カーター・スチュワート投手との契約成立の立役者、代理人の仕事 後編:アメリカのトップアマチュア選手は、日本で活躍できるか

中島大輔

2019.6.12(水) 09:01

オクタゴン社の長谷川嘉宣氏(C)PLM
オクタゴン社の長谷川嘉宣氏(C)PLM

 福岡ソフトバンクと6年総額620万ドル(約6億8200万円)を最低保証とする大型契約を結び、6月3日に日本でも入団会見を行ったカーター・スチュワート選手。アメリカのトップクラスのアマチュア選手が、MLBを経ずにNPB入りする流れは今後も続くのか? メジャーリーグで活躍した田口壮(オリックス一軍野手総合兼打撃コーチ)や大家友和(DeNA二軍コーチ)、巨人でプレーしたマイルズ・マイコラス(セントルイス・カーディナルス)の代理人を担当してきたオクタゴン社の長谷川嘉宣氏に訊く。
【前編はこちら】

――アメリカのトップアマチュア選手を獲得するという異例の契約は、なぜ成立したのですか。

長谷川 今回の契約にはいくつかきっかけがあると思います。報道にもありましたが、ホークスの駐米スカウトをしているマット・スクルメタという元選手と、スチュワートの家族に近所づきあいがあり、彼を13歳の頃から知っていたんです。

 そういう選手が去年、ドラフトのトラブルでブレーブス入団に至りませんでした。報道では「手首の故障により、球団とスチュワートの間で望ましい契約金に乖離があった」ことが主な理由とされていますが、そういうタイミングで「日本という選択肢もある」となりました。もちろんホークスにもリスクがあり、アマチュア選手をとることにためらいがあったと想像します。それでもスチュワートと日本の18歳、19歳の選手を比べたときに、「これは飛びぬけている」という評価になったと思います。で、スチュワート本人がスクルメタ氏の影響もありその気になった。そうしたきっかけが何個かあって成り立っているので、同じスキームを日本の他球団がマネしようとしても、なかなか難しいと思います。

――アメリカのアマチュア選手たちがドラフトの際の契約に不満を持っていると、日本でも報じられています。どんな事情があるのですか。

 10年前から、アメリカのドラフト対象の選手はそれまでほどお金をもらえなくなっています。そこで我々(オクタゴン社)に依頼のあった選手を日本の球団に売り込むようになったのですが、その最初がアーロン・クロウという選手でした。結果的に2009年のドラフトでロイヤルズに入りましたが、2008年にナショナルズに1巡目でドラフトされたときに契約金でまとまらず、合意しなかったんですね。それで1年間独立リーグに行きました。

 そのタイミングで我々に話が来ました。我々の契約選手ではありませんでしたが、クロウのエージェントが日本にコネクションを持っていないので、日本の球団に話をしてほしいと。それで私が担当しましたが、すごく抵抗感がありました。要は1年後にメジャーに行きたいので、1年だけ日本でプレーしたいと。日本の球団からしたら、「なんで自分たちを使うの?」という話です。しかも10万ドルくらいのリーズナブルな金額で来るわけではなく、お金はそれなりに欲しいと。それで1年後にFA、あるいはポスティングで売ってくれたらいいと。そこは日本のチームを踏み台にしていると思ったので、自分自身も納得していませんでした。それでも頼まれたので話をしたら、日本の球団から同じような反応を受けましたね。

 クロウの話はそれでなくなりましたが、2011年、ホセ・フェルナンデス(元マーリンズ)という3年前に亡くなった選手から、「思うように契約金が高くならないので、日本の球団に売り込んでほしい」と頼まれました。彼は持っている能力が飛び抜けていたのと、キューバからの亡命選手でした。亡命してアメリカに来ている選手なので、海外でプレーすることに対するためらいがないわけです。

 それで日本のある球団に売り込んだら、乗ってきました。でも最終的に球団の中で、そうした選手が1、2年後にどうなるか、前例がないことが引っかかりました。それなりの契約金だったのは事実です。だから我々のアプローチとしては、「ポスティングで売れば、お金は返ってきます。もしかしたら、日本ですごい成績をあげるかもしれません」。ただし、その時点でフェルナンデスがメジャーでスーパースターになるかは誰にもわかりません。現にクロウはナショナルズに1巡目で指名され、将来スーパースターになると思われていたのが、そうなりませんでした。フェルナンデスの場合はメジャーを代表するスーパースターになりましたが、果たして日本でプレーしていたら、どうなっていただろうと感じます。

 今度は2012年にディラン・カズンズという、現在フィリーズの3Aとメジャーを行き来している一塁手の話がありました。高卒で18歳のとき、アメリカンフットボールと野球をプレーしているデュアルプレイヤーで、フットボールで大学からの奨学金をもらえるという話があったけれど、彼のお母さんはケガのリスクが怖くてフットボールはやらせたくなかった。それで野球を続けたいということでした。

 ドラフト前の段階では、「メジャーのチームはデュアルプレイヤーを敬遠する傾向があるので、かなり下位指名になるのでは」と予想されていました。上位指名しても、結局大学進学を選ばれる可能性があるからです。「それでも野球をしたい、大学からの奨学金はフットボール選手としてなので日本でやってみたい」ということで、弊社とある球団で話をしました。「日本の18歳と比べると、パワーもスピードもある」と注目されましたが、意外や意外、フィリーズに2巡目で指名されたんです。

 彼らのようにアメリカの契約に満足できないなら、当然日本に行くという選択肢もあります。そうした一連の交渉を通じて我々が特に学んだのは、「何か、日本に行きたいモチベーションがないとダメ」ということ。例えば日系人の選手や、日本にルーツがある選手ですね。

――日系三世のクリスチャン・イエリッチ(ブルワーズ)やカート・スズキ(ナショナルズ)がそうですね。

そういう選手たちは日本に何かしらのシンパシーがあるかもしれないので、仮にドラフトで思ったような順位で指名されなかった場合、「ルーツがある日本でやってみたい」となる可能性がある。例えばドン・ワカマツというレンジャーズのベンチコーチの長男が大学4年のときにドラフトで指名されず、「日本の独立リーグでもいいからやってみたい」というので売り込んだことがあります。日本の球団が求めているようなパワーヒッターではなく、残念ながらまとまりませんでした。

 そうした経験を通じ、様々なきっかけがそろわないとアメリカのアマチュア選手が日本に行くのは難しいと思っていたところ、スチュワートとソフトバンクの契約のニュースを目にしました。私たちもこの10年間、アメリカの大学生を日本の球団に送り込めば面白いと動いていたので、19歳のスチュワートの入団は驚きでした。

 でも果たして、これが今後のトレンドになるかと言うと、クエスチョンマークが浮かびます。

――いくつかの条件が重なって初めて、お互いが合意できるからですか。

そうです。日本に来る外国人選手の多くは20代後半から30歳で、家族がいたり、マイナーでいろいろな嫌な思いをしたりしてから日本に来て、やっとお金が稼げるようになったわけです。ある種メジャーで活躍してお金を稼ぐ可能性がどんどん少なくなってしまった現実に直面した選手達でもあります。でも、異文化で暮らす中で、受け入れられないことはたくさんある。人生経験を重ねてきた分、年齢が行けば行くほど許容範囲は狭くなるからです。もちろん異文化を受け入れる選手もいますし、そういう選手ほど日本で長くプレーしています。

――DeNAのラミレス監督が代表的ですね。日本のプロ野球で13年間プレーし、現在ベイスターズを率いて3年目です

 はい。逆に、もしかしたら20歳の選手は今まで経験をしていない分、許容範囲は大きいかもしれない。一般の日本人でも感受性の強い若いうちに海外に留学した方が語学の習得も早いというのと同じです。もちろんその逆もあり得るわけで、今回のスチュワートは本当に実験的なケースです。彼がどうなるかは誰にもわからないですが、彼が活躍したからといって、日本の他の球団が同じように19歳の高卒や短期大学の選手をとるのはなかなかリスクがあると個人的には思います。

 ただしアメリカの事情を言うと、大学4年生の場合、メジャーの球団はドラフトの契約で足下を見ます。よほどすごい選手でなければ卒業後の選択肢がないので、下位指名の場合は契約金が10万ドル以下になります。そういった選手は日本の球団にとって狙い目だと思います。

 彼らはルーキーリーグや1Aからメジャーに行くまでに、早くても3、4年かかります。その間の年俸は、ショートシーズンの場合は最低30万円ほど、フルシーズンでも最初の数年は年俸100万〜200万円くらいです。給料が少ないなか、将来メジャーリーガーになるという夢のためにプレーしているわけです。ただし、全員が高いレベルでプレーできるとは限りません。

 経済的な観点で言うと、日本の球団はそこでメジャー球団が払えない金額を払うことができます。30歳で日本に来る外国人選手にはトレードマネーなどを含めて100万ドルくらい払っていますが、8割方うまく行っていないのが実情です。それならその100万ドルを使ってアメリカの大学4年生と3、4年契約を結び、育成するという考え方もありだと思います。

――日本では華やかなメジャーリーグが注目を集めますが、マイナーには厳しい環境があるわけですね。そうした状況にアメリカ人たちは不満を持っていて、2012年にドラフトプール制度(新人選手に対してマイナー契約しか提示できず、かつチーム全体の契約金にも制限をかける制度)ができ、さらに不満が大きくなったわけですか。

そうです。ドラフトでは市場原理が働きますが、高卒の選手の場合、「僕は大学に行きたい。奨学金をもらえるので」と言うと、メジャーの球団は「お金をもう少し積むから、うちに来てくれよ」となります。つまり、選手には交渉のレバレッジ(テコの原理の意味で、他人資本を活用して自己資本を高めること)がある。でも、大学4年生にはそれがありません。

 英語では「Signability VS Talent」という表現をしますが、ドラフトでは「選手の能力 VS 契約可能選手か、否か」という中での判断になります。そのため、必ずしも現時点での能力の高い選手が高い順位で指名されないこともある。逆に言えば、下位指名でも早くメジャーに昇格する可能性もあるので、下位指名選手の中に掘り出し物がいることも十分に考えられます。

 一方で育成という観点で見ると、高校生の育成は非常に大変です。特にピッチャーはケガもあり、高校生のピッチャーをドラフト上位で指名しないという球団もありますました。ピッチャーを獲得したい場合、大学生を指名する、と。ドラフト上位では将来性のある野手を複数獲得し数年後トレードで野手の有望株を放出する代わりにメジャーの一線級の投手を獲得するという戦略を持っていた球団もありました。

――大谷翔平選手がエンゼルスと契約を結んだ際、契約金や年俸がかなり抑えられたのはそういう背景がありましたね。大谷選手はすぐにメジャーに上がりましたが、マイナーリーガーの環境はバスで十数時間移動するなど過酷だと聞きます。日本の二軍と比べて劣悪ですか。

よくないですね。時給換算したらアメリカの憲法で保障されている最低保障の金額に届いてなく、訴訟問題になっています。それでブルージェイズはマイナーの選手も一律給料を上げましたが、他の球団が追随する動きはありません。

――エージェントからすれば、劣悪な環境に選手を送りたくないですか。

これは日本人として見るのと、アメリカ人として見るので、まったく見方が違います。アメリカ人として見ると、彼らは小さな頃からメジャーに行くのが夢です。そのレールに乗ったという点で、劣悪な環境に耐えられる。現にメジャーに行ったら、「2度とマイナーに戻りたくない」と努力します。

 ただし日本人の感覚から言うと、その環境に行かなくていい方法があるなら、例えば日本のチームに行くという考え方もありだと思いますね。

――アメリカの報道によると、スチュワート選手とソフトバンクの契約は6年総額620万ドル(約6億8200万円)と報じられています。この金額をどう思いますか。

球団的にはありだと思います。5年でクビになるドラフト1位選手はなかなかいないですよね? 要は給料を先に決めるか、毎年交渉して決めるかという話です。

 例えば1年目、ドラフト1位の選手は年俸1500万円くらいです。一軍ですごく活躍したら、2年目はおそらく3000万円くらいに上がる。さらに活躍すれば、3年目にはうまくいけば1億円近くになる。最低限のラインとして、そういった設定をしていると思います。3年目あたりに100万ドル弱くらいを設定して、活躍したらもっと上げるというところでしょうか。そういう意味ではクビにせずに1年ずつ交渉する金額と、普通の基準では変わりません。

 ただし、ものすごく活躍したときに、ホークスはかなり安く抑えられるはずです。注目したいのが2年後、例えばスチュワートが15勝〜18勝したとします。おそらくそのときの給料は、いくら出来高がついて上がっても、100万ドルに行くか、行かないか。そのときに彼自身が、「メジャーに行ったら1000万ドル以上もらえるのに」と思うかもしれない。そのときに、代理人とともにどう出るかですね。

――そうなったときにメジャーに売り込む手段はありますか。

ポスティングはできますが、「ホークスは日本人選手たちにポスティングはダメと言っているのに、外国人をポスティングするんですか?」という話になりますよね。それではダブルスタンダードになるので、はたしてどうするのでしょうか。私の中では代替案を持っていますがあえてこの場では差し控えたいと思います。ただ、日本にいたくない外国人選手を無理やり留めさすのは球団にとってもきついのは事実です。

――過去にそういうケースもあるのですか。

外国人選手が契約期間中にアメリカの方がたくさんもらえそうなので契約を破棄してアメリカに戻りたいという例は過去にありました。通常そのような選手を無理矢理日本に残してもロクなことはありません。

――長谷川さんが第2のスチュワートのような選手を日本の球団に送り込むとして、起用法や育成法、環境など、どういうことを求めたいですか。

まず、本人の気持ちでしょうね。どこまで覚悟があるのか。それがまず第一歩で、次に球団に求められるのがプランです。契約交渉ではなんとでも言えますから、球団の評価として見るべきは契約内容です。高いお金を払えば払うほど、球団は大事に扱うはずですから。
 
エージェントとしても球団としてもは、契約金が高い場合、年数を5年ないし6年という縛りを設けるのは当然です。こちらとして契約内容で考えるのは、最高の場合と最低の場合です。最高の場合の問題は、選手が頭でっかちになり、「こんな金額でやっていられるか」となるリスクがある。「こんな契約しやがって」と我々が責められるリスクもあります。契約というのは選手が活躍しない時ほど良く見えるものです。我々が気にするのは活躍した場合のアップサイドとともに仮に何かしらの理由で活躍できなかった場合の最低保証も気にする必要があります。
 
今回のホークスのように5年ないし6年契約であれば、それなりの覚悟を感じます。彼らが今までやった育成の実績もありますしね。それは日本人の場合ですが、ある程度信頼すると思います。でも今までまったく実績のない球団と契約する場合、突き詰めると、金額の部分にいろいろ表れると思います。

――メジャーの育成は、25歳で羽ばたくことを描いてプランを立てると聞きます。日本とは若手選手の起用法がかなり違いますか。

いいか悪いかは別にして、彼らのスタイルは試合をさせてなんぼです。試合で結果を出して自信をつけさせて、次のレベルに挑ませる。あるいは高いレベルであえてやらせて、壁にぶち当たらせて乗り越えさせる。そういうステップを踏ませていきます。逆に言うと1年目からいきなり自信を失い、完全に壁にぶち当たるのはできるだけ避けるわけです。1年目は低いレベルでやらせて、そこで圧倒的な結果を得て、もうそのレベルにいる意味はなくなると、次のレベルに上げていく。

――野手と比べ、故障のリスクが大きい投手は考慮される点も多いですか。

ピッチャーは年間を通してイニング制限、球数制限を持っていますが、何をしてもケガする選手はケガします。だから大谷翔平投手や菊池雄星投手が高校生の頃にアメリカに行きたいと言ったとき、第三者のエージェントという立場で見ると、日本の球団に行った方が絶対いいと思いました。
 
一番大きな理由はケガをした場合、そのときはプロスペクト(有望株)としてすごく大事に扱われるけれども、例えばトミー・ジョン手術をして1年、下手したら2年後に復帰するとなれば、自分が出られない時期にどんどん新しい選手が入ってくるわけです。球団としてはお金をかけているので大事に扱ってくれますが、自分の相対的な立ち位置は変わってくる。そういうことを考えると、若いときにアメリカに行くのはリスクがあると思います。一方で日本に残って一番になれば、年齢がいくつであろうとメジャーのチームは評価するから、チャンスは広がります。

 スチュワートの場合、19歳でこれほどレベルの高いピッチャーは日本になかなかいないと思います。すぐに一軍に上げても、それなりに抑えるかもしれません。お客さんも集まってインパクトが強いかもしれないですが、2019年シーズン途中というタイミングで入団していますし、今季、来季はできる限りファームでイニング制限をつけて日本の野球に慣れさせた方がいいと思います。無理に一軍に上げる必要はない、という意味ですね。ただし来季、ファームで格の違うピッチングを見せたら、シーズン後半一軍に上げるのはありだと思います。
 
 メジャーの育成・起用法を紹介すると、スティーブン・ストラスバーグ(ナショナルズ)はメジャー1年目にすごく活躍しましたが、チームが優勝争いをしているなか、イニング制限に達して以降は登板させませんでした。それくらい計画的に育てていきます。同じような起用法を日本で果たしてできるのか。一軍に置いておくと使ってしまう可能性があるとすれば、1年間二軍でローテーションを回らせればいいと個人的には思います。

――今回のスチュワートに関する契約もそうですが、日米のアマチュア選手の獲得は「紳士協定」という名のもとに曖昧です。今後どうしていくのがいいと思いますか。

今まで日本の球団は紳士協定という名の下、メジャーにやられっぱなしでした。向こうの外国人選手をとるときにはトレードマネーが発生したり、自由交渉でも高いお金を払わないといけなかったりします。でも、なぜか日本人選手がアメリカに行くときには、当初は1球団しか交渉できないというポスティングのルールがあるなど、不均衡な関係がずっと続いてきました。
 
そうした点をふまえ、弊社の野球部門の責任者であるアラン・ニーロは10年前から日本の球団に対し、「やられっ放しだから、向こうのアマチュアのトップ選手を獲ってやり返そう」と言ってきました。今回、ホークスがスチュワートというアマチュア選手を獲るのは、カウンターパンチを食らわせたと思います。
 
でも、今回のケースでメジャーが怒って“日本のアマチュアをどんどん獲ってやる”となるかと言えば、絶対なりません。スチュワートがいなくても、メジャーリーグは成り立つからです。
 
もしスチュワートが今年ドラフトされて、交渉の中で代理人がホークスを天秤にかけ、メジャーの球団からお金を上げるという交渉をした挙句に日本の球団に行けば、指名して交渉したそのチームは怒るでしょう。メジャーのコミッショナーオフィスに訴える可能性もあったと思います。
 
でも現時点では、スチュワートが日本で活躍するかはわからないですし、メジャーリーグは彼がいなくても十分ビジネスとして成り立ちます。そもそもスチュワートを失っても、怒る主体が誰もいません。ブレーブスは自ら放棄したし、どの球団もスチュワートに対する思い入れはそこまでないはずですから。大谷選手が高卒で日本の球団に行くのと、行かなかったのとではインパクトが違います。
 
向こうに怒る理由はなく、今回のケースがきっかけで何か起こることはないはずです。だから日本の球団は、どんどん強気にやればいいと思います。

――アメリカのアマチュア選手を獲得する場合、スカウティングが大変ではないですか。

 例えばアリゾナやフロリダ、テキサスでは野球が非常に盛んなので、そのエリアを中心にアンテナを張っておけば情報は入ります。夏の間に行われるサマーリーグを見ても面白いと思います。ケープコッドリーグなどのサマーリーグは能力の高い大学生が集まっているだけでなく、打者は木製バットを使っています。

 それに最近は、映像もとれる時代です。アメリカの全土を見るのは無理なので、一部の有力校なり、レベルの高いところに目をつけておけば、もしかしたら掘り出し物がいるかもしれない。その中でお母さんが日本人とか、何か日本のルーツがあるような子たちなら、日本との関係性からスムーズに話がスタートするかもしれません。

 例えばアメリカで足元を見られた大学4年生の契約金が5万ドルで、日本から「100万ドルで来るか?」と聞かれて断る人はいませんよね? さっき言ったようにお金の部分でないのは、いくら4年生で契約金5万ドルでも、メジャーでプレーするという夢を持っていることです。それを捨てるわけではなく、「もしかしたら日本経由が、メジャーに行く近道かもしれない」というルートを示せばいい。スチュワート次第で、そのルートがいいのか、悪いのか、判断が分かれることになります。

 彼のように何か理由があって、高校や短期大学でドラフトに指名されなかった選手、大学4年生でもしかしたら今年ドラフトで指名されないかもしれないという選手は、日本に来る可能性があると思います。特に大学4年生はピッチャーとしてより完成されているので、狙い目だと私は思います。

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中島大輔

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