昨夏甲子園で大阪桐蔭の春夏連覇に貢献、プロ入り後は「そんなに甘くなかったです」
今季はチームスローガンに「マウエ↑」を掲げ、2010年以来9年ぶりの日本一を目指す千葉ロッテ。2位から6位までが5ゲーム差にひしめくパ・リーグで、交流戦を8勝10敗と負け越した千葉ロッテは猛チャージを狙う。夏の祭典・オールスターゲームにはレアードが三塁手部門でファン投票選抜されたほか、監督推薦で二木康太投手、鈴木大地内野手、荻野貴司外野手が選ばれた。
未来のオールスター常連選手を目指し、2軍が拠点を置く浦和で日々トレーニングと練習に明け暮れている人物がいる。2軍から真っ直ぐ「マウエ↑」への躍進を目指す千葉ロッテ若手スターをご紹介する連載企画。2019年の第3回は、ドラフト1位ルーキー・藤原恭大外野手の今に迫る。
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夏の甲子園が100回記念大会を迎えた昨夏、強豪・大阪桐蔭高は史上初となる2度目の春夏連覇を達成した。その夏の大会で戦った6試合すべてで「4番・中堅」として先発したのが、藤原だった。26打数12安打で打率.462。3本塁打11打点と4番の役割を果たし、かつ2盗塁と俊足ぶりも披露。守っても広範囲をカバーできる上に、超高校級と称される強肩で鳴らした。根尾昂(中日)、柿木蓮(北海道日本ハム)らとチームの核を担って偉業達成。10月のドラフト会議では3球団から1位指名を受け、抽選の結果、千葉ロッテが“ゴールデンチケット”を引き当てた。
高卒ドラフト1位ルーキーとして、およそ半年が過ぎた6月下旬。入団時より少し体つきが大きくなった藤原は、高校とプロの違いを聞かれると、「技術的に言えば、もう全然、球のスピードも違いますし、キレも違いますし、変化のキレも違いますし、コントロールも違いますし……」と前置きしながら、こう続けた。
「プロ野球選手になったからといって野球が上手くなるわけじゃないな、と思いました」
プロに入れば、たくさん食事を摂って、たくさんトレーニングができる。朝起きてから夜寝るまで野球漬けの毎日を想像していたが、「そんなに甘くなかったです」と話す。高校時代とは違い、プロともなればメディア対応も仕事の一部。注目の“ドラ1”だけに取材数も必然と増えた。だが、それを言い訳にすることなく、「結局、最後は自分の意識次第。自分が時間を見つけて、やるべきことをして、本当に1日を無駄にしないで過ごすことが一番大事だと思います」と前向きな思考をできるのが、藤原が“超高校級”となった理由なのだろう。
「1軍のレベルが高くて絶望するところもあった」
初めて臨む石垣キャンプでは1軍に振り分けられた。練習試合やオープン戦など全30試合に出場し、プロの何たるかを目で見、肌で感じた。3月29日の開幕戦(楽天戦)には「1番・中堅」でスタメン出場。球団では高卒新人として54年ぶり3人目の快挙で、第4打席にプロ初安打も記録したが、周囲の盛り上がりとは裏腹に藤原自身は「1軍のレベルが高くて絶望するところもあった」と明かす。
「もう本当に何も足りなかった。正直『1軍はキツいな』というのがありました。まだまだ上じゃ絶対に無理だって。まぁ、すごいレベルだったんで…… そりゃそうですよね、この前まで高校生だったのに、いきなり超一流の選手と一緒のプレーするんだから、レベルが違うのは当然。でも、力の差がありすぎて、これから先がどういう道のりになるのかすら想像できないくらいでした」
開幕から10日後の4月7日に登録抹消。1軍では6試合に出場し、19打数2安打2打点、打率.105の数字を残した。「もちろん悔しい気持ちはあった」というが、無我夢中で過ごした10日間は心身ともにギリギリ。抹消された時のことは「…… あんまり覚えてなくて」とバツが悪そうに振り返るほどキツかった。
2軍に合流してから取り組んでいるのは、身体の基礎を作ることだ。「体力的に全くついていけていなかったので、技術まで手が回らなかったし、精神的にも余裕がなかった」と、自分なりに1軍での日々を分析。今年は“土台作り”の1年と位置づけ、息切れせずに1シーズンをしっかり戦える身体を作る。まだまだ鍛えている途中だが、開幕時は78キロだった体重は80キロを超えた。
目標を達成するために、どういう道のりをたどるべきか逆算する。プロ野球選手になる目標を達成するため、大阪桐蔭高への進学を選んだ。今、目先の結果に囚われずに身体作りを優先させるのは、1軍で活躍するため、そして「目標は大きく」トリプル3を達成するためだ。
「走・攻・守の一つでも欠ければ、もうそこまでの選手だと思っているので。バッティングだけじゃ通用しないですし、足だけでも自分より速い人はいるので通用しない。守りもしっかりやって、3つ揃ってこその自分だと思っています。どれも欠けないように頑張ってやっていきたいですね」
子供の頃、特に憧れの選手はいなかったが、2015年にトリプル3を達成した福岡ソフトバンク柳田悠岐外野手は「高校の時に走攻守、全部すごいなと思って見ていました」という。プロとなり改めて感じたのは、「柳田さんは、ちょっと一緒に考えたらダメだなって思います(笑)」。誰の真似をするわけではなく、藤原恭大のオリジナルスタイルでトリプル3を目指す。
一人でも多くの子供が野球好きになるきっかけになるような選手に…
気分転換を兼ねた趣味は、漫画を読むことだ。テニスの大坂なおみも漫画好きで知られるが、特に若い世代のトップアスリートに漫画好きは多い。藤原は「『キングダム』は新刊を待っている状態。何でも読みますが、最近は『ザ・ファブル』とか『賢者の孫』を読んでいます」という。「でも、あんまり大事な試合の前とかは読まないようにしています。長引いて夜更かししてしまうんで(笑)」と、あくまで野球を最優先。プロ入りしたり大学に進学したり、東京近郊に住む高校時代の仲間たちと集まって食事に行くこともあるそうだ。
まだ高卒1年目。成人前の19歳だが、アンダー世代で日本代表に選ばれるなど、国際試合での経験も豊富だ。さまざまな舞台を経験するうちに視野が広がったのだろうか。高校野球から引退した後、訪れた少年野球の現場で気になったことがあるという。
「野球をやっている子供が、結構減っているような気がしました。野球の人気が下がっているんじゃないかって。プロ野球としては人気が上がっているとは聞いているんですけど、小中学生での野球人気はちょっと下がっているのかなって感じました。まだまだ、僕はどうこう言えるレベルの選手ではないんですけど、一人でも多くの子供が野球を好きになって、チームに入ってプレーをしたいと思ってもらえるような選手に、いずれかはなりたいと思います」
高い目標を掲げるのは、自分に対する期待、そして自信の裏返しなのかもしれない。まずは身体作りに専念し、目標クリアの道を一歩一歩前進していく。
(佐藤直子 / Naoko Sato)
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