2025年シーズンのMLBは、ドジャースの大谷翔平選手が3年連続でMVPを獲得し、同じくドジャースの山本由伸投手が歴史的活躍を見せてワールドシリーズMVPに輝くという、日本人選手の活躍が光った一年だった。そして、日本人の次世代エースとして期待したいのがオリックス・山下舜平大投手だ。

　2年前に私、元オリックス投手・鈴木優が「全米におすすめしたい選手」として山本投手について書いたが、山下投手は山本投手とはまた違った将来性がある選手。彼は私より6歳下で、福岡大大濠高から2020年にドラフト1位で入団した後輩。オリックスでは、彼のルーキーイヤーの一年だけ一緒にプレーした。元チームメイトとして成長を間近で見てきた視点から、なぜ彼を全米におすすめしたいのかを書きたいと思う。

“22歳のような落ち着き”がある高卒ルーキー

　山下投手がバファローズに入団してきたとき、一番驚かされたのはその「頭の良さ」と「落ち着き」だった。通常、高卒1年目の選手はプロの環境に慣れるだけで精一杯だが、彼は違った。自分の現在地を冷静に把握し、「今すぐに勝てる技術でなく将来に通用するための体をつくる時期」と割り切って、黙々と練習やウエイトトレーニングを続けていた。

　その練習をするときも、常に「なぜこのトレーニングが必要なのか」を理論立てて考えていた。先輩やトレーナーさんに対しても、単にアドバイスを聞くのではなく、自分の状態に対してどうアプローチすべきかと具体的に聞いていた印象がある。その落ち着いて過ごす態度は、とても18歳とは思えず、高校卒業から4年は経った22歳の選手に見えるほどだった。

　この「俯瞰して冷静に自分を見る力」こそ、異国の地での孤独な戦いにおいて、技術以上に重要となる資質なのではと、現場での取材を通して感じている。

投球スタイルは大谷翔平に近い

　投球スタイルにおいては、オリックスの先輩である山本投手よりも、大谷選手に近いタイプだと思う。

　山本投手は多彩な球種を完璧な制球で操り、冷静に抑えていくという相手の弱点を突く投手。それに対して、大谷選手は圧倒的な体の強さから繰り出される力強いストレートと、横に大きく曲がるスイーパーを軸に、パワーで圧倒するタイプの投手だ。

　身長190cmの山下投手のストレートはリリースの位置が高く、そこから凄まじい角度でミットに突き刺さる。この「角度」と「球威」の掛け合わせによって、大谷選手のようにグイグイ押すピッチングを期待できると思う。

山下舜平大のストレートは「エリート級のホップ成分」

　昨今のMLBでは、ナ・リーグでサイ・ヤング賞に輝いたポール・スキーンズ投手（パイレーツ）や、デビューから3連勝を飾った“怪物新人”ことジェイコブ・ミジオロウスキー投手（ブリュワーズ）、ワールドシリーズで7回12奪三振1失点と快投したトレイ・イェサベージ投手（ブルージェイズ）など、速球派の若手投手たちが活躍している。

　最速161km/hの山下投手もミジオロウスキー投手同様、ストレートで抑える能力に長けており、変化球で空振りを取りやすくなる。ミジオロウスキー投手がやや荒削りで力押しなのに対し、山下投手は前述の知性・論理性により、配球の意図が明確で、データを多く使う環境によりマッチすると想像できる。

　また、山下投手とイェサベージ投手は、二人とも多彩な変化球を投げるというより、山下投手はストレートとカーブ、フォークという構成、イェサベージ投手はストレート、スライダー、フォークで勝負する。MLBでは現在、「平均的な多い球種」よりも「優れている2〜3球種」の方が高く評価される傾向があり、これがまさに山下投手を全米におすすめしたい理由だ。山下投手のストレートは「エリート級のホップ成分」を持っているとアメリカでも評価されており、これだけで並みいる強打者を翻ろうできるポテンシャルがあると思う。

　今、MLBでは日本人選手の活躍が「当たり前」の光景になってきたが、山下投手はその「当たり前」の基準をさらに一段階引き上げてくれる可能性を持つ選手として、期待を集めている。これからどのような投球を見せてくれるのか、さらなるレベルアップに注目したい。

文・鈴木優