最下位からの脱出とリーグ制覇を目指し、「RESTART!日本一の東北へ」のスローガンを掲げた東北楽天ゴールデンイーグルスは、優勝こそかなわなかったものの、Aクラスに進出。オフシーズンの補強に大成功し、来たる2020年シーズンに向けて大きな足がかりをつかんだ。今回は、特集動画「シーズンレビュー2019」で試合を振り返り、本記事では選手にフォーカス。前編は投手を中心に、後編は野手を中心に楽天の2019シーズンを振り返っていく。
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新戦力が主軸として躍動。チームを支えた2人の右打者
昨季得点力不足に苦しんだチームを助けたのは、浅村栄斗選手とブラッシュ選手だろう。埼玉西武からFAで加入した浅村選手は、移籍初年度でキャリアハイの33本塁打を放った。2018年は対楽天で打率.368を残していた「天敵」の加入は、チームにとってもファンにとっても非常に心強い味方になったと言えるだろう。
また、浅村選手のバッティングや野球に取り組む姿勢などを近くで見て学ぶことが、若手選手の成長材料になったこともチームにとっては大きい。しかし、「本塁打・打点・打率」では「打率」に一番こだわるという浅村選手にとって、今季の打率.263は決して満足のいく数字ではないはず。来季は打率を3割台に乗せられるだろうか。
ブラッシュ選手の活躍も忘れてはいけない。今季から加入したブラッシュ選手は、独特な構えから鋭い打球を放ち、浅村選手と並ぶ33本塁打を放った。特に5月は、10本塁打27打点の驚異的な活躍で大きく貢献。夏場は日本の蒸し暑い気候に苦戦したが、打順を下げる、リフレッシュ休暇を与えるなど、チーム全体でブラッシュ選手がベストが出せるようバックアップ。また、出塁率でリーグ4位(.397)を記録するなど選球眼が良く、シーズン序盤は6番、7番に座ることが多かったが、8月からはほとんどの試合で4番に座り、打線の起爆剤として機能した。
得点圏打率はチームトップ。与えられた役割を全うした「つなぎの4番」
そして、島内宏明選手も目を見張る活躍を見せた。シーズン序盤は「つなぎの4番」として打線をけん引した。島内選手本人は4番という打順について「なんで自分が」と後ろ向きな発言も多かったが、ファン目線で言えば非常に頼もしい4番だった。打率.287、57打点とそこまで突出した数字ではないように見えるが、得点圏打率はチームトップの.342(※規定打席到達者のうち)、キャリアハイの145安打を記録している。特に、多くの選手が失速してしまう夏場の8月の月間打率は.362、38安打と好成績を残し、シーズンを通して存在感を示し続けた。
期待以上の仕事を見せたルーキー野手たち
今季はルーキーの活躍も非常に目立った。まずはドラ1・辰己涼介選手だ。大学No.1野手と称され、走攻守すべての面において大きな期待を、そして楽天のレジェンド2人が背負ってきた背番号「7」を背負って入団すると、守備範囲の広さ、そして球界でもトップクラスの肩の強さで何度もチームを救った。野手がどれだけ投手の失点を防いだかを表し、野手の守備を評価する指標とされる「UZR」に着目すると、外野手のなかでもトップクラスに入っていることから、一級品であることは間違いないだろう。
その反面、打撃においては大きな課題を残した。新人ながら124試合に出場したものの、打率.229、4本塁打、25打点、得点圏打率.192と思うような結果を残すことができなかった。しかし、大学時代にはリーグ2位の122安打を記録していることから、ポテンシャルが高いことは明らか。オフシーズンの過ごし方が来季の活躍に直結すると言っても過言ではない。
また、ドラ6・渡邊佳明選手の活躍も光った。ルーキーであることを忘れてしまうほどの驚異的な勝負強さと卓越したバットコントロールを兼ね備える渡邊選手は、8月に入ると、一時は5割を超える得点圏打率を残し、一軍には欠かせない戦力として機能した。痺れる場面でも与えられた仕事を難なくこなし、平石前監督も「佳明は代打でバントもある」と言うほど小技も使える器用な選手だ。ルーキーということは、対戦する投手のほとんどが初見である。しかし、渡邊選手は打席内でタイミングの取り方や足の上げ方などさまざまな工夫を凝らし、徐々に合わせていく対応力、修正能力を持っており、首脳陣からの評価も高かった。2年目はさらに爪跡を残し、定位置奪取と行きたい。
長年チームを支えた捕手の不在。救ったのは4年目の若鷲
これまでチームを支えてきた嶋基宏選手が腰痛などによる長期の戦線離脱で、キャリア最小の57試合にとどまった。これにより、4年目の堀内謙伍選手がチーム最多の52試合でスタメンマスクをかぶった。今オフ、堀内選手はレギュラー奪取へ向けて、古傷である右肘の手術に踏み切った。これまでは注射を打ち、だましだましプレーしてきたが、これで万全のコンディションで来季を迎えることができそうだ。
首位攻防戦やCS進出が懸かった試合など、チームにとって重要な試合でスタメンマスクを被ったのは堀内選手。入団当時から、当時二軍監督だった平石前監督の指導を受けており、この長い期間で築かれた信頼関係が、起用につながったのではないだろうか。来季からは、指導を受けてきた平石前監督、そして入団当初からお手本としてきた嶋選手は身近な存在ではなくなる。先輩たちの教えを生かし、レギュラーを勝ち取ることが両者への最大の恩返しとなるだろう。
さらなる浮上のカギは「機動力野球」か
攻撃全体の課題として犠打の精度が挙げられる。犠打は一歩間違えれば併殺打になりかねないリスクの高い戦術であり、犠打一つで試合の流れが変わる可能性もある。今季は銀次選手や茂木選手など上位打線のチャンスに強い打者にも犠打のサインが送られる場面が多く、失敗して得点のチャンスを失う場面も見られた。今季、一軍内野守備走塁コーチを務めた酒井忠晴コーチが二軍内野守備”バントコーチ”に就任したことが、その表れではないだろうか。
犠打の精度が向上すれば、攻撃の幅が広がるに違いない。また、辰己選手、オコエ瑠偉選手、茂木栄五郎選手など足が使える選手が多い中、今季の盗塁数は48個で北海道日本ハムに並んでリーグ最下位に終わった。
9月24日、CS進出が懸かった福岡ソフトバンク戦において、オコエ瑠偉選手と辰己選手がダブルスチールを成功させ、送球がそれた間にホームイン。「足」で貴重な1点をもぎ取った。このように、次の塁への積極的な姿勢を見せられれば、必然的に得点も増えるだろう。来季は、機動力を生かした野球にも期待したい。
7年ぶりのリーグ制覇へ。既存戦力と新戦力でチーム力底上げへ
2019シーズンを3位で終えた楽天は今、平石監督の退任や主力選手の退団など、来季への不安が大きいことは確かだ。しかし、堀内・太田両捕手の成長や辰己選手の守備、若手投手の台頭など、収穫も大きい。さらに、2018年の新人王・田中和基選手や左キラーの高梨雄平投手、Wエースなどの今季不調に苦しんだ選手の復調、そしてFAで加入した鈴木大地選手の力も加われば、優勝争いも夢ではないはず。今季二軍監督としてイースタンリーグ初優勝に導いた三木肇新監督の下、チーム全体の底上げを図り、どのようなチームが形成されていくか。来季こそは7年ぶり2度目のリーグ優勝、そして日本一の栄冠を手にして、東北を熱く盛り上げてくれることに期待しよう。
文・後藤万結子
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