「2018日米野球」のMLBオールスターチームに、最多の3選手を送り出すのが2年連続でワールドシリーズへ出場したドジャースだ。2013年には、翌年から始まる25年70億ドル(約7922億1000万円)以上の放映権契約をタイム・ワーナー・ケーブル社と結び話題になった。長期的な後ろ盾を得たチームは、14年から昨年まで30球団最高の選手年俸総額2億5000万ドル(約282億8000万円)超を記録している(Baseball Prospectus参照)。
だが、今年のドジャースは戦力均衡税対策として選手の年俸総額を抑え、資金力だけが強さの理由でないのは見逃せない。球団のビジネスサイドも経営規模が拡大し、前オーナー時代に下降線を辿っていた球団も、飛躍的な進化、復活を成し遂げ、チームの成績や収益額に表れている。
メジャーリーグ有数の名門が大切にしている経営哲学とは。フロントオフィスで働くデビッド・シーゲル氏と佐藤弥生氏から、現場の声を聞く機会を得た。
目まぐるしい変化の流れでもファンの気持ちは常に忘れない
ドジャースに勤めて20年のシーゲル氏は社会現象となった“野茂マニア”を経験している。「チケット窓口に、今まで見たことのない行列ができたのをよく覚えています。本当に凄い現象でした。韓国人投手のパク・チャンホが活躍したときにも共通しているのは、いい席がよく売れたことです。とても興味深いパターンでしたね」
当時の球場広告は「ドジャードッグを作っているファーマージョンやバドワイザー、コカ・コーラくらいだった」が、オーナーが移り変わる流れで広告数が増えた。だが、特に古くからのファンの心理を考慮して、徐々に段階を踏んで増やしていく手法をとっている。
2012年に現在のオーナーグループがチームを買収すると、方針を転換。スポンサーシップの単価を上げることでスポンサー企業数は必然的に減ったが、結果として収益額は飛躍的に上昇した。
「メジャーリーグの球団のほとんどが120から130ほどの広告パートナーと契約しているのに対して、この数年は70から80くらいで推移しています。ドジャースタジアムの看板広告も数を抑え、設置位置も細心の注意を払うことで、一つひとつが際立ち印象に残るよう配慮しています」(佐藤氏)
確かに、ドジャースタジアムは他球場に比べて広告看板が少ない。その景観は、2000年以降は新球場建設ブームに沸いたメジャーリーグにあって、クラシカルな趣のままだ。
リーグ全体で加速するダイバーシティへの取り組み
エンターテインメント大国アメリカ、MLBでは多くの球団がギブアウェイ以外にも様々なイベントを用意している。シーゲル氏が率いてきたチケットセールス部でも、特定の人種や地域、大学や職業などをターゲットに絞り、限定アイテムと組み合わせたチケットパッケージを団体チケットとして積極的に企画販売し、成功を収めてきた。「特定のターゲットごとに詳細なデータ分析ができるようになってきたので、低いリスクと投資で実施でき、結果も出ているので、こうした企画は年々増えています」(佐藤氏)
ドジャースは新たな試みを続ける。今年9月、元女子テニス世界王者のビリージーン・キング氏がオーナーグループに加わったと発表した。「ロサンゼルスに根差したスポーツ界の著名人の影響力はもとより、リーグ全体としてダイバーシティを推進している背景から、球団PRとしては効果的だったと思います。現オーナーの1人であるマジック・ジョンソン氏もそうですし、ダイバーシティを体現している球団として、社会的な評価や印象も良くなるでしょう」(シーゲル氏)
実際、ドジャースのフロントでも様々な人種を雇用し、女性の管理職を増やす流れにあるようだ。愛知県出身で、日本の大学を卒業してからロサンゼルスへ渡った佐藤氏は「特に『人種のるつぼ』であるロサンゼルスが本拠地の球団ですので、他のチームに比べてもいち早く実践、推進していける環境にありますし、また伝統的に先駆者としての役割を担ってきた責任もあるように思います」と言う。
残された命題は1988年以来の世界一
ドジャースのチケット価格は年々上昇を続けているものの、今季の本拠地平均観客動員数は4万7042人で、2013年から6年連続30球団トップが続く(ESPN参照)。チームが勝てばファンの足は球場へ向き、ポストシーズンに進出すればチケットやグッズ収入だけでなく、スポンサーからの投資も増える。
「資本力」「チームの戦力」「ブランド力」が相互に噛み合い機能している現在のドジャースは、プロスポーツチームの理想像と言えるだろう。それぞれの幸福な関係はしばらく続きそうだ。6年連続ナ・リーグ西地区優勝、3年連続リーグチャンピオンシップシリーズ出場、2年連続ワールドシリーズ出場を達成し、あとは1988年を最後に遠ざかるワールドシリーズ制覇を果たすのみ。2019年シーズン、3度目の正直となるか大いに注目したい。
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