売店から売り子に転身、1日の最高売上げは296杯のベテラン
今季千葉ロッテでは、3月30日のホーム開幕戦からホーム最終戦まで、ZOZOマリンスタジアムでの主催ゲームを対象に「売り子ペナントレース」を開催している。
立ち売り販売のドリンクメニュー(ソフトドリンクも含む)を販売する売り子経験5年以内の希望者88人が参加。年間販売杯数ナンバー1となった売り子には「ハワイアン航空 成田-ホノルル往復ペア航空券」がプレゼントされるという企画だ。
混戦模様のパ・リーグにおいてペナントレースが激化するとともに、「売り子ペナントレース」も佳境に突入。現在はまりなさんが首位を独走する形だが、レース状況が大幅に変わる可能性が残されている。
それが8月31日に開催される「チケット・ビール半額デー」だ。通常700円のビールが350円になる他、ビール以外の各種ドリンクも通常よりお得な価格で販売されるため、この日に売上げ自己新記録を達成する売り子も多い。
そんな一大イベントを前に、7月31日現在「売り子ペナントレース」のトップ5入りする人気売り子をご紹介するこの企画。第3回は視野の広さが自慢の「なつき」さんだ。
幼い頃から水泳やバレーボール、バスケットボール、テニスなどスポーツ少女だったなつきさんは、高校で部活を卒業した後、「球場でバイトをしたい」と売店で働き始めた。だが、働くうちに「売り子をやってみないか」と“スカウト"されて転身。大学4年の今年で5年目を迎える。
当初は、18キロもあるビール樽を背負う仕事で肩こりに悩まされたが、「なつきちゃんのビールを飲むために1杯も飲まずに待っていたよ」と声を掛けてくれるお客さんの存在を力に続けてきた。
5年目ともなれば、常連さんや顔なじみも多いと思うが、「私が勝手に顔を知っちゃってるお客さんもいます」と笑う。
「年間シートを持っているお客さんだと、この方はいつもこの辺りにいてっていうのは大体把握してますし、何度も観戦にいらっしゃるお客さんだと、この方は内野席で大体この辺りの席が多いっていうのは覚えていて、勝手に顔見知りになっています」
今ではビール半額デーには350杯以上、通常の日でも最高296杯売り上げるベテランだ。高校生から積み上げてきた経験で、臨機応変に対応できることが強み。「視野の広さは、多分誰にも負けないと思います」と胸を張る。
「売っている最中でも周りを気に掛けるようにしています。ビールを飲みたそうなお客さんは仕草や目線で大体分かる。そういう方を見つけて、次に行くように効率よくやっていますね。慣れてくると、売れるタイミングも少し分かるようになってくるんです」
「例えば、ロッテが攻撃の時は外野席の皆さんは応援しているから売れない。だから、守りになって少し間を置いて行くようにしています。あとは団体のお客さんだと、ビールを買うタイミングがあるんです。1回売りに行くと『今日は超飲むから!』って宣言して下さるお客さんもいるので、どういうペースで飲むのか見るようにしていますね」
「5位までに入ればお客さんも喜んでくれると思うので」
マリンスタジアムと言えば、名物は海から吹きつける強風だ。グラウンド上の試合展開だけではなく、スタンドを主戦場とする売り子たちにも大きな影響を及ぼす。長身で細身のなつきさんは「風が強い日には体が持っていかれます」と苦笑い。同時に、強風の日は細やかな気配りが必要になるという。
「ビールを注いでいる時に泡が飛んでしまうこともあるので、その配慮も必要ですし、自分が少しよろけた時、もし近くに小さいお子さんがいたら危ないので、そこにも気を配りますね。よろけないためにも、前傾姿勢になって踏ん張る力が大事。体力も気配りも必要な強風の日は、私は雨の日より辛いと思っています」
千葉ロッテは昨季リーグ最下位に沈んだが、今季はクライマックスシリーズ進出に向け、激しい戦いを繰り広げている。売り子を始めてから一層野球が好きになったというなつきさんは、ビールを売りながら今年の盛り上がりを肌で感じている。
「ここ数年に比べてお客さんが増えていますね。お客さんが多い方が楽しいし、ロッテの勝利とか点が入った時の喜びを分かちあえるのがうれしいです。一番好きなのは角中(勝也)選手。渋いってみんなに言われるんですけど(笑)、今年は交流戦の首位打者だったんで超うれしかったです。怪我をしてしまって、交流戦に間に合わないかもって心配してたんですよ。角中選手の打席になると、売り子をしながらチラッと見ちゃいます」
来年からは就職し、社会人としてデビューする。これまで夏休みの予定は千葉ロッテの試合スケジュールに合わせて決めていたが、「今年がラストイヤーです。めちゃめちゃ寂しいです」。最後の年に開催された売り子ペナントレースでは、現在5位。優勝といかないまでも、トップ5入りを果たしたいという。
「お客さんも『なつきちゃん、ハワイ行ってよ』って応援してくれる。だから、5位までに入ればお客さんも喜んでくれると思うので」
お客さんに感謝の気持ちを伝えるためにも、1つでも順位を上げてゴールを迎えたい。
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