福岡ソフトバンクが3点以下のリードを握って迎える9回の表。必ずと言っていいほど、ヤフオクドームに響き渡る歌がある。Newboysの「The King is Coming」。その伸びのある男声とともに、巨大なホークスビジョンに「THE KING OF CLOSER」の飾り文字が躍り、軽やかにリズムを刻む。そしてマウンドに現れる、福岡ソフトバンクの絶対的守護神。
僅差のビハインドで迎える9回表は、ビジターチームにとっては最後の攻撃のチャンスだ。打者は凄まじい集中力でもって抑え投手に食らい付く。実際にここで追い上げ、9回裏または延長戦にもつれ込むケースはさほどめずらしくない。しかし「キング・オブ・クローザー」の名が高らかにコールされたとき、3点以下の点差を詰めるということがひどく途方もないことのように感じられる。そしてそれは、決して錯覚ではない。
福岡ソフトバンクの守護神・サファテ投手が、9月5日、京セラドーム大阪のオリックス戦、1点リードの11回裏に登板し、オリックス打線を3者凡退に抑えて今季47セーブ目をマークした。これは、シーズン最多セーブの日本プロ野球記録を更新する快挙である。
7月5日のオリックス戦では、史上6人目となる通算200セーブの偉業を達成し、8月31日の北海道日本ハム戦では、自身の持つリーグ記録を上回る44セーブをマークするなど、立て続けに大記録を打ち立てているサファテ投手。シーズン50セーブ到達も視野に入っており、ここからは1つセーブを成功させるたび、毎回新記録を樹立するということになる。サファテ投手は今まさしく、未だかつて誰も辿り着いたことのない境地に立っている。
ニューヨーク州出身のサファテ投手は、2011年から広島に在籍し、2013年から埼玉西武へ。いずれも好成績を残したが、2014年から福岡ソフトバンクの一員となり守護神の座に就くと、その投球はますます凄みを増した。史上3人目となる12球団からのセーブ達成。史上初となる両リーグ30セーブ達成。2年連続で最多セーブのタイトル獲得……。日本球界で戦った7年間で成し遂げた大記録は、枚挙に暇がない。
自身の手で福岡ソフトバンクの勝利を導くと、最後のマウンドで厳かに手を合わせる姿でもお馴染みのサファテ投手。必要があれば回跨ぎも連投も完璧にこなし、接戦に強い今季のチームを支えてきた。リーグ2位の58試合登板で、防御率は驚異の0.93。「サファテ投手につなげば絶対に勝てる」。実績に裏付けられたその信頼感が、1人でマウンドに立つ投手陣にどれほどの勇気を与えてきたか。単純な数字で表すことはできないほどだろう。
先発投手が早い回で降板する試合が続き、ブルペンの負担が増したときには「みんな疲れている。先発は何か感じて」と苦言を呈した。だがそれもチームへの愛情とリスペクトがあるからこそ。誇り高い守護神は、グラウンド内外でチームの精神的支柱にもなっている。
これまでシーズン最多セーブの日本記録を保持していたのは、中日の岩瀬投手(2005年)と阪神の藤川投手(2007年)だった。サファテ投手は、この先達に対しても「尊敬している2人に並べて光栄だ」と敬意を表する。福岡ソフトバンクが誇る心・技・体を備えた「キング・オブ・クローザー」。前人未到の50セーブ到達を射程圏内に収めつつも、昨季逃したリーグ優勝の栄冠に向けて、サファテ投手はこれからも威風堂々、最後のマウンドに上がる。
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