撮影は600時間超。パ・リーグの裏側を定点カメラが解き明かす「パーソルカメラ」
パ・リーグ公式戦のタイトルパートナーである、パーソルホールディングス株式会社が企画した『パ・リーグ裏側密着中「パーソルカメラ」』(以下、「パーソルカメラ」)。パーソル パ・リーグTV公式YouTubeチャンネルで公開されているこのシリーズでは、「パ・リーグを支えるスタッフの仕事へのプロフェッショナリズムを30台以上の定点カメラがあらゆる角度から解き明かす!」をテーマに、球団スタッフの働き方や仕事への想いがリアルに描かれている。
2024年に誕生し、累計100万回再生を超える「パーソルカメラ」はどのようにしてつくられているのか。その撮影の裏側をお届けしよう。
計4日間で下見・カメラ設置・インタビュー・撮影を行う
今回同行した撮影は、近日公開予定の千葉ロッテマリーンズ編。MD・コンセッション部の吉井武蔵志さん、ブランド統括部の奈良林希さん、法人営業部の松本明さんにそれぞれ密着した回だ。
撮影日程は4日間。まず初日は球場を下見し、カメラの設置場所を決める。デスクの位置や打ち合わせが行われる会議室の場所、動線などを確認。表情やちょっとした仕草も捉えるため、取材対象者本人や周囲のスタッフに普段の動きをヒアリングしながら、カメラの置き場所を見定めていく。例えば、デスクにいるときに同僚が話しかけて来た場合、その人がどこに立つのかを予測し、各々の表情が映るような位置に選定するといった具合で、さまざまなケースを想定する。

2日目は前日の下見をもとに、実際に約30台のカメラを取り付けていく。


カメラの設置と並行して行われるのがインタビューだ。入社の経緯や主な業務内容、やりがい、強く印象に残っている出来事……。仕事にかける想いを、それぞれ約1時間にわたって丁寧に聞く。

そして3日目は、いよいよ試合日の一日を撮影する。定点カメラのほか、取材対象者がスタジアム周辺やコンコースを見回るときには、その動きに応じてハンディカメラで帯同。主催試合がない4日目は、試合日とは異なる業務の様子や、スタジアム周辺の雰囲気などの雑観カットを撮影した。

想定外の出来事を“おもしろがる”。制作陣インタビュー
「パーソルカメラ」の制作では、撮影後から公開までのプロセスにより多くの時間をかけているという。
今回お話を伺ったのは、企画発案者であるパーソルホールディングス株式会社の北爪直果さん、制作を担っている株式会社Vision1の大住佑介さん(プロデューサー)、中山宙さん(演出・撮影・編集・音楽/音効)、OriVEの折笠慶輔さん(撮影・編集)。「パーソルカメラ」誕生の背景から制作の裏話まで語ってもらった。
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ーー「パーソルカメラ」の企画が生まれたきっかけを教えてください。
北爪:パーソルが「パ・リーグにかかわる、 すべての人を応援します!」という協賛メッセージを掲げているなか、選手や興行を裏で支えている人たちのプロ意識を取り上げたいなという想いがありました。スポンサーとして、ファンの皆さんが普段入れないような場所の映像を届けることができたら、スポンサーとファン、みんなで一緒にパ・リーグを応援しているという空気ができると思い、球団スタッフの裏側に密着する企画を考えました。

ーー選手や興行を支える方々にスポットを当てたいという想いがあったんですね。
北爪:この動画を観ている多くの方が、同じように社会人として働いていると思います。普段はエンタメとして野球を観ているけど、実はその裏側の部分は自分事にできたり、ご自身が会社で感じていることを、球団のスタッフの皆さんも同じように感じていたりすると思うので、親近感を覚えてもらえたらいいですね。
ーー撮影を終えてから動画を公開するまでは、どのような作業を行っているのでしょうか。
大住:撮った素材を整理することから始まりますが、それがとても大変なんです。30台以上のカメラで、例えば1日10時間撮影するとしたら、2日で600時間。さらにインタビューなども撮影しているので、かなりの量の素材が集まります。それを整理したら、それぞれの動画を確認しますが、その観るという作業もまたすごく時間がかかるんです。それが終わったらストーリーを考えて、編集をして、たたき台を出してというふうに、ちょっとずつ形にしていきます。

ーー編集前の動画のチェックに時間がかかるんですね。
大住:普通のドキュメンタリーの場合は、ディレクターが撮影の内容を見ているので、どういう内容が撮れているのか把握できますが、定点カメラの長回しは何が撮れているのかわからないし、現場で何が起こっているのかもわからない。そこが一番難しいところでもあり、醍醐味でもありますね。意外なものが撮れているというおもしろさもあり、逆に期待していたものが撮れていなかったり、カメラの前に物を置かれちゃって何も映っていなかったり、いろいろなことが起こり得るんです。
前もって決まっていることだけを撮ってもドキュメンタリーではないですからね。撮影中は想定外のことが起きたり、聞いていなかったことが急にあったりするので、そこは臨機応変に対応するようにしていて、なるべくそういったものをおもしろがるようにしています。
ーーこれまでに起きた想定外だった出来事を教えてください。
中山:昨年、ZOZO マリンスタジアムの撮影で雨が降った日が印象深いです。球団職員の仕事って、そのチームの勝ち負けや天候によって予定していたイベントができたりできなかったり。自分の力ではどうしようもないことに翻ろうされるというのを改めて実感しました。あの日、個人的には中止になるかもしれないなと思ったんですけど、現場で球団の方々が試合開催に向けて準備を進めているのを見ると、簡単には判断できないなと思いました。単純にコスト面だけではない、ここまでに積み上げてきた想いを感じました。

ーーそのほかに印象的だった回はありますか?
北爪:私は、福岡ソフトバンクホークスの稲永大毅さん(マーケティング企画部部長)が印象的でしたね。野球のエンタメ化についての葛藤を語る映像を見て、うるっときました。球団職員の方のそういう葛藤って普段は聞く機会がないですし、「そんなことを思っているんだ」と。
中山:エンタメ化によって野球そのものの楽しみが阻害されるといった声だけでなく、例えばSNS出演やイベント稼働など、選手の仕事は10~20年前よりも確実に増えていますよね。そうした変化のなかで、野球のエンタメ化に対して、球団職員としてためらいや葛藤はあるのかどうか伺いました。
大住:そういう葛藤があるっていうのは他球団の撮影のときにも聞いていたので「じゃあ、インタビューではそういったことを聞いてみようか」と。昨年の前半回を撮影しているうちに、中山さんが語ってくれたようなことを考えるようになりました。
ーー撮影ではどのようなことを意識していますか?
折笠:仕事をするうえで、何を一番大事にして働いていらっしゃるのかを感じられる瞬間を探していますね。ドキュメンタリーの主人公になる方の、同僚やお客さん、選手など、いろいろな方々と関わり合うときの言葉や表情が見られると、「この人はこういう想いを持って仕事しているんだ」というのが伝わるかなと思っています。

視聴者に共感してもらえるコンテンツを目指して
ーーずばり、「パーソルカメラ」の魅力とは?
北爪:球団で働くって聞くと、すごくキラキラしているように思いますけど、実際はそんなことばかりでもないというか。リアルなところが見られるのは「パーソルカメラ」のいいところかなと思っています。
折笠:昨年、楽天モバイルパーク宮城で取材した日は、イーグルスが負けたんですよ。動画コンテンツを制作するにあたっては、やっぱりすっきりと勝って、球団職員が用意したイベントをやって終わりたいところですが、勝った日限定の試合後のライブ配信(『試合後のリアル LIVE』)ができないという側面も描けるところもリアルで。だいたい動画コンテンツは楽しい方が良くて、勝って「わー!」と盛り上がるべきですが、ドキュメンタリーとして、そういう思い通りにいかなかったシーンをしっかり見せることができたのは良かったと思います。
中山:どうにもならないことで翻ろうされるとか、うまくいってない様子は、その球団のファンじゃない人にも共感されるんじゃないかと思います。普段仕事をしていたら、うまくいかないことがたくさんありますし、だからこそそういう内容の方がコンテンツとして伝わるんじゃないかと思っています。
大住:僕としても「普通」の人が取り上げられているのが一番いいと思っていて。「パーソルカメラ」がアップされているパーソル パ・リーグTVの公式YouTubeは華やかな動画が多いじゃないですか。スター選手が出てきて、明るく楽しくプレーしている。そんな動画がたくさんあるなかで、全く違う色のコンテンツは存在意義があると思っています。実直に働く人たちがパ・リーグを支えているんだよと。観る人に共感してもらえるような動画を目指したいですね。
北爪:そして、働くうえでずっと変わらないことが語られていますよね。今だけでなく、数年後に観ても楽しめる動画だと思います。
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取材・文 高橋優奈
