大学中退後、独立リーグを経てプロ入り掴んだ大木貴将
史上稀に見る混戦模様が続く今季パ・リーグ。昨季の最下位から「マクレ」をスローガンに、Aクラス入りを目指す千葉ロッテは、勝率5割を目指しながら、最後の追い上げに備えている。
チーム本塁打数は50本と12球団で随一の少なさだが、埼玉西武(101盗塁)に次ぐ92盗塁に象徴される機動力を駆使。就任1年目の井口資仁監督の下、独自のスタイルで白星を積み重ねている。
機動力野球を掲げる今季千葉ロッテで、まずは“足"を生かして1軍昇格への突破口を開こうとする3年目野手がいる。千葉ロッテ若手スターをご紹介する「1軍をマクレ」第4回は、独立リーグを経て育成契約から支配下を勝ち取った大木貴将選手に焦点を当てた。
――――――――――――――
「試合の中で打席に立つのが一番楽しいです」
そう言うと、大木貴将は目を輝かせながら笑顔を浮かべた。
「駆け引きとかもありますけど、純粋にいいボールを投げるピッチャーから打つのが気持ちいいです。何があっても打席は楽しい。打てなくて、たまに打席に入りたくない時もあるんですけど(笑)。でも、サインが出ていない時は、打席に立っている時が、試合の中で唯一自分で自由に使える時間だと思うんですよ。だから、やっぱり面白いですね」
千葉の強豪・拓大紅陵から日大野球部へ進むが、2年で中退。「どういう形でもいいから野球を続けよう」と独立リーグのトライアウトを受け、2013年から四国IL・香川でプレーした。
元広島の西田真二監督の下、3シーズンを戦い、首位打者と盗塁王に輝いた2015年、千葉ロッテから育成ドラフト1位で指名。プロの1歩を踏み出した。
独立リーグでは、シーズンを通して戦うことの難しさと、毎日同じことを繰り返すルーティンの大切さを学んだという。
「高校とかトーナメントは1試合でどうやって結果を出すか。でも、独立リーグは試合数こと少ないですけど、シーズンを通じて戦います。1シーズンやっていれば、夏場にバテたり、状態が悪い時は必ずやってくる。その波をいかに少なくするかが大事だって教わりました。
それには、状態が落ちた時に何をするかというより、量は多くても少なくても、毎日同じことをしっかりできるか。悪くなった時って変に、ここを変えよう、あそこを変えようってなって、余計に悪くなってしまうこともある。
だから、どんなことがあっても、ある程度同じことをやるようにしています。そうすると、やらなかったらやらなかったで気になって、どんどんルーティンが増えていくんですけど(笑)」
2016年春、初めて参加した春キャンプでは、1軍でプレーする選手がいかにすごいのか、その練習を見て驚かされた。華やかなスポットライトを浴びる活躍は、地道な練習の積み重ねに裏打ちされている。刺激を受けて懸命の努力を重ねた結果、1年も経たずに支配下登録を勝ち取った。
「1プレー1プレーに2軍とは違った緊張感や必死さがある」
内野手として入団したが、1年目から外野守備に力を入れ始め、今季は2軍で主に外野手として出場。「試合に出られれば、守備はどこでもいいです」と、守備位置へのこだわりは一切ない。
それでも、千葉ロッテの外野は激戦区。「ずっと外野をやっていた人よりも失敗の経験が少ない。だから、フライの打球感といった経験則が僕には少ない」と、今でも特守は欠かさない。
「1年目と2年目は、今1軍にいる大塚(明)コーチ、今年は諸積(兼司)コーチに(ノックを)打ってもらってます。練習や試合で経験を積んで、早く覚えるしかないですよね」
不慣れな外野守備でも、すぐに生かせたのが自慢の足だ。「小中高から速かった」という快足は、守備でも攻撃でも生かすことができる。事実、1軍昇格へのカギは「足」が握っていると考えている。
「1軍昇格のきっかけという意味では、代走や守備固めとか足を生かしたところから入っていくのが一番いいんじゃないかと思うんです。せっかく足があるので、それを生かした方がいいかなと。ただ、いざ試合に出してみようとなった時に、やっぱり打てないと残れない。だから、しっかり打てるようにしておきたいんです」
俊足の左打者。足を生かすためにも、大村巌2軍打撃コーチからアドバイスを受けたのは「レフト方向に低く強い打球を打つこと」だった。
「逆方向にライナーを打っても、外野手の手前に落ちるような高さ」を意識しながら、内角球は引きつけ、外角球は球筋に逆らわずに打ち返す練習を重ねた。そして、今季取り組むのは「インコースの球をどうに捌くか」だ。
「インコースを攻めておけば長打はない、とは思わせたくない。だから、インコースもしっかり引っ張って打って『こういうバッティングもできるんだ』と印象づけておきたいんです。インコースをどうに投げづらくするか。それが今の課題ですね」
昨年9月21日に1軍初昇格初出場を果たした。9試合に出場し、2安打1盗塁を記録。今季は開幕1軍の当落線上に残ったが掴みきれず。
4月21日に1軍昇格し、試合に出場したが、翌日には抹消された。通算10試合だが、一度味わった1軍の雰囲気は大きなモチベーションになっている。
「1軍のあの場で試合をすると、ちょっと考え方が変わるというか。行きたい気持ちが本当に強くなりますね。去年は一応ヒットも打った。やっぱり1軍でヒットを打つと気持ちいいんですよ。1プレー1プレーに2軍とは違った緊張感や必死さがあって、そこで野球をできることがすごく幸せだと思いました。だから、早く1軍に行きたい。具体的な目標が見えた感じです」
今年で27歳。「年齢が結構いっているんで、2軍にずっといるようじゃダメ。今年はすごく大事。次に呼ばれた時には絶対に戻ってこないつもりです」と力強く言い切った。チームはクライマックスシリーズ進出をかけた接戦の真っ只中。足で突破口を開き、熱い1軍の戦いに身を投じたい。
記事提供: