好調な東北楽天打線をわずか3安打、二塁踏ませぬ好投で今季3度目完封
突然の変貌に驚くしかなかった。福岡ソフトバンクの武田翔太投手のことである。29日、本拠地ヤフオクドームで行われた東北楽天戦。ウイルス性胃腸炎で先発を回避した中田賢一に代わって、代役で上がった先発マウンドで散発3安打の完封勝利をあげた。先発を伝えられたのは前日のこと。当初はウエスタン・リーグ中日戦(タマスタ筑後)で先発する予定が急遽、その日の午前中に回避となり、翌日に1軍で先発することになった。
スクランブルでの先発、さらには不振による登録抹消直後だった。降格時に首脳陣からも“無期限ファーム調整”を言い渡されていたことは伝えられており、正直、大きな期待を抱いていた人は少なかったはず……。それは、「投げる投手がいない」として武田を指名した工藤公康監督とて同じだったろう。試合後の「想像以上です」というコメントが、それを物語っている。ただ蓋を開けてみれば、3安打の完封。好調の楽天打線に二塁すら踏ませぬ圧巻の投球だったから、驚くしかない。
武田に何が起き、わずか10日間で右腕を復調させたのか。
復調の鍵となったのは、右腕の角度だ。「自然体で腕が通る位置を探した。本来の腕の軌道ですね。この前まではスリークォーターくらいだったけど、イメージとしては真上から投げる感じですね」。7月18日の埼玉西武戦(北九州)で2回8安打7失点と大炎上し、無期限でのファーム再調整を課された。この抹消がキッカケになった。「時間があるのでやってみよう」。理想として思い描いたのは、高卒ルーキーで8勝をマークした入団1年目のフォームだ。
元々、幼少期には野球とともにバレーボールもプレーしていた武田。そのフォームは独特で、バレーボールのスパイクに近いものがあった。ただ右肩の故障もあって、腕の位置は肩に負担のかからないように、徐々に低くなっていた。昨季も右肩の故障があった。「1年目にあった角度が消えていたかな、と。ここ5年物足りないのは分かっていた」。
それでも、元の形に戻せなかったのは、故障の再発をどこかで恐れていたからだという。「またやったら、という怖さがあった」。1年目の形に戻さなくとも、納得いく形を探していたが、結果は出なかった。このタイミングで“原点回帰”に踏み切ったのは、やはり己への不甲斐なさ、そして危機感だったろう。不本意ではあったが、登録抹消で、調整する時間も出来た。「思い切って挑戦してみようと思いました」。
復調の鍵は右腕の「角度」とメンタル面にあった
武田の言う「腕の角度」。これによって生まれた効果はどこにあるのか。武田自身が言う。「角度がつくことで、打者のバットとの接点が少なくなるんです」。ボールの軌道に角度がつくことで、バットのスイング軌道と、ボールが通る軌道上での接点を限りなく少なくなる。武田曰く、上から来るボールに対して、その接点から少しでもズレると、ほとんどが内野ゴロになるのだという。
この日、東北楽天打線の27アウトのうち、内野ゴロは15個。許した安打もゴロで野手の間を抜かれたものだった。「だいぶ上から叩けていました」といい、この日はボールがカット気味に変化していたが、「それは気にしていなかった。今日はとにかく目の前で叩くことを心がけていた」と、上から叩くことの1点に意識を集中させていた。
さらには、精神面でも、ある変化があった。「これまではコースを狙って投げていた。変化球で逃げているというのは思っていた。ここで一度、考え方を変えてみようと思った」。そう思うようになったのも、自らの投げるボールに力が無く自信が持てなかったから。「思い切り投げて、ファウルを取ろうと思って投げていた」。フォームを取り戻し、ボールに力が戻ったことで、メンタル面も強気に攻めることができた。
今季は5月5日のオリックス戦で完封勝利を挙げて今季初勝利。続く5月13日の北海道日本ハム戦でも2戦連続で完封勝利をマークした。ところが、そこからは8試合に登板(1試合は中継ぎ登板)して1勝もできずに5連敗を喫した。それだけに武田自身もここからの課題は自覚している。「続かないのが今年なので……。今度こそ続けられるようにしたい」。まずは復調の第一歩。武田にとって大事になるのはこれからだ。
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