投高打低で際立った「勝てる投手」の奮戦。2桁勝利を挙げた11名の投手にデータで迫る

パ・リーグ インサイト 望月遼太

北海道日本ハムファイターズ・伊藤大海投手(左)福岡ソフトバンクホークス・有原航平投手(右)ⓒパーソル パ・リーグTV
北海道日本ハムファイターズ・伊藤大海投手(左)福岡ソフトバンクホークス・有原航平投手(右)ⓒパーソル パ・リーグTV

2桁勝利を挙げた投手の数に、直近4シーズンで大きな変化はなかった

 2024年のパ・リーグにおいて、2桁勝利を挙げた投手の数は11名。今季のNPBは投高打低の傾向がとりわけ顕著であり、先発投手にとっては打線の援護が減少することにもつながる。それでも、2023年の2桁勝利達成者は9名、2021年と2022年はそれぞれ同10名だったことを鑑みても、2桁勝利を挙げた投手の数には大きな変化がなかったと言えよう。

 今回は、2024年に2桁勝利を挙げた投手たちの成績をあらためて紹介するとともに、各投手が記録した各種の指標を確認。少ない援護を着実に白星に結び付けた投手たちがどのような投球内容を見せていたのかについて、データの観点から考察していきたい。

2名の最多勝投手をはじめ、多くの投手が見事な成績を残している

 2024年のパ・リーグで2桁勝利を記録した投手と、その年間成績は下記の通り。

2024年 パ・リーグで2桁勝利を記録した投手たちの投手成績 ⓒPLM
2024年 パ・リーグで2桁勝利を記録した投手たちの投手成績 ⓒPLM

 有原航平投手は日本球界復帰2年目の今季、チームトップの182.2回を投げて14勝を挙げ、2019年以来5年ぶりとなる最多勝に輝いた。同僚のモイネロ投手も先発転向1年目で11勝に加えて防御率1.88と素晴らしい数字を残し、最優秀防御率を受賞。先発陣を支えた左右の両輪は、チームのリーグ優勝にも多大な貢献を果たしている。

 伊藤大海投手は3年目の昨季にプロ入り後初めて2桁勝利を逃したが、今季は自己最多の14勝を記録して黒星はわずか5つ、防御率2.65と安定した投球を展開。最多勝と最高勝率の投手2冠を獲得し、先発としてのさらなる成長を示すシーズンを送った。

 小島和哉投手は中盤戦に不振に陥ったものの、勝負所の9月に月間防御率1.38と抜群の安定感を発揮し、自己最多の12勝を挙げてチームのAクラス入りに貢献。佐々木朗希投手は故障による長期離脱を経験したものの、18試合の登板で10勝とハイペースで勝ち星を積み重ね、レギュラーシーズン最後の登板で自身初の2桁勝利を達成している。

 早川隆久投手は自身初の開幕投手を務めた今シーズンにキャリア初の規定投球回到達と2桁勝利を達成し、杜の都のエースとしてチームをけん引。同じく東北楽天の藤井聖投手は今季から先発ローテーションの一角に加わり、自身初の2桁勝利となる11勝を記録した。

 2023年のドラフトで3球団が競合した武内夏暉投手は、プロ1年目から10勝を挙げて防御率2.17と、期待に違わぬ新人離れした投球を見せた。自身初の開幕投手を務めた今井投手も防御率2.34とエースの座に相応しい安定した投球を続け、2年連続となる2桁勝利を達成した。

 加藤貴之投手もこれまで3年連続で防御率2点台と好投しながら勝ち星に恵まれなかったが、今季は9年目にして初の2桁勝利を達成。山崎福也投手も移籍初年度から快調に白星を積み上げ、2年連続となる2桁勝利を記録してチームの躍進に貢献を果たしている。

11名中9名が、先発した試合の6割以上で試合を作る投球を見せていた

 次に、今季のパ・リーグで2桁勝利を挙げた投手たちが記録した、各種の指標を確認しよう。

2024年 パ・リーグで2桁勝利を記録した投手たちの投手指標 ⓒPLM
2024年 パ・リーグで2桁勝利を記録した投手たちの投手指標 ⓒPLM

 まずは、先発登板時に6回を自責点3以内に抑えた割合を示す、「クオリティスタート率(QS率)」について見ていきたい。2桁勝利を挙げた11名の投手のうち、QS率が60%を超えた投手は9名。大半の投手が高頻度で試合を作っていたことが、この数字からも読み取れる。

 その中でも、最多勝に輝いた有原投手のQS率は80.8%とこの表の中で2番目に高く、登板機会の大半において試合を作っていたことがうかがえる。さらに、モイネロ投手はその有原投手を上回る、84%というQS率を記録。年間を通して試合を壊すことが非常に少ない先発投手を2名擁していた点が、福岡ソフトバンクの強みの一つとなっていた。

 また、今井投手がQS率80%、武内投手が同76%と、埼玉西武の主力投手2名がいずれも高い数値を記録。両投手が揃って10勝と勝ち星を伸ばしきれなかったのは、ともにリーグワーストの打率.212、350得点にとどまった、打線の不振が大きく影響したと考えられる。

 その一方で、有原投手と同じく14勝を挙げた伊藤投手のQS率は69.2%と、今回の表の中では上から6番目という順位にとどまっている。しかし、9月以降は登板した5試合全てでQSを達成して4勝を上積みしており、重要なシーズン終盤にエース級の働きを見せた点は特筆に値しよう。

 さらに、12勝を挙げて最多勝の次点となった小島投手も、QS率は64%と伊藤投手に次ぐ7番目の数字となっていた。それでも、レギュラーシーズン最後の3試合はいずれも7回を投げて1失点以下と見事な投球を披露しており、伊藤投手と同様に終盤戦で快投を見せていた点は特徴的だ。

被安打になる割合の低下によって、各投手の与四球率にも好影響が生じた

 次に、本塁打を除くインプレーになった打球が安打になった割合を示す、「被BABIP」という指標に目を向けたい。被BABIPは一般的に.300が基準値とされているが、2024年に2桁勝利を記録した11名の投手の中で.300以上の被BABIPを記録したのは、早川投手と藤井投手の2名のみとなっている。

 安打を撃たれる割合を示す被BABIPの全体的な低下は、投高打低の環境を如実に示すものでもある。BABIPは運に左右されやすい指標であると考えられているが、投高打低の進行は投手の急速なレベルアップの影響も受けているという見方も存在する点は興味深い要素だ。

 それに付随して、与四球率に関しても注目すべき傾向が出ている。2桁投手を挙げた11名の投手のうち10名の与四球率が2点台以下であることに加えて、与四球率0.92という驚異的な数字を記録している加藤投手を筆頭に、与四球率が1点台以下の投手が実に7名も存在しているのだ。

 さらに、唯一3点台の与四球率を記録した今井投手に関しても、今季はキャリア平均の数字(4.76)を1点以上下回る成績を残している。ゾーン内で勝負しても安打が出にくい現在の環境が、与四球率にも間接的に影響を及ぼした可能性は高いと言えよう。

 また、奪三振を与四球で割って求める、制球力や投手としての能力を示す「K/BB」に関しても、11名中7名の投手が、優秀とされる3.50という水準を上回った。そして、被安打と与四球の双方が減少したことは、1イニングで出した走者の平均を示す「WHIP」にも影響を及ぼしており、11名のうち10名が、優秀とされる1.25を下回るWHIPを記録している。

 ただし、8点台以上の奪三振率を記録した本格派の投手が5名、奪三振率が7点台以下のいわゆる「打たせて取る」投手が6名と、投手のタイプの割合は拮抗している点も興味深い。さまざまなタイプの投手たちが好投を見せている点も、現在の環境の特徴的な部分となっている。

我慢強い投球で2桁勝利を達成する投手は、来季以降も多く現れるか

 打線の援護が少なかったとしても、相手に同点を許さないまま責任投球回を投げ切る。いわゆる「勝てる投手」となるためにはこうした我慢強い投球が求められるが、投高打低の進行に伴い、2桁勝利を挙げるためには例年以上に安定した投球が必要となっている。

 そんな中で、多くの投手が与四球と被安打を抑えながら幾度となく投手戦を制し、11名の投手が2桁勝利を挙げた。来季以降も2桁勝利を達成する投手の数に大きな変動はないのか、それとも何らかの変化が生じるのか。来季以降は、今後のNPBにおける環境の変化について、あらためて注目してみてはいかがだろうか。

文・望月遼太

関連リンク

飛躍を遂げたトッププロスペクト C.スチュワート・ジュニアの投球に迫る
若くしてMLBで活躍した長距離砲はNPBにも適応。レイエスの特徴と強み
ついに“甲斐キャノン超え”捕手出現 盗塁阻止ポップタイムTOP5
武内夏暉が規定投球回到達&2桁10勝 球団新人では2007年・岸孝之以来

記事提供:

パ・リーグ インサイト 望月遼太

この記事をシェア

  • X
  • Facebook
  • LINE