「解説者」→「監督」は新たな道筋となるのか。増えつつある、その理由

パ・リーグ インサイト 新川諒

2018.9.3(月) 16:51

今シーズンから就任した新たな監督二人がリーグ最高勝率1位・2位を争っている。その二人とはボストン・レッドソックスのアレックス・コーラとニューヨーク・ヤンキースのアーロン・ブーンだ。この二人には共通点がある。それは共にメジャーリーグの現場での監督経験がなく、解説者を経て、メジャーリーグ球団の指揮を執ることになったという道筋だ。

コーラは2011年を最後に現役引退し、その後はESPNで解説者を務めてきた。昨年は優勝を果たしたヒューストン・アストロズのベンチコーチとして過ごし、わずか1年後にレッドソックスの監督に就任した。このベンチコーチ時代にはヒンチ監督が退場となった試合では、途中から代わりに指揮を執っていたことがあるのは補足しておく。さらにメジャーリーグの舞台とは異なるが、母国プエルトリコで開催されるウィンターリーグでも監督経験は持ち合わせている。

一方、ヤンキースの監督に就任したアーロン・ブーンは2009年シーズンを最後に現役から退いており、その後はコーラと同じくESPNで解説者として中継を盛り上げてきた。ブーンに至っては現場での経験なく、伝統あるヤンキースの監督に抜擢された。共に兄もメジャーリーガーだったということもあり、野球一家で育った共通点も持ち合わせている。

なぜMLBは現場経験が重視されずに監督になるのか

何故現場経験が全くない、または少ない者がMLB球団の監督に抜擢されているのかを考えてみたい。まずはそういった人物が監督に就くことでチームにもたらすものを想像する時、日本の野球ファンにとっては北海道日本ハムファイターズの栗山英樹監督を思い浮かべると分かりやすいのかもしれない。

現役引退後はスポーツキャスターや大学での仕事を始め、様々な形で野球に携わっていたが、現場での監督経験はファイターズを指揮する2012年まで皆無だった。それでも栗山監督がファイターズだけでなく、球界に大きな影響をもたらしている事は野球ファンだけでなく、色々な人々に広がっているのではないだろうか。おそらく伝統あるレッドソックスやヤンキースという球団も変わりゆく時代の中で、今のチームに合った指揮官として選んだのが監督経験のない二人だったのだろう。

こういった人選が珍しくなくなってきた理由として考えられるのは、データの存在があるのでないだろうか。現場にデータが浸透してきているため、それを理解し、選手達にうまく落とし込むことが新たに求められてきている。そのため中継の仕事で様々なデータを言語化してきた解説者としての経験は大きく、現場が求めているニーズとフィットしている。戦術の部分だけではなく、コミュニケーターとしての能力というのが非常に重要な時代となってきているのではないだろうか。

解説者から監督への流れが増えるその他の理由は

さらには監督の一言一言にも注視される時代だ。メディアからの厳しい見方だけではなく、ソーシャルメディアによってどこからでも指摘を受けてしまう時代。不適切な発言一つで大きな問題に発展し、チームのブランドイメージを損なう事態にもなってしまう。球団側も対処は早く、今季は公の場でなかったにも関わらず不適切な発言で仕事を失ったコーチもいたぐらいだ。そういう意味では常に生放送という修羅場をくぐり抜けてきていて、発言には人一倍、気を遣っている解説者という仕事を経験している者には球団側も不安が少ないはずだ。

そして最後の理由として挙げたいのはGMや野球運営責任者が求めるリーダー像が変わってきている面だろう。アービーリーグと呼ばれる東海岸に位置する米国の名門私立大学8校の出身者は球界に増えてきている。半数近くの球団トップが今ではアービーリーグ出身者である。だが彼らは頭脳派として優秀なだけではなく、なんらかの形で球団やリーグ機構での仕事やインターンを経験している者が多い。ベースボールマインドを持ち合わせているからこそ世界で30しか存在しないイスの一つに座ることが許されている。20代後半や30代前半でGMに抜擢される者が増えてきていることで、彼らにより権限が与えられる時代となった今、彼らが直接選ぶ監督も若返ってきているのだろう。

一方で長年監督を続けている存在もリーグには健在だ。ボルティモア・オリオールズのバック・ショーウォルター監督であったり、サンフランシスコ・ジャイアンツのブルース・ボーチーであったり、そして19年以上同一チームで指揮を執っているロザンゼルス・エンジェルスのマイク・ソーシア監督。それでも名将、オールドスクールという代名詞が似合う監督は年々減っている印象だ。

チームがどういう状況に置かれているかによって、そこにマッチする特徴を持ち合わせた存在をGMが選ぶ。複数の球団での経験では様々な指揮官と出会うことがあったが、勝つことを求められているか、再建中であるかによっての人選は変わっていたように思う。その中でも常に優勝が求められている2球団が新たな指揮官として解説者を経験している2人を選び、結果につながっている事は今後においても新たなトレンドとなっていくだろうか。

記事提供:

パ・リーグ インサイト 新川諒

この記事をシェア

  • X
  • Facebook
  • LINE