2006年から続く福岡ソフトバンクホークスの一大イベント「鷹の祭典」が、2024年から名称を「鷹祭 SUMMER BOOST」に変え、リニューアルしました。その背景にある想いを、福岡ソフトバンクホークスの南一輝さんと、イベントのキービジュアルを担当したイラストレーターの「りおた」さんにインタビュー。依頼の経緯から現地での反響までを聞きました。
対談出席者
・福岡ソフトバンクホークス 事業統括本部 マーケティング本部 MD事業部 MD企画課
南 一輝 さん
・スポーツイラストレーター
りおた さん
18年続いた祭典のリニューアルで「りおた」を起用した理由
ーーホークスさんにとって、「鷹祭 SUMMER BOOST」はどのようなイベントですか?
南:私たちは2006年から18年間、選手とファンの皆さまが一体となって盛り上がれるイベント「鷹の祭典」を開催してきました。本拠地である、みずほPayPayドーム福岡で、来場者全員にユニフォームを配布し、野球に関連する数々のイベントを実施するという、球団にとっても思い入れの強いイベントです。
2024年、「鷹の祭典」から「鷹祭 SUMMER BOOST」に名称を変更した背景には、球団の原点に立ち返ろうという想いがありました。
私たちは野球興行を主体とする企業ではありますが、地域を起点にエンターテインメントを届ける会社でもあります。それならば、球場内だけではなく、福岡という街を盛り上げて、より多くのお客さまに楽しんでいただくべきではないか。そこで、「ドームから街へ」というコンセプトのもと、「鷹の祭典」をチームやファン、福岡の街と共に作り上げるイベントにしようと考えたのです。
ーーその第一回目が今年だったのですね。非常に重要な位置づけにあたるイベントのキービジュアルを、りおたさんにお願いした経緯は?
南:私はグッズの企画などを担当しているんですが、コンセプトをリニューアルしたタイミングに合わせて、ファンや福岡の方々に受け入れられるポップなデザインの商品を作りたいと考えていました。
普段からSNSなどでスポーツに関連するイラストレーターさんの投稿を見ているのですが、Instagramでたまたまりおたさんのアカウントを発見したんです。投稿されている内容を見ていると、Jリーグのサンフレッチェ広島さんが手がける、広島の街も巻き込んだイベントに関わっていることを知りました。
南:りおたさんの活動は、まさに私たちがやりたいことそのものでした。ぜひりおたさんに、今回のイベントのイラストをお願いしたい。そう思い社内で提案したところ、「鷹祭 SUMMER BOOST」のプロモーション担当も、りおたさんを知っていたんです。担当者も同じ想いだと分かり、思い切って依頼させていただきました。
ーーホークスさんから声がかかったときのりおたさんの心境も教えてください。
りおた:僕は山口県に住んでいたので、テレビでは福岡県の系列局の放送が多く、毎日ホークスの情報に触れていました。友人にもホークスファンが多いので、毎年「鷹の祭典」を楽しみにしている様子も目の当たりにしていました。
福岡県外の人間ながら「鷹の祭典」にかける人々の想いは知っているつもりです。コンセプトを一新した第一回目のイベントでイラストを描けることに、とても興奮しました。
ひと目で誰なのかがわかるデザイン。選手や背景へのこだわり
ーーキービジュアルが完成するまでに、どのようなやり取りがありましたか?
南:私からは、大きく二点をりおたさんにリクエストしました。
ひとつ目は、「ドームから街へ」というコンセプトのもと、みずほPayPayドーム福岡や福岡の街を背景に、いきいきとプレーする選手を描いていただくこと。
ふたつ目は、メインビジュアルに描かれたデザインをグッズとしても展開できるよう、選手一人ひとりをバラバラにしても成り立つようなデザインにしていただくことです。
キックオフミーティングでイラストのイメージをお伝えしたんですが、りおたさんはその場で大まかなイラストのラフを見せてくださいました。
ーーその場で、ですか?
りおた:はい。お客さまと打ち合わせをするときは、スケッチブックやiPadを用意しておいて、お話を聞きながらデザインのイメージをまとめることが多いです。そこで描いたラフの6~7割が、採用に至るケースが多いですね。
南:今回も、初回に見せていただいたラフが実際のデザインとかなり近しいものでした。その後、4案ほどデザインのイメージを提案いただき、最もしっくりきたデザインを採用しました。
りおた:背景には博多のランドマークを描くなど複数の候補があるなか、みずほPayPayドーム福岡と周辺施設を描くという今の形にまとまりました。
ーーみずほPayPayドーム福岡を中心に、BOSS E·ZO FUKUOKA(ボス イーゾ フクオカ)や福岡タワー、ヒルトン福岡シーホークが描かれていますね。
りおた:実は、ドーム前の階段の踊り場からよく似た構図で、これらの施設を一望できる場所があるんです。僕自身、ドームにはこれまで何度も足を運んだことがあります。そのとき、このあたりをどう歩いたか記憶をたどったり、周辺の画像などを調べたりして、この角度が一番しっくりくると考えました。
Zepp Fukuokaのライブを待つ間、人々が時間をつぶす場所でもあるので、「もしかしたらここかも!」と思い当たる人は多いかもしれません。
ーーご自身の実体験も、イラストに反映しているんですね。
りおた:そうですね。背景の施設は、できる限り本家の特徴を反映できるよう意識しました。BOSS E·ZO FUKUOKAの屋上にある遊具や滑り台など、細かな部分も再現しているので、ぜひその点にも注目してもらえたらうれしいです。
選手のみなさんのデザインは、キーホルダーなどのグッズにすると事前に聞いていたので、なるべく本人を連想させるポーズを意識しました。それでいて、シンプルなデザインに仕上げることを心がけました。
南:選手を描くにあたって、りおたさんはとても丁寧に選手のことを調べてくださいました。私からも参考画像を何枚かお送りしましたが、りおたさんは事前に選手の特徴やプレースタイルを調べ、選手らしい場面をイラストに盛り込んでいました。
ーー完成したイラストを目にしたときの感想は?
南:躍動感とインパクトのある絵に圧倒されました。弊社のメンバーも「これはすごいものができたね!」と、とても興奮していたのを覚えています。
りおた:日本を代表するスポーツチームであるソフトバンクホークスさんが、自分の描いたものを見てこれほど喜んでくれるのは、すごくうれしいです……!
南:イラストそのものだけでなく、りおたさんの心配りが感じられるエピソードもよく覚えています。イラストが完成する直前、ホークスの看板選手である柳田悠岐選手が、ケガで長期離脱することとなりました。
ニュースが出た直後に、りおたさんはデザインの別案を用意してくださいました。最終的に柳田選手が中心に描かれるデザイン案をそのまま採用しましたが、こちらの動きを配慮し、先回りして提案してくださる姿にとても感動しました。
りおた: 代案のイラストを提案したとき、南さんたちは「柳田選手は球団の柱だから、やはり中心に置くのが一番ハマると思うんです」と話していました。選手への信頼と愛にあふれた球団だなと、僕も感動したのを覚えています。
イラストに寄せられた喜びの声
ーー実際にメインビジュアルを公開して、ファンの方々からはどのような反響がありましたか?
南:SNSで公開した直後から「選手の特徴がしっかり捉えられていて、ひと目で誰かわかる!」と、ファンの方々も喜んでいる投稿が多く見られました。
オフラインのイベントでは、メインビジュアルにファンがメッセージを貼るモザイクアート企画を行いました。結果的に、イラストが埋め尽くされるほど多くのメッセージを貼っていただきました。ドームのあちこちに掲示したりおたさんのイラストを前に、写真を取る方々も非常に多かったです。
ーーオンライン、オフラインともに、大盛況だったのですね。りおたさんのもとにも、さまざまな声が寄せられたのでは?
りおた:「推しの選手を新鮮なタッチでかわいく描いてもらえてうれしい」という声をたくさんいただきました。ドームに遊びに行ったときは、僕の存在に気づいたファンの方々が声をかけてくれました。
街に出てみると、河川敷に僕が描いた選手の弾幕が飾ってあったり、ドームの周りでも、すきあらば僕のイラストと出くわしたりしました。実際に自分のイラストがドームや街を彩っている様子を見て、なんとも言えない幸せな気持ちが込み上げてきました。
昔からお世話になっているホークスファンの人がいて、その人と一緒に試合観戦したんです。そのとき「昔から『ソフトバンクホークスの仕事がしたい』と言っていたが、本当に実現したんだな!」と祝福してもらいました。身近な人からも喜びの声をもらえて、すごく感慨深い時間を過ごしました。
ーー7月6日、ららぽーと福岡にて開催された「鷹祭 SUMMER BOOSTプレイボールセレモニー」にりおたさんも登壇していましたね。
南:この企画は、当初の予定にはありませんでした。りおたさんのイラストを社内で共有するうち、「この絵をしっかり活かしたい。『鷹祭 SUMMER BOOST』のさまざまな施策に組み込んでいこう」という話になったんです。
その一環として、プレイボールセレモニーではりおたさんにも参加いただき、ライブで小久保裕紀監督の似顔絵を描いていただきました。
ーーライブで絵を描くというオファーは、りおたさんにとって予想外だったのでは?
りおた: はい。もともと僕は、キービジュアルやグッズのイラストを描いたところで自分の仕事は完了だと思っていたんです。そんななか、思わぬ形で新しい依頼をいただきました。頑張って制作したことに対するご褒美をもらった感覚で、すごくうれしかったのを覚えています。
熱意やこだわりを込めたものはファンの心に必ず届く
ーー今回のプロジェクトを通じて得られた経験や、今後取り組みたいことを教えてください。
りおた:ホークスの皆さんが、ここまで僕のイラストをさまざまな形で押し出してくれるとは思わなかったので、本当にうれしかったです。とはいえ、皆さんの告知に依存したり「イラストを描いて終わり」にはせず、微力ながら盛り上げるお手伝いもさせていただきました。
現地に行ったりセレモニーに参加したり、SNS上でイラストに反応してくださった方にリアクションしたり。イベント開催に合わせて、1ヵ月ほどホークス関連のイラストだけを投稿し続けました。
大きな仕事を任せてもらった以上、自分なりの形で全身全霊で協力するという姿勢の重要性を、今回のプロジェクトで改めて学ばせてもらった気がします。
南:私が今回の取り組みを通じて一番に感じたことは、熱意やこだわりを込めて作ったものは、ファンの方々にもしっかり届くということです。
ソフトバンクホークスでは、これまで「鷹祭SUMMER BOOST」のような大型イベントにおいて、私が所属するMDチームが主導するイラストを、他部署の施策でも使ってもらうことはありませんでした。イベントのメインビジュアルを制作するチームが別にあり、そのチームが制作したメインビジュアルを各施策に落とし込むことが通例だからです。
今回のようにグッズ用に制作したイラストを、他部署の施策でも活用し、露出を増やせたことはMDチームにとっても良い事例となりました。
一方で、りおたさんがご自身の絵を受け入れてもらえるか悩んだように、私たちも初めての取り組みがファンの方々に受け入れてもらえるか、ドキドキしていました。しかし、結果として完成したキービジュアルは、多くの人々に気に入っていただけました。
これだけの反響に至ったのは、りおたさんのイラストだったからこそだと思います。まだアイデアレベルですが、今後は単発のイベントではなく年間を通じてのプロモーションで、イラストを活用してみたいなと考えています。
取材・石渡広一郎、倉内夏海(株式会社ホットリンク)
文・サトートモロー
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