7月、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ」の開催が発表され、緒方選手は再びパワプロに戻ってくる。オンライン予選を勝ち抜き、オフライン西日本予選への切符を手にした。

「友達もオンライン予選に勝ち残っていたので、友達と大阪旅行ついでに行くかみたいなノリで(笑)その時はまだ『絶対プロになってやる』みたいな気持ちではなかったんですよね。思い出作り的な感じで、実力的にも全くなれると思っていなかったので」

 結果は4勝1敗。好成績を残し、思い出作りからプロへの道が開けていった。

「あなたはドラフトに残りますよみたいなお知らせが来て、いやおれ出る気なかったんやけどマジか(笑)って。でも選ばれたからには、選ばれなかった人たちに恥じないようなプレイをやらなきゃいけないなと思って、そこから本当に鬼のように練習しましたね。去年(2018年)の9月くらいから毎日10時間以上やっているんですよ」

 選ばれた責任感から、練習を積んだ緒方選手。それでも実力者ぞろいのプロリーグ。活躍できるとは思っていなかった。そして、衝撃的な2018年シーズンが始まる。

「王者」になった1年目。タイトル5冠とMVP、その裏にチームメイトの存在

「チームメイトが大川さんと神谷さんだったんですけど、前年度の僕が挑戦しようとしてた大会の全国ベスト4に2人とも入っていて。昔からオンラインでの対戦の経験とかもあってめちゃくちゃ強いということはわかっていました。その2人がチームメイトというのは心強かったですし、実際連勝で僕にまわしてくれたので『これ別に負けて良いな。おれ負けても良いよな』と思って」

 そう笑いながらプロ初試合を振り返る緒方選手。その試合では東北楽天・岡田選手に対して打線爆発、9安打6得点と大勝を収めた。こうして始まった開幕戦からチームは無傷の11連勝。その要因を緒方選手はこう語る。

「試合の前日に大川さんのご自宅で練習を6~7時間くらいやっていて。どのタイミングでどの選手なら盗塁が成功するのか失敗するのかみたいなのも全部データ取って。なので僕ら去年盗塁1回も失敗していないんですよ。そういう研究もしていましたし、守備シフトはたぶん去年はライオンズが一番徹底していたと思いますね。そのおかげでライトゴロ取れたり、守備シフトの穴にヒット性の打球がひっかかることが多かったです」

 データを徹底的に積み上げ、「勝つべくして勝つ」。確実に勝利を積み重ねた緒方選手は、2018年シーズンで印象に残っている試合に第4節1戦目、千葉ロッテの下山選手との試合を挙げた。

「僕が勝って優勝が決まって。それまで1,2点しか取られてなかった千葉ロッテの下山選手から9点取って勝って。最後6回表2死から多和田真三郎投手を胴上げ投手に出して。試合後は大川選手が泣いていて。それ見て感動したし、絶対この人を日本一のキャプテンにしてあげたいなとそこで強く思いました」

 優勝し、eリーグ代表決定戦も勝ち抜き、舞台はe日本シリーズへ。セ・リーグ代表の横浜DeNAとの一戦は、1人3イニングごとで9イニング制の試合だった。緒方選手は7回から9回を担当し、勝利を収めた。初代日本一の栄冠に輝き、タイトル表彰では5部門、最後の最優秀選手賞でもその名前を呼ばれた緒方選手だった。

「本当に現実感がなかったですね。ふわふわしていました。うれしいけどあまりにも現実味がなさ過ぎて。タイトルで名前呼ばれた時も『やったぞ』という感じもなかったしずっとふわふわしていました」

 出し切ったシーズン後はしばらくパワプロから離れ、また再開したときに配球などから意識されているのを感じ、実感がわいたという。タイトルを獲得できた理由をたずねると、緒方選手はこう語った。

「昨季タイトルを取れたのは大川さん、神谷さんのおかげです。パワプロってすごくメンタル的な部分が重要で、他の2人が勝ってくれるという安心感があるし、後ろから声もかけてくれるし、すごく1年目の僕がやりやすい環境でやらせてくれました。強いてぼく個人の要因を挙げるなら『練習量』ですかね」

 毎日10時間以上の練習、綿密なデータ収集、そして頼れるチームメイト。全てがそろって、彼は王者と呼ばれるようになったのだ。

頂点に登りつめ、迎えた2年目。キャプテン就任、ルール変更、感じた難しさ

 王者として迎えた2年目、キャプテンの大川選手が東京ヤクルトに移籍し、緒方選手はキャプテンに就任。新たに前田選手、大上選手を加え、2019年シーズンがスタートした。
しかし、埼玉西武は開幕から1敗2分。他のチームに遅れをとる、苦しいスタートとなった。

「第1節は正直探り探りというか。僕もキャプテン初めてですし、チームも新しい2人が加わって探り探りなところが結構あって。僕の引き分けはダメですけど、他の2人の負けと引き分けは別に全然いいかなと思って。シーズンも第2節から第5節までありますし、その時(開幕戦)はこんな感じなんだなという気持ちでした」

 初めてのキャプテンに新しいチームメイト。手探り状態の中で、その自覚は徐々に芽生えていた。チーム状態は決して良くなかった。第2節、緒方選手は今季初勝利を挙げたが、前田選手、神谷選手は勝利とはならず、「自分のこと以上に悔しかった」と言った。そして、特にその立場を自覚したのは交流戦前節のことだった。

「大上選手が4点差逆転勝ちして、(昨季)日本シリーズで勝った時よりもうれしくて。ずっと勝たせてやりたいなと思っていたので涙が止まらなくて。キャプテンなんだなと思いましたね」

 キャプテン就任だけでなく、2019年シーズンではルール変更で、試合は5イニングと短くなり延長戦もなくなった。その影響は、引き分けが多くなったことに現れているという。実際、昨季、延長戦勝ちや接戦が多かったチームメイトの神谷選手も2試合を引き分けに終わった。

 そして当然、注目されればされるほど研究もされる。厳しい配球が多くなり、「実際のプロ野球選手もこんな感じなんだろうなと思いました」と笑った。しかし、それを言い訳にしないのもまた緒方選手だった。メンタル的にはどうか、と問うとこう言い切った。

「打てないのは自分が悪いのでそれは何とも思わないです。配球の研究されてるんですけど、ストライクの球なら埼玉西武の打線は全然打てるので、それは打てない自分が悪いです」

 難しさを感じながら過ごした2年目。緒方選手は12月7日の第3節第3戦試合、東北楽天・三輪選手にプロ初敗戦を喫した。この日はすでに第1,2試合を落とし、負けられない一戦だった。2回表に2点を先制したものの、3,4回に1点ずつ返され、5回裏にサヨナラホームランを浴び、敗戦となった。

「悔しかったですし、チームに申し訳なかったです。僕に連敗で周ってきて、僕が止めないといけないじゃないですか。ここで勝てないキャプテンって本当に申し訳ないなという気持ちと、応援してくれる人にも申し訳ないという気持ちがすごく先行して、その日はご飯食べに行ったけどずっと机に突っ伏してました(笑)そのくらい気が沈んでました」

 その翌週、緒方選手は第4節第2戦試合に出場した。同点に追いつかれた5回裏、金子侑司選手で劇的なサヨナラホームランを放ち、勝利を収めた。だが、その試合についてはあまり納得していない様子だった。

「結果はサヨナラ勝ちですけど、僕は結果をそんなに気にしないです。過程が大事だと思っていて、それまで打てる球いっぱいあったし、打たれる球もいっぱいあったし、それをお互い打てなかった結果がああいう風になって。最終的に僕の5回裏にたまたま甘い球が来て、たまたま金子侑司選手が「意外性」でギリギリフェンス越えてっていう。だからああいう戦いはしてちゃいけないなと反省する気持ちもあるんですけど、とりあえず勝てて良かったなとは思います」

 最後に、1月12日に迎える最終第5節に向けて決意を語ってもらった。

「僕らがやることは3連勝することだけ。僕も他の3人も反省点というのはあるのでそこをしっかり洗い直して、最後に最強の3人をお見せしたいなと思います」

 ひとりの力だけではなく、仲間の存在が彼を王者たらしめた。王者はまだ諦めない。最後の瞬間まで、彼の戦いは続く。

取材・文 丹羽海凪

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