打者は柳田、投手は二木…セイバー目線で選出する8月パ月間MVP

Full-Count 鳥越規央

2018.9.5(水) 14:26

福岡ソフトバンク・柳田悠岐【写真:藤浦一都】
福岡ソフトバンク・柳田悠岐【写真:藤浦一都】

8月は福岡ソフトバンクが快進撃、北海道日本ハムは投手が苦戦

福岡ソフトバンクが急激な追い上げをはじめ、上位3チームによる優勝争いが混沌とした状況になってきたパ・リーグ。一方で、クライマックスシリーズ進出争いは鎮火しそうですが、8月のチーム成績は以下の通りでした。

福岡ソフトバンク 18勝6敗
OPS.848 本塁打39 防御率3.10
埼玉西武 15勝10敗
OPS.783 本塁打40 防御率3.96
オリックス 11勝13敗
OPS.616 本塁打11 防御率3.52
北海道日本ハム 10勝13敗
OPS.741 本塁打24 防御率4.34
千葉ロッテ 9勝14敗
OPS.610 本塁打8 防御率3.70
東北楽天 8勝15敗
OPS.619 本塁打18 防御率3.38

8月に入り、上位と下位で打撃力に大きな差が生じました。上位3チームのOPSは0.7以上なのに対し、下位3チームは0.7未満。本塁打数も20本以上と以下の壁ができてしまいました。

打線は好調だった北海道日本ハムですが、8月に入り1チームだけ防御率が4点台と投壊状態に。月間QS(※)率が36%と先発投手が6回持たずに降板、もしくは6回投げて自責点4以上と試合を作れない状況が続きました。特に、福岡ソフトバンクとの6試合はQS1回の1勝5敗、埼玉西武との6試合ではQS1回の2勝4敗と大きく負け越したことが減速要因となりました。(※クオリティースタート:6回以上を投げて自責3以下)

福岡ソフトバンクは月間チーム打率.291、月間OPS.848と、前半戦の埼玉西武を彷彿とさせる打撃力に加え、ローテーションを再編した先発投手陣、そして救援投手陣が防御率3.10と前月の投壊を払拭する活躍を遂げました。

埼玉西武は主軸の不調を下位打線がカバーし、さらには8月救援防御率が2.85と12球団1位を記録。福岡ソフトバンクの猛追をかわし、8月末時点で6ゲーム差をつけて首位をキープしています。

それでは、セイバーメトリクスの指標による8月のパ・リーグ月間MVPを選出していきましょう。なお、NPBによる月間MVPの候補選手は以下の通りです。

○打者部門
松田宣浩(福岡ソフトバンク)、デスパイネ(福岡ソフトバンク)、森友哉(埼玉西武)、中村剛也(埼玉西武)、浅村栄斗(埼玉西武)、山川穂高(埼玉西武)、吉田正尚(オリックス)

○投手部門
千賀滉大(福岡ソフトバンク)、大竹耕太郎(福岡ソフトバンク)、ヒース(埼玉西武)、辛島航(東北楽天)、ディクソン(オリックス)、山田修義(オリックス)、二木康太(千葉ロッテ)

柳田に“熱男”松田が肉薄するも…

○8月月間MVP パ・リーグ打者部門

柳田悠岐(福岡ソフトバンク)
OPS 1.221 wOBA 0.505 RC27 11.67 出塁率.495(すべてリーグ1位)
打率.342 長打率.726(リーグ2位)

候補選手は7名ですが、この中に柳田の名前は挙がっていません。それもそのはず。候補発表時の柳田の成績は、打率.286、2本塁打、OPS.966でしたが、発表以降に打率.419、5本塁打、OPS1.571と打棒が爆発し、月間MVP候補に遜色ない成績となりました。では、月間MVPの有力候補の成績をみてみましょう。

松田宣浩(福岡ソフトバンク)
打率.371 安打数33 本塁打8 得点圏打率.409 打点21

中村剛也(埼玉西武)
打率.319 安打数29 本塁打12 得点圏打率.278 打点26

柳田悠岐(福岡ソフトバンク)
打率.342 安打数25 本塁打7 得点圏打率.412 打点21

7月まで打率.228と打率ランキング下位に低迷していた松田が、8月に入り日本列島を襲う酷暑を味方につけるかのごとく「熱男」としての本領を発揮。福岡ソフトバンク8月攻勢の原動力となりました。打率、安打数、得点圏打率が1位であること、チームが月間首位であることを鑑みて、公式の月間MVPの最有力候補と言えるでしょう。

中村剛也も7月まで打率.199と大不振だったのですが、自己記録更新となる月間12本塁打を記録するほどの回復を見せ、埼玉西武恐怖の下位打線の核となりました。また通算本塁打を380とし、歴代23位の記録となりました。

では、セイバーメトリクスの指標で3者を比較してみましょう。

柳田悠岐
OPS 1.221 出塁率.495 長打率.726 wOBA .505 RC27 11.67 四死球21

松田宣浩
OPS 1.153 出塁率.446 長打率.708 wOBA .486 RC27 11.33 四死球10

中村剛也
OPS 1.164 出塁率.417 長打率.747 wOBA .485 RC27 10.11 四死球16

相変わらず柳田の四死球の多さが目立ちます。それが出塁率の高さに繋がっています。また4盗塁と足での貢献もあり、それがRC27に加算されています。今月はかなりハイレベルなMVP争いになりましたが、主要指標で高評価の多かった柳田を8月月間MVPパ・リーグ打者部門に推挙します。

ちなみに、8月の福岡ソフトバンク打線の成績は下記の通りです。

1番 牧原大成 打率.324 OPS.750 本塁打1
2番 今宮健太 打率.296 OPS.908 本塁打5
3番 グラシアル 打率.340 OPS1.002 本塁打4
4番 柳田悠岐 打率.342 OPS1.221 本塁打7
5番 松田宣浩 打率.371 OPS1.153 本塁打8
6番 中村晃 打率.280 OPS.782 本塁打2
7番 長谷川勇也 打率.372 OPS1.161 本塁打4

1番から7番まで切れ目のない強力打線が形成され、得点力増強の要因になっていました。

救援投手が大健闘、千賀と二木の好投が光る

○8月月間MVP パ・リーグ投手部門

二木康太(千葉ロッテ)
4登板 1勝3敗 防御率2.35
FIP 2.52 RSAA 6.29 WHIP 0.97 QS率80% K/BB 3.6

今月は救援投手陣で特筆すべき成績が目立ちました。

山田修義
18登板 投球回12.2 1勝1敗9H 防御率3.55 被打率.156 奪三振率11.37

宮西尚生
13登板 投球回11.2 0勝1敗11H 防御率0.00 被打率.214 奪三振率10.03

ヒース
13登板 投球回13 0勝0敗8S4H 防御率0.00 被打率.114 奪三振率15.23

山岡泰輔
9登板(先発3)投球回26.2 3勝0敗4H 防御率1.35 被打率.224 奪三振率7.76

山田は8月3日になって初めての1軍登録。左のワンポイントとして起用され、16日までの14日間で11試合に登板。その間無失点を継続し、1勝7ホールドを達成しました。18日に初失点、19日は4失点で初黒星と福岡ソフトバンク打線には捕まりましたが、その後も起用され続け、稲尾和久、益田直也、フランスアに並ぶ月間18試合登板となりました。

山田と同じく左のセットアッパーとして長年活躍してきた宮西も8月は13登板とフル稼働。8月3日は1失点で黒星がつきましたが、それ以降は無失点で1勝11ホールドを達成。自責点は0のため月間防御率0.00を記録しています。候補者名簿にはありませんでしたが、有力候補になり得るとして紹介しました。

ヒースは埼玉西武救援投手陣再建の屋台骨となりました。13試合に登板しすべて無失点、4ホールド8セーブを記録しました。なおヒースが5月に登録されてからの月間防御率は次の通りです。

5月 4.50
6月 0.00
7月 4.15
8月 0.00

隔月で調子の波が来ているようで、9月1日のオリックス戦には9回裏2点リードの場面から2連打の後、中島宏之にサヨナラ3ランを浴びています。埼玉西武優勝戦線に不安を残す形となりました。

山岡泰輔は5月以降、先発として8連敗と結果を残せず、8月から中継ぎに回ります。山岡はその役目を4連続ホールドという結果でしっかり担い、金子千尋の代役として急遽先発登板となった15日の埼玉西武戦においては6回2失点のQS達成で4月22日以来の3勝目をマーク。その後は先発ローテに復帰し、月間3勝と八面六臂の活躍で、オリックス投手陣の救世主となりました。

では、先発投手陣で有力な候補の成績をみてみましょう。

千賀滉大
4登板 投球回31.1 4勝0敗 防御率0.86 被打率.176 奪三振率10.63 完封1

二木康太
5登板 投球回38.1 1勝3敗 防御率2.35 被打率.201 奪三振率8.45 完投2(完封1)

千賀は先発で4勝、うち完封1つ、奪三振37はリーグ1位となれば、福岡ソフトバンク月間首位とも相まってNPB公式の月間MVPの最有力候補と言えるでしょう。二木は8月31日の7失点降板で印象は悪くなったことでしょう。

では、セイバーメトリクスによる評価ではどうなるでしょうか。

二木康太
FIP 2.52 被本塁打1 WHIP0.97 QS率80% K/BB 3.6 RSAA 6.29

千賀滉大
FIP 2.23 被本塁打1 WHIP0.93 QS率100% K/BB 3.7 RSAA 6.16

ヒース
FIP 0.43 被本塁打0 WHIP0.46 K/BB 22.0 RSAA 5.15

宮西尚生
FIP 1.66 被本塁打0 WHIP1.03 K/BB 4.33 RSAA 3.02

山田修義
FIP 2.57 被本塁打1 WHIP0.87 K/BB 4.00 RSAA 2.01

山岡泰輔
FIP 3.61 被本塁打2 WHIP1.16 K/BB 2.56 RSAA 1.15

RSAA(Runs Saved Above Average)とは、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標で、(リーグ平均FIP?選手個人のFIP)×投球回数/9で算出します。

RSAAはイニング数にも依存するので、救援投手の数値は先発に比べ抑えられる傾向にあるのですが、ヒースの5.15は救援投手としてはかなり高い部類の数値で、先発投手と比較しても遜色ない記録です。

ただ2人の先発がRSAA6点台とそれを超えています。各指標では千賀の方が二木を上回っているのですが、どれも僅差。ここはRSAA上位だった二木を推挙します。

ちなみに今月の二木は2つの意味で「援護」がありませんでした。まず援護率は千賀が6.68、二木が1.38と打線の援護に恵まれず、2完投も報われず今月1勝止まりでした。

また、グラウンドに飛んだ打球をどれだけの割合でアウトにできたかを示すDERの月間指標を見ると、福岡ソフトバンクが.728だったのに対し、千葉ロッテは.698と大きく差が開いています。DERは投手が打たれる打球の質にも依存する数値ですが、守備範囲の広さや打球処理の巧拙にも強く依存する数値でもあります。守備陣の援護にも差が出た8月だったのではないでしょうか。

記事提供:Full-Count

記事提供:

Full-Count 鳥越規央

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