主力打者の左右別相性はチーム全体にも影響? パ6球団の数字を分析(前編)

パ・リーグ インサイト 望月遼太

2019.8.31(土) 12:00

東北楽天ゴールデンイーグルス・ブラッシュ選手(C)パーソル パ・リーグTV
東北楽天ゴールデンイーグルス・ブラッシュ選手(C)パーソル パ・リーグTV

 左投手に強い打者、右投手に強い打者、そして左右どちらの投手に対してもほぼ変わらない成績を残す打者。投手の左右によってどれだけの変化が生じるかは、打者一人一人によってさまざまだ。セオリーでは右打者は左投手に、左打者は右投手に強いとされるが、投手、野手ともに、その一般論に当てはまらない選手は数多く存在する。

 たとえ同一の打者であっても、シーズンによって左右投手別の相性が真逆の傾向を示す例も珍しくない。そして、選手たちが残した成績が束になって示されるチーム全体の成績にも、同様に明白な傾向が表れることもまた多いものだ。

 そこで、今回は北海道日本ハム、楽天、埼玉西武の3球団の左右投手別打撃成績と、各球団の主力打者たちの左右投手別対戦成績を紹介。そのチームが全体として左腕と右腕のどちらを得意としているのか、そして、その傾向はどんな理由で生じているのか。数字をもとに探っていきたい。(成績は8月29日現在)

後編(千葉ロッテ、オリックス、福岡ソフトバンク)はこちら

北海道日本ハム

対左投手:1172打数275安打 22本塁打102打点 打率.235 出塁率.317 OPS.661
対右投手:2894打数753安打 63本塁打373打点 打率.260 出塁率.333 OPS.719
合計:4066打数1028安打 85本塁打475打点 打率.253 出塁率.328 OPS.702

 打率はリーグ2位ながら、本塁打、得点数(500)は共にリーグ5位と、やや決め手に欠く印象は否めないところか。左右別の対戦成績に目を向けると、チーム全体が左投手に比べて右投手を得意としていることが読み取れる。主力打者の左右別成績は以下の通りだ。

中田翔選手(右打者)
対左投手:102打数18 安打 5本塁打14打点 打率.176 出塁率.276 OPS.629
対右投手:287打数77安打 18本塁打57打点 打率.268 出塁率.354 OPS.859

渡邉諒選手(右打者)
対左投手:113打数29安打 2本塁打8打点 打率.257 出塁率.354 OPS.743
対右投手:288打数79安打 8本塁打46打点 打率.274 出塁率.342 OPS.759

大田泰示選手(右打者)
対左投手:131打数33安打 3本塁打15打点 打率.252 出塁率.289 OPS.648‬
対右投手:331打数104安打 15本塁打56打点 打率.314 出塁率.357 OPS.877

近藤健介選手(左打者)
対左投手:131打数38安打 0本塁打10打点 打率.290 出塁率.386 OPS.752
対右投手:291打数89安打 2本塁打45打点 打率.306 出塁率.442 OPS.‬865

西川遥輝選手(左打者)
対左投手:134打数41安打 1本塁打7打点 打率.306 出塁率.419 OPS.807
対右投手:336打数92安打 4本塁打29打点 打率.274 出塁率.371 OPS.752

王柏融選手(左打者)
対左投手:85打数19安打 2本塁打11打点 打率.224 出塁率.284 OPS.613
対右投手:208打数58安打 1本塁打24打点 打率.279 出塁率.346 OPS.‬687

 チーム成績と同様に、選手個々の成績を見てもはっきりとした傾向が出ている。左打者の近藤選手や王選手のみならず、中田選手、大田選手、渡邉選手といった右打者も揃って左投手よりも右投手を得意としている。特に中田選手と大田選手は打率やOPSを見ても、左打者の近藤選手や王選手以上に顕著に差が表れていると言えるだろう。

 やや打数の少ない選手の中にもその傾向は表れており、石井一成選手(対左打率.195、対右打率.221)、清宮幸太郎選手(対左打率.174、対右打率.209)、杉谷拳士選手(対左打率.190、対右打率.235)、中島卓也選手(対左打率.185、対右打率.223)と、対左打率が1割台とかなり苦にしている打者が少なくなかった。

 主力打者の中で、唯一の例外と言えるのが西川選手だ。左打者ながら左投手を苦にせず、対左打率.306という好成績を残している。2018年は対右打率.294に対して対左打率.231と真逆の傾向が示されていただけに、切り込み隊長にとっては前年の課題を一つ克服しつつあるシーズンといえるか。

 ほか、清水優心選手(対左打率.302、対右打率.258)、横尾俊建選手(対左打率.214、対右打率.172)という右打ちの若手2人に加え、平沼翔太選手(対左打率.263、対右打率.253)、そしてベテランの田中賢介選手(対左打率.292、対右打率.267)の左打者2人も左投手を得意としており、チームの弱点を補う存在として活躍が期待できそうだ。

楽天

対左投手:1073打数248安打 29本塁打119打点 打率.231 出塁率.306 OPS.669
対右投手:2982打数776安打 93本塁打386打点 打率.260 出塁率.346 OPS.750
合計:4055打数1024安打 122本塁打505打点 打率.253 出塁率.335 OPS.728

 オフに強打者2人が加入した影響もあって、打率、得点数(528)はいずれもリーグ3位と、得点力は着実に向上を見せている。相性としては北海道日本ハムと同様に、左投手よりも右投手を得意としている傾向にあるようだ。主力打者の左右別成績は以下の通りだ。

浅村栄斗選手(右打者)
対左投手:101打数26安打 7本塁打11打点 打率.257 出塁率.350 OPS.‬875
対右投手:349打数92安打 21本塁打65打点 打率.264 出塁率.375 OPS.859

ウィーラー選手(右打者)
対左投手:92打数21安打 3本塁打11打点 打率.228 出塁率.277 OPS.647
対右投手:288打数70安打 14本塁打52打点 打率.243 出塁率.330 OPS.754

ブラッシュ選手(右打者)
対左投手:72打数21安打 7本塁打19打点 打率.292 出塁率.441 OPS.1,122
対右投手:280打数72安打 20本塁打63打点 打率.257 出塁率.391 OPS.902

銀次選手(左打者)
対左投手:122打数29安打 1本塁打5打点 打率.238 出塁率.279 OPS.574
対右投手:327打数110安打 4本塁打39打点 打率.336 出塁率.409 OPS.843

茂木栄五郎選手(左打者)
対左投手:159打数52安打 4本塁打21打点 打率.327 出塁率.359 OPS.837‬
対右投手:335打数95安打 9本塁打30打点 打率.284 出塁率.380 OPS.825

島内宏明選手(左打者)
対左投手:115打数23安打 2本塁打17打点 打率.200 出塁率.292 OPS.588
対右投手:313打数96安打 8本塁打34打点 打率.307 出塁率.388 OPS.816

 とりわけ大きな差が表れているのが銀次選手と島内選手の2人で、どちらも対左は打率が2割台前半、OPSもかなり低い数値になっていた。しかし、対右では一転して2人とも打率.300、OPS.800を超える高水準の値を記録。一般的なセオリー通りの相性を示した今季の2人には、左打者の強みと弱みの両面がかなり強く表れていると言えそうだ。

 また、先述の2人ほどではないとはいえ、ウィーラー選手と浅村選手も右打者ながら右投手をより得意としている。打数が少ない選手たちの中にも、嶋基宏選手(対左打率.172、対右打率.222)、今江年晶選手(対左打率.133、対右打率.370)、藤田一也選手(対左打率.111、対右打率.310)、田中和基選手(対左打率.125、対右打率.208)、渡邊佳明選手(対左打率.226、対右打率.258)、和田恋選手(対左打率.226、対右打率.274)と、同様の傾向を示している選手は多い。

 しかし、主力の中では茂木選手とブラッシュ選手の2人が、左投手を大いに得意としている。特に茂木選手は左打者ながら、新人時代の2016年(対左打率.317、対右打率.266)と、直近の2018年(対左打率.255、対右打率.243)にも対左の成績が対右を上回っており、残る2017年(対左打率.293、対右打率.298)もほぼ差のない数値に収まっている。総じて左投手に弱い傾向のあるチームにとって、今後もかなり重要な存在となってきそうだ。

 加えて、「左キラー」としての期待もあって広島からトレードで移籍してきた下水流昂選手(対左打率.300、対右打率.160)は、その役目をきっちりと果たしていると言えそうだ。また、ドラフト1位ルーキー・辰己涼介選手(対左打率.234、対右打率.214)も、左打者ながら右腕よりも左腕を得意にしている。茂木選手のようにチームの弱点を補える存在となれるか、今後の成長にも期待したいところだ。

埼玉西武

対左投手:1235打数326安打 40本塁打177打点 打率.264 出塁率.341 OPS.764
対右投手:2898打数772安打 110本塁打440打点 打率.266 出塁率.347 OPS.781
合計:4133打数1098安打 150本塁打617打点 打率.266 出塁率.345 OPS.776

 リーグ随一の強力打線を誇る埼玉西武。打率と得点数(647)はリーグトップ、本塁打も同2位と、その破壊力は数字にも表れている。左右別成績がほぼ同じで、得意不得意がどちらかに偏っていないという点も、打線の安定感に一役買っているだろうか。主力打者の左右別成績は以下の通りだ。

中村剛也選手(右打者)
対左投手:109打数31安打 8本塁打21打点 打率.284 出塁率.368 OPS.928
対右投手:299打数87安打 17本塁打80打点 打率.291 出塁率.368 OPS.890

山川穂高選手(右打者)
対左投手:122打数32安打 12本塁打30打点 打率.262 出塁率.362 OPS.969
対右投手:324打数80安打 26本塁打75打点 打率.247 出塁率.368 OPS.887‬

外崎修汰選手(右打者)
対左投手:130打数36安打 4本塁打26打点 打率.277 出塁率.356 OPS.848
対右投手:320打数86安打 16本塁打52打点 打率.269 出塁率.343 OPS.824

森友哉選手(左打者)
対左投手:106打数33安打 2本塁打18打点 打率.311 出塁率.408 OPS.899
対右投手:299打数104安打 17本塁打67打点 打率.348 出塁率.427 OPS.1,009

源田壮亮選手(左打者)
対左投手:150打数45安打 0本塁打10打点 打率.300 出塁率.350 OPS.717
対右投手:307打数82 安打 2本塁打24打点 打率.267 出塁率.317 OPS.675‬

秋山翔吾選手(左打者)
対左投手:175打数51安打 4本塁打17打点 打率.291 出塁率.380 OPS.797
対右投手:323打数103安打 14本塁打35打点 打率.319 出塁率.406 OPS.917

 中村選手と外崎選手はやや左投手の方が得意ではあるものの、両者ともにその差はさほど大きくはない。しかし、それ以外の主力打者は、対左と対右で少なからず違いが見られる結果となった。とはいえ、左が苦手な選手と右が苦手な選手の数がどちらかに偏っているということはなく、それぞれの選手が打線において自らの役目を果たしているという面もあるかもしれない。

 森選手と秋山選手は左右どちらの投手に対しても.300前後の安定した打率を残しているが、両者ともに相対的には右投手のほうがより優れた数字を残している。ほか、外野の主力である金子侑司選手(対左打率.208、対右打率.267)と木村文紀選手(対左打率.169、対右打率.242)も、右投手と対戦した時の方が良い数字を記録している。

 逆に、左投手が得意な選手としては、山川選手と源田選手が挙げられる。源田選手は1年目の2017年(対左打率.324、対右打率.251)にも左打者ながら左腕を打ち込んでいたが、2018年(対左打率.230、対右打率.299)は異なる傾向が出ていた。そういう意味では、今季は1年目に近い形に戻っていると言えるか。山川選手はこれまで右投手を得意とする傾向が強かったが、今季は逆に左腕に対して抜群の内容を見せている。

 ほか、岡田雅利選手(対左打率.310、対右打率.219)、メヒア選手(対左打率.267、対右打率.164)、栗山巧選手(対左打率.267、対右打率.237)といったベテランたちが左腕を得意としていた。こうして確認してみると、やはり左右それぞれが得意な選手がどちらも一定数揃っており、結果的にチーム全体としてもバランスが取れていると言えそうだ。



 以上の結果から、この3チームにおいては主力打者の左右別成績とチーム全体の左右別相性はある程度リンクしていたと考えられる。ただ、北海道日本ハムと楽天は同じく右投手を得意にしているが、選手個々の成績を見ていくと、そこには両チーム間でやや趣の異なる理由が示されていた。

 北海道日本ハムは打席の左右を問わず、西川選手以外の主力が総じて右投手を得意としていた。右打者の中田選手と大田選手が左打者以上に右投手を打ち込み、逆に左腕には苦しめられていたのが特徴的だ。打数の少ない選手の中には、左腕を得意としている選手と苦手にしている選手がそれぞれ一定数存在しており、主力の成績がチーム全体の相性に強く影響していると言えそうだ。

 一方、楽天は茂木選手とブラッシュ選手が左腕を得意としており、北海道日本ハムほど主力打者の相性は極端ではない。しかし、下水流選手と辰己選手を除くと、打数の少ない一軍選手たちがおしなべて左腕に苦しめられていたことが、チーム全体の相性にも影響したと考えられる。このように、同じような傾向を示しているチームであっても、細部に目を向けるとまた違った事情が見えてくるのも面白いところだ。

 そして、埼玉西武が誇る強力打線は相手の左右を問わずに力を発揮。選手個々の相性としては明確に左腕と右腕のどちらかを得意としている選手も多かったが、チーム全体の成績はバランスの良いものとなっていた。昨季からリーグを席巻し続けている強力打線が安定した得点力を発揮し続けられる理由の一つは、こういったところにもあるのかもしれない。

 今回はパ・リーグ6球団のうち3球団の数字を見ていったが、今回取り上げられなかった千葉ロッテ、オリックス、福岡ソフトバンクの3球団と、その主力選手たちはどのような相性を示しているだろうか。次回の記事ではそれらの各球団についても、今回と同様に左右別の相性を見ていきたい。

記事提供:

パ・リーグ インサイト 望月遼太

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