「この選手は初球に強い」「この選手は追い込まれてから粘り強い」という表現を耳にしたことのある人は多いだろう。しかし、実際にカウント別の成績を確認したうえで、選手個々の特性にアプローチが行われることは、これまで決して多いとはいえなかった。そこで、今回はパ・リーグ内における打者の成績をストライクカウント別に確認し、0ストライク、1ストライク、2ストライクといったカウントごとに、それぞれの状況に強い打者を調べていきたい。
ファーストストライクの打率は、全体的に高くなりがち
まずは、0ストライク時の打撃成績を見ていこう。「好球必打」という言葉は古くから存在するが、ファーストストライクから積極的に手を出していく姿勢は、日本野球の最高峰であるプロの舞台においても変わることなく重要視されるものだ。
とはいえ、きっちりとボール球を見極め、1ボール、2ボールとカウントが打者有利になっていくにつれ、投手がストライクゾーンに甘い球を置きに行く可能性も高くなる。このカウントでの打撃成績は、ボール球に手を出すことなくきっちりと最初のストライクを捉える、まさに「好球必打」の成果を示したものと言えるのではないだろうか。
その性質上、打者にとって不利なカウントが存在しないということもあり、0ストライクの状況では多くの選手が優れた打撃成績を記録していた。その中でもとりわけ高いレベルの成績と言える打率.400以上の数値を残した選手たちを、極端に打数の少ない選手を除く形で、各球団ごとにピックアップしていく。
・北海道日本ハム
王柏融選手:50打数24安打 2本塁打11打点 打率.480
近藤健介選手:56打数24安打 0本塁打18打点 打率.429
平沼翔太選手:31打数15安打 1本塁打7打点 打率.484
田中賢介選手:21打数10安打 1本塁打8打点 打率.476
清水優心選手:31打数13安打 1本塁打7打点 打率.419
・楽天
ブラッシュ選手:92打数38安打 11本塁打37打点 打率.413
下水流昂選手:19打数8安打 2本塁打4打点 打率.421
・埼玉西武
森友哉選手:122打数60安打 14本塁打41打点 打率.492
秋山翔吾選手:123打数52安打 7本塁打20打点 打率.423
メヒア選手:20打数8安打 2本塁打10打点 打率.400
・千葉ロッテ
マーティン選手:41打数17安打 5本塁打13打点 打率.415
・オリックス
吉田正尚選手:106打数47安打 15本塁打36打点 打率.443
ロメロ選手:76打数31安打 7本塁打24打点 打率.408
大城滉二選手:73打数30安打 2本塁打15打点 打率.411
・福岡ソフトバンク
柳田悠岐選手:39打数16安打 4本塁打11打点 打率.410
福田秀平選手:30打数13安打 3本塁打8打点 打率.433
北海道日本ハムが6球団中最多となる5人を輩出。わずかに打率.400に届かなかった渡邉諒選手と石井一成選手も、ともに打率.393という数字を記録しており、有利なカウントできっちりと結果を出している選手が多い。今季レギュラーに定着した渡邉選手はこのカウントで5本塁打、27打点と長打力も発揮しており、好球必打の姿勢が感じられるところだ。
長打という面では、吉田正選手が15本塁打36打点、森選手が14本塁打41打点、ブラッシュ選手が11本塁打37打点と、それぞれ高打率を残すだけではなくポイントゲッターとしても活躍。福田選手が3本塁打、下水流選手とメヒア選手が2本塁打と、30打数以下の打者も長打力を発揮しており、性質的にも思い切りのよいスイングがしやすく、本塁打も狙いやすいカウントであることがうかがえる。
森選手は打率が.492とアベレージの面でも抜群の数字を残しており、高確率でファーストストライクを逃さない高い打撃センスが光る。また、王選手、ブラッシュ選手、メヒア選手、マーティン選手、ロメロ選手と、多くの助っ人選手が好成績を残しているのも特徴的だ。甘い球を逃さない積極的な姿勢が、このカウントにおける好成績にもつながっているのかもしれない。
好成績の選手が多かった北海道日本ハムだが、ストライクが一つ増えると?
続けて、1ストライク時の打撃成績を見ていきたい。1ストライク2ボール、あるいは1ストライク3ボールという、俗に言う「バッティングカウント」の一つとされる状況では、やはり投手がストライクゾーンにボールを置きに来る可能性は高くなる。それゆえ、0ストライクの時ほどではなくとも、打撃成績は全体的に優れたものとなっている傾向にある。
ここでは、0ストライク時よりもややハードルを下げ、打率.380以上の選手たちを各球団ごとにピックアップした。その結果は以下の通りだ。
・北海道日本ハム
大田泰示選手:142打数54安打 5本塁打26打点 打率.380
・楽天
ブラッシュ選手:86打数37安打 14本塁打30打点 打率.430
銀次選手:166打数65安打 1本塁打20打点 打率.392
和田恋選手:22打数11安打 1本塁打3打点 打率.500
太田光選手:22打数9安打 1本塁打4打点 打率.409
今江年晶選手:23打数9安打 1本塁打4打点 打率.391
・埼玉西武
外崎修汰選手:130打数55安打 15本塁打39打点 打率.423
中村剛也選手:112打数44安打 9本塁打29打点 打率.393
・千葉ロッテ
三木亮選手:27打数13安打 2本塁打7打点 打率.481
・オリックス
ロメロ選手:61打数28安打 7本塁打17打点 打率.459
中川圭太選手:115打数47安打 2本塁打14打点 打率.409
宗佑磨選手:43打数17安打 1本塁打8打点 打率.395
佐野皓大選手:24打数10安打 0本塁打3打点 打率.417
マレーロ選手:31打数12安打 0本塁打7打点 打率.387
・福岡ソフトバンク
甲斐拓也選手:103打数44安打 6本塁打20打点 打率.427
グラシアル選手:117打数50安打 10本塁打26打点 打率.427
釜元豪選手:38打数19安打 3本塁打4打点 打率.500
柳田悠岐選手:24打数10安打 1本塁打6打点 打率.417
0ストライクのケースとは一転して、北海道日本ハムの選手は大田選手ただ一人に。それに代わって楽天とオリックスが最多タイとなっており、チームの方向性の違いが見て取れる結果となった。楽天ではブラッシュ選手が14本塁打30打点と0ストライク時を上回る数のアーチを描いており、銀次選手も.400近い打率を記録。加えて、若手の和田恋選手と太田選手、ベテランの今江選手といった、レギュラー以外の選手たちも好成績を収めている。
楽天と同じく5人をランクインさせたオリックスでは、ロメロ選手の圧巻の打棒が目に付くところ。0ストライク、1ストライクともに優れた打撃成績を残しており、複数回に及ぶ負傷離脱さえなければ、通年でもかなりの好成績を残していた可能性は高い。中川選手、宗選手、佐野選手はいずれも若く、並行カウントやバッティングカウントできっちりと甘い球を捉えられているという点は、その将来性を考えても楽しみな要素と言える。
ほか、各球団のレギュラー格では外崎選手、甲斐選手、グラシアル選手が.400を超える打率を記録しており、打者有利、あるいは五分のカウントからしっかりと結果を残している。打数の少ない選手の中では釜元選手が打率.500、三木選手が打率.481とハイアベレージを記録し、限られた出場機会でも落ち着いた打撃を見せていた。
2ストライクになると、多くの選手は打率を大きく落とすが……
最後に、2ストライク時の打撃成績について見ていきたい。0ストライクや1ストライク時と明確に異なる点として、三振によるアウトが打席結果に含まれることが挙げられる。また、2ストライクからファウルを打ってもストライクは増えないというルール上の影響もあり、2ストライクでの打数は基本的に0ストライクや1ストライクに比べて大幅に多くなっている。
先述の通り、三振でのアウトはすべてこのカウントに含まれる。それに加え、2ストライクとなると打者は際どい球に対してもゾーンを広げて対応する必要があり、投手側からすればカウント次第でボール球を振らせようという配球も増えてくる。それらの要因も重なり、多くの打者はこの状況では打率.140から.220前後という水準の数字に収まっている。
打者にとって厳しいカウントであることは間違いないが、そんな状況においても例外的に一定の数字を残している対応力の高い選手も存在する。ここでは、2ストライク時に打率.240以上の成績を残している選手を、各球団ごとにピックアップしていきたい。
・北海道日本ハム
近藤健介選手:300打数86安打 1本塁打28打点 打率.287
・楽天
藤田一也選手:65打数16安打 0本塁打1打点 打率.246
島内宏明選手:269打数66安打 5本塁打24打点 打率.245
・埼玉西武
森友哉選手:242打数60安打 3本塁打37打点 打率.248
・千葉ロッテ
荻野貴司選手:231打数60安打 5本塁打18打点 打率.260
吉田裕太選手:25打数6安打 1本塁打3打点 打率.240
・オリックス
吉田正尚選手:242打数60安打 4本塁打22打点 打率.248
・福岡ソフトバンク
長谷川勇也選手:21打数8安打 2本塁打3打点 打率.381
川島慶三選手:38打数11安打 1本塁打4打点 打率.289
以上のように、相対的に打率が優れている部類に入る選手であっても、その数字はそこまで高くはない水準にとどまっている。そんな中で、近藤選手は追い込まれてからの打率が.287と、一歩抜け出た数値を記録している。リーグトップの103四球を選んだ卓越した選球眼を備えた近藤選手は、出塁率もリーグトップの.422。2ストライクからでも冷静な打撃ができる対応力の高さが、近藤選手のハイレベルな成績を支えているのかもしれない。
最終盤まで首位打者を争った森選手と吉田正選手の2名は、ともに打率.248と互角の数字を残し、相対的に見ても十分に高い水準の成績を記録。追い込まれてからも相手ピッチャーの配球に対応ができることも、両選手が高打率を残せた要因の一つと言えるか。他の各球団の主力打者の中では、荻野貴選手と島内選手が好成績を残していることに加え、惜しくもランク外となった西川遥輝選手(北海道日本ハム)も打率.239という数字を記録。それぞれ、上位打線にふさわしい粘りを発揮している。
打数が少ない選手の中では、やはり長谷川勇選手の驚異的な高打率が目を引くところ。21打数で2本塁打と長打力も発揮しており、経験豊富な元首位打者は不利な状況でもさすがの打撃を見せている。同僚の川島選手は2ストライク時のみならず、0ストライクで10打数6安打の打率.600、1ストライクで18打数7安打の打率.389と、打数は少ないながらも各カウントで好成績を記録。追い込まれても強いベテランは、スーパーサブとして随所で存在感を示している。
森選手と近藤選手は、複数のシチュエーションで強さを発揮
ファーストストライクにおいて打率.500に迫る素晴らしい数字を記録している選手もいれば、追い込まれたカウントからでも一定以上の数字を残せる選手もいる。一軍で活躍している選手たちは当然ながら相応の実力者ばかりだが、選手一人一人によって得意なカウントや、相対的に苦手なカウントが存在することも確かなようだ。
森選手と近藤選手は0ストライク時と2ストライク時の双方で好成績を残しており、積極性と対応力の両面で優れた能力を有していると言えそうだ。また、0ストライクと1ストライクの双方で好成績を残しているブラッシュ選手とロメロ選手のように、追い込まれるまでのカウントにおいて抜群の強さを発揮するタイプの選手も存在する。
カウントの移り変わりに応じて、バッテリーと打者の間で行われる駆け引きの内容やセオリーもまた目まぐるしく変化していく。0ストライク時に強い打者の場合は最初のストライクが入るまでの配球や打者の反応、追い込まれてから強い選手は2ストライクからの粘りや見極めといった、打者がそのカウントに強さを見せている要因と、それに対抗するバッテリーの攻めを意識しながら試合を見ていくと、また違った角度から野球を見ることができるかもしれない。
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