指定難病の潰瘍性大腸炎と戦いながら、多くの人に勇気と感動を与えてきた
9月24日、安達了一選手が13年間の現役生活に幕を下ろした。安達選手は2011年のプロ入りから13年間にわたって、オリックス一筋の生え抜き選手として活躍。2016年に指定難病の潰瘍性大腸炎を患ってからも主力として奮闘を続け、多くの人に勇気と感動を与えてきた。
安達選手はキャリアを通じて、卓越した守備力によって難しいプレーをこともなげに完遂してきた。今回は、そんな安達選手が見せた守備の中から、とりわけ印象に残る3つのシーンについて、パーソル パ・リーグTVの映像とともに紹介。ファンに愛された「上州男」が難病と闘いながらプロの舞台で残した足跡と、記憶に残る守備の数々を振り返っていきたい。(成績は9月24日の試合終了時点)
守備の名手として長年にわたってチームを支え、リーグ連覇にも大きく貢献
安達選手がプロの舞台で残した、年度別成績は下記の通り。
安達選手は東芝から2011年のドラフト1位でオリックスに入団。プロ2年目の2013年に131試合に出場して主力に定着すると、翌2014年は自己最多の143試合に出場。8本塁打、打率.259と一定の数字を残し、ともに自己最多の29盗塁、45犠打を記録。走攻守の全てにおいて大いに存在感を発揮し、熾烈な優勝争いを繰り広げるチームをけん引した。
続く2015年には139試合に出場して自己最多の11本塁打を放つ活躍を見せ、ショートのレギュラーの座を確固たるものとしていた。しかし、2016年の開幕前に指定難病である潰瘍性大腸炎と診断を受け、入院と闘病生活を余儀なくされる事態となった。
それでも安達選手は病気と闘いながらプレーを続けることを選択し、2016年は118試合に出場して規定打席に到達。過去最高の打率.273を記録するなど、引き続き正遊撃手として活躍を見せた。その後もコンディションを整えながら活躍を続け、2018年には140試合に出場するなど主力としてチームを支え続けた。
2021年以降は主戦場を遊撃手から二塁手に移したが、新たな持ち場でも引き続き優れた守備力を発揮。2021年には100試合に出場して悲願のリーグ優勝に大きく貢献し、頼れるベテランとして2022年のリーグ連覇と日本一にも寄与した。そして、2024年からは内野守備走塁コーチを兼任し、長い野球人生で培ってきた経験を後進に伝える役割も担っていた。
ここからは、安達選手が持つ非常に高い守備技術を示す、3つのシーンについて紹介していきたい。
1試合で3度にわたって好守を見せる“猛守賞”(2020年7月12日)
安達選手は試合終盤に3度にわたって見事な守備を披露し、遊撃守備の名手として大いに存在感を示した。まずは7回の先頭打者が三遊間の深い位置にゴロを放つと、安達選手は捕球した直後に一塁へ矢のような送球を投じる。やや難しい体勢ながらボールは抜群のコントロールで一塁に届けられ、大事なイニングのトップバッターを打ち取る美技を見せた。
同じ7回には1死無走者の状況から、センター前に抜けようかという当たりを軽やかなフィールディングで好捕。すぐさまボールを右手に持ち替えて鮮やかなスナップスローを投じ、ストライク送球で打者走者をアウトに。連打を浴びて無死1、2塁のピンチに陥ってもおかしくなかった展開を、安達選手の好守が2死無走者へと大きく変化させた。
そして、安達選手は8回2死から再び二遊間の真ん中に飛んだ打球に追いつき、一回転しながら一塁へ送球。まさに流れるような一連の動作によって、またしてもヒット性の打球をアウトにしてみせた。1試合で3度の好守を見せた安達選手の“猛守賞”が、ファインプレーが飛び出すたびに拍手と感謝の意を示した山本由伸投手の完投勝利を呼び込む試合となった。
技術の詰まった神業タッチで、周東佑京選手の盗塁をアウトに(2020年7月17日)
3回表の2死一塁という状況で、一塁走者の周東佑京選手がスタートを切る。投球を受けた捕手の若月健矢選手が矢のような送球を見せ、際どいタイミングで遊撃手の安達選手にボールが渡った。ボールを受けた安達選手は一切の無駄を省いた動きを見せ、周東選手の足がベースに達するよりも、わずかに早いタイミングでタッチに成功する。
あまりにも際どいプレーとなったがゆえに、グラウンド上での判定はセーフとなった。しかし、リクエストの結果、安達選手のタッチのほうが早いと認められ、判定が覆ってアウトに。スローでないと判別が難しいほどの際どいプレーでアウトをもぎ取った、安達選手のとっさの判断力と高いタッチの技術が光るシーンとなった。
最終的にこのシーズンの盗塁王に輝く周東選手、2019年にリーグトップの盗塁阻止率.371を記録した若月選手、そして誰もが認める守備の名手・安達選手。それぞれの分野におけるトップクラスの選手たちが繰り広げたハイレベルな攻防は、まさにプロ野球の技術の粋を尽くした光景と形容できるものだった。
グラブごとボールをトスして、一塁走者をアウトに(2023年10月9日)
2点リードの7回表、2死1、2塁という場面で、安達選手はセンター前に抜けようかという打球をダイビングキャッチで好捕。倒れ込みながらの捕球ということもあり、二塁でアウトを取るのは難しい状況だった。ここで安達選手がグラブトスを試みたところ、グローブは左手から外れてしまい、ボールと共に二塁方向へ飛んでいく事態となった。
そんな状況であっても、安達選手によってボールはしっかりとコントロールされており、送球は無事に二塁へ送られてフォースアウトに。安達選手の機転の利いたプレーによって見事にピンチを脱すると、打線はその裏に2点を追加。オリックスは試合の主導権を完全に握り返し、そのままリードを保って勝利を収めている。
たとえグローブが外れてしまう状態であっても唯一アウトを取れる選択肢であったトスを行い、きっちりとアウトを奪ってみせた安達選手の判断力と高い技術。ヒット性の当たりを止めた見事なダイビングキャッチも含めて、堅実なプレースタイルの中にも印象に残るプレーを多く残した、安達選手ならではの好守だったと言えよう。
安達選手が残した堅実かつ美しい守備の数々は、ファンの記憶に残るものだった
安達選手は9月24日に行われた引退試合でも慣れ親しんだショートで軽快な守備を見せ、現役最後の打席では全力疾走で内野安打を記録した。引退試合で見せた溌剌とした活躍も、13年間のプロ野球人生を全力で駆け抜けた安達選手らしい、見る者の印象に残るものとなった。
難病と戦いながら36歳まで現役を続け、苦しい時期から黄金期に至るまでチームを支え続けた安達選手。プロの舞台で酸いも甘いも噛み分けた名内野手が残した、堅実かつ美しいファインプレーの数々は、グラブを置いた後もなお、多くのファンの記憶と心に残り続けることだろう。
文・望月遼太
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