10月29日から京セラドーム大阪で開催される、「社会人野球日本選手権大会」。プロ野球ドラフト会議直後の大会とあって、指名選手の実戦に注目する野球ファンは多いだろう。
今年は13名の選手がプロ入りを果たし、うち6名が日本選手権大会に参戦。パ・リーグでは千葉ロッテから2巡目指名された宮崎竜成選手(ヤマハ)、オリックスから4巡目指名の山中稜真選手(三菱重工EAST)、5巡目の東山玲士投手(ENEOS)、6巡目の片山楽生投手(NTT東日本)が出場するほか、阪神が交渉権を獲得した伊原陵人投手(NTT西日本)と、横浜DeNAの竹田祐投手(三菱重工West)の両ドラ1投手にも注目したい。
今回は、日本選手権大会にも出場経験のある、元埼玉西武・岡田雅利さんに6年間の社会人野球の思い出をうかがった。
名門高校から名門社会人野球へ
「お金をもらって野球できるっていうのは素晴らしいことやから、しっかりそこで自分の野球経験を生かしてやってみるのはどうだ」
そんな大阪桐蔭高校・西谷浩一監督の一言で、社会人野球の大阪ガス入りを決めた岡田雅利さん。卒業後の進路として大学へ行くか、社会人野球に行くかの岐路に立たされたときに、背中を押してくれたのは、ほかならぬ恩師だった。
「正直、高校で進路決めるまでは社会人野球にあまりピンときていなかったのですが、社会人野球を観に行く機会があり、一球にかける思いを知って。『こんな素晴らしいところで野球できるんだぞ』って西谷監督に言っていただいたのがきっかけでした」
大阪ガスといえば、元オリックス・能見篤史さんや東北楽天・小深田大翔選手、阪神・近本光司選手など多くのプロ選手を出す名門チーム。そして、岡田さんは大阪桐蔭から大阪ガスという“大阪名門ルート“を歩んできた。「大阪じゅうで応援してくれますので。大阪を背負っている感じがありました」と回想する。
6年間のサラリーマン生活は「苦労しました」
社会人野球といえば、高校大学ともプロ野球とも違う点として、日々の業務がある。岡田さんもエネルギー事業部に6年間従事していたが、「それが本当に大変でした」と頭をかく。野球との両立、触ったことがないパソコン、飛び交う業界用語。電話対応にさえ手を焼いて、「気づいたら電話線が切られていた」というのも、いまとなっては笑い草だ。
「周りの人には迷惑をかけっぱなしで。それでも同じ部署のOB二人が気にかけてくれたり、大会になると観に来てくれる同僚もいてうれしかったですね」
そして、練習の量も質も格段に上がった。大阪桐蔭で相当な練習量をこなしてきた岡田さんでも、大阪ガスの練習のキツさに時には音を上げそうになったこともあったという。
「高卒1年目に都市対抗野球大会の本戦に出られなかったので、キャンプがあったのですが、朝の7時から夜の7時までぶっ通しで練習しました。『社会人野球、本気だな』『社会人野球ってすごいな』とこの早い段階でわかったのは、その後の社会人野球人生でも大きな分岐点かなと思いました。会社を背負っているんだとみんな言っていましたが、まさにその通りでしたね」
いまでも思い出す試合がある。「日本通運時代の牧田(和久)さんと2010年の日本選手権大会で対戦しました。ライオンズにドラフト2位で指名されたあとすぐの大会だったので『ここで打ったらプロ注目だろうな』と。そうしたらホームラン打っちゃったんですよ。『わー打っちゃったよ!』という気持ちと、『これは来年指名されるだろう』という気持ちで頭の中が大変なことになりましたね(笑)」
6年間を過ごした社会人野球の思い入れが強いだけに、ドラフト指名後最後の試合となった2013年の日本選手権大会も、プロ入り前にいいところを見せようという意気込みよりも、「負けたらここで終わってしまうのかという寂しさだけがあった」という。プロ入りの選手だけでなく、日本選手権大会を最後に引退したり、チームを離れる選手もいる。「そういった意味でも、日本選手権大会はチームのみんなと戦える最後の試合だから、一球一球を大切にしてほしいですね」と、岡田さんが初めて社会人野球を見たときに感じた“一球の大切さ”がここでつながってくる。
社会人野球経験者が多いライオンズだからこその話題
プロ入り後も社会人野球の動向は気になっていた。同じく社会人野球を経てプロ入りした熊代聖人さん(現埼玉西武コーチ/日産自動車→王子製紙)とはよく社会人時代の思い出話や大会の中継を見て盛り上がっていたという。「社会人野球経験という共通の話題で盛り上がるのは“あるある”。社会人野球出身者の横のつながりも強いと思います」と話す。
プロでもたびたび社会人野球を経験してよかったと思うシーンがあった。
「社会人野球では練習でも常に全力疾走して、ノックでも誰1人抜いてないんです。自分は普通だと思ってやっていたんですけど、『やっぱりしっかり振れているね』とか、『全力疾走できているね』と周りに言われて。当たり前のことをしているのに、そう言ってもらえるのは、やっぱり社会人野球で常にやっていたからかなと思います」
今年も京セラドーム大阪で32チームが火花を散らすこととなる。この球場をよく知る岡田さんから選手へのアドバイス。
「京セラドーム大阪は、左翼・右翼が広くホームランが出にくい球場なので、大きいのを狙いすぎないようにしたほうがいいですね。それからキャッチャー目線で言うと、社会人野球の応援って、拡声器を通しての声援なのでかなり大きく聞こえますし、その応援団は内野側スタンドということで距離も近い。それに加えてドームで反響するということもあって、声の指示が通りにくいんです。プロ野球よりもです。だから普段から大声出して練習するとか、連携の確認はしっかりしておくべきですね」
「第49回 社会人野球日本選手権大会」は10月29日から11月9日までの12日間にわたって開催される。岡田さんの注目チームはENEOSとのこと。
「怪我をしているときにENEOSさんと試合をやりました。やっぱりこのチームは違うなって思ったんですよね。僕らが見習わないとな、と。全力疾走もそうですし、はじめのアップにしても、みんな足が揃っていました。なんだかすごいなって感心しましたね。バッターも『やれ』って言われたことを徹底してやるチームでした。大久保(秀昭)監督ですよね。今大会も活躍に注目したいと思います」
その大久保監督は25日に退任を発表。日本選手権大会が最後の大会となる。14年間にわたるENEOS指導者生活の有終の美を飾れるか。
チケットなどの情報は公式ページよりご覧いただきたい。
取材・文 海老原悠
関連リンク
・都市対抗野球大会でのアピールポイント、自身を奮い立たせてくれる存在とは
・社会人野球の魅力と自身の現在地を語る。日本生命・山田健太選手インタビュー
・三井ゴールデン・グラブ賞受賞者の愛用品にはどんなこだわりが? レジェンドたちのグラブに野球殿堂博物館で出合う
・パ6球団の2024年指名選手 記事一覧
記事提供: