【台湾プロ野球だより】新旧侍J監督が門出お祝い、王柏融が牽引する新球団台鋼ホークス

駒田英(パ・リーグ インサイト)

2024.5.1(水) 15:30

4月5日の試合前、ホークスのエンブレムをイメージしたポーズをとる王柏融と北海道日本ハムの栗山英樹CBO 【写真提供:台鋼雄鷹球団】
4月5日の試合前、ホークスのエンブレムをイメージしたポーズをとる王柏融と北海道日本ハムの栗山英樹CBO 【写真提供:台鋼雄鷹球団】

 35年目を迎えた台湾プロ野球、今シーズンの最大の目玉といえるのが、新球団・台鋼ホークスの一軍参入による16年ぶりの6球団制復活だ。海外の新球団誕生と聞いて、縁遠く感じる方は多いかもしれないが、中心打者があの王柏融とスティーブン・モヤと聞けば、ぐっと親しみがわくだろう。今回は開幕特集特別編として、「第6の球団」台鋼ホークスにクローズアップして、ご紹介しよう。

新旧日本代表監督による始球式 【写真提供:台鋼雄鷹球団】
新旧日本代表監督による始球式 【写真提供:台鋼雄鷹球団】

 4月5日、台湾南部、高雄市の澄清湖球場で行われた富邦ガーディアンズとの本拠地開幕戦、台鋼ホークスは、この門出の一戦のスペシャルゲストとして、王柏融の「恩師」、昨年のWBC侍ジャパンの優勝監督で、現在、北海道日本ハムファイターズのCBO(チーフ・ベースボール・オフィサー)を務める栗山英樹氏、そして2022年の球団創設時から、キャンプで客員コーチを要請している侍ジャパンの井端弘和監督を招いた。

 試合前、王柏融と共にメディアの取材を受けた栗山CBOは、日本時代の苦労が、今のコンディション調整に役立っているか、と王柏融に問いかけたのち、「ボーロンは本当に力があるのに、日本でなかなか活躍をさせてあげられなかった。このことについて、本当に申し訳ないっていう気持ちがある」と神妙な表情を浮かべ、「今年、こういう形で戻ってきて、すごい成績を残してほしいと祈っていますし、ああいうスタート(前日に本塁打)を切ってもらえて嬉しいです」と感慨深げに語った。

 実は栗山CBOは、前日の4日、台北ドームで行われたビジターゲームの試合前にも王柏融のもとを訪れ、ハグをして激励をしていた。そして生まれた、記念すべきチーム1号HR。王柏融が「栗山監督が幸運をもたらしてくれた」と感謝すると、栗山CBOは、逆に頭を下げ「本当にありがとうございます。もちろん今日も、この後ハグします。今日は2本打ってくれるでしょう」とおどけ、報道陣を笑わせた。

 始球式には侍ジャパンの新旧監督が参加、王柏融からバットを手渡された栗山CBOが、陳其邁・高雄市長の山なりのボールを空振りし、ワンバウンドで捕手役の井端監督のミットに収まると、澄清湖球場では史上5番目の入りとなった1万6322人のファンが喝采を送った。

 本拠地開幕の先発は元中日、横浜DeNAの左腕、笠原祥太郎だった。「任せたもらったからには、何が何でも勝ってやろうと思っていた」という笠原は、ランナーは出しながらも要所を締め6回無失点。打っては、「魔鷹」こと、4番のスティーブン・モヤが、1回裏に2ラン、3回裏にもソロと2打席連続本塁打と中日時代の同僚、笠原をしっかり援護すると、3番の王柏融はこの日、一発こそなかったが、3回裏にセンター前へタイムリーヒット、中軸としての仕事をこなし、ホークスが4対0で勝利した。お立ち台に選ばれたモヤは、お気に入りだという漫画『NARUTO』の印結びのポーズをいくつか披露しファンを沸かせた。最後まで試合を見届けた栗山CBOと井端監督も、ホークスの本拠地初陣勝利をお祝いした。

本拠地開幕戦で2HRを放ちMVPのモヤ。印結びのポーズでホームイン 【写真提供:台鋼雄鷹球団】
本拠地開幕戦で2HRを放ちMVPのモヤ。印結びのポーズでホームイン 【写真提供:台鋼雄鷹球団】

 元NPB勢の活躍もあり、侍ジャパンの新旧監督の前で本拠地初戦をものにした台鋼ホークスだが、台湾球界においては「日式」といわれるチームだ。

 劉東洋GMは日本留学経験ももち、CPBL職員時代に、日本球界各方面とのパイプを築いた台湾球界きっての「日本通」だ。また、元台湾代表の名捕手で、台湾プロ野球最多の991勝(開幕前)を積み上げてきた名将、洪一中監督も、現役時代に複数の日本人指導者の元でプレー、日本野球を高く評価する指導者だ。

 こうしたなか、日本人指導者も、一軍に横田久則・投手統括コーチ、里隆文・トレーニングディレクターコーチ、二軍に福永春吾・投手コーチ補佐と、チームに3人在籍しているほか、井端弘和氏や吉見一起氏も客員コーチをつとめてきた。

 選手では、笠原祥太郎については、NPB合同トライアウト前からマークし、即獲得交渉を行ったほか、日本の独立リーガーのトップ選手に注目、昨年、チーム初の外国人選手となった元阪神、徳島の福永春吾は怪我により指導者に転向したが、元BCリーグ埼玉武蔵のエース、小野寺賢人には、アジアウインターリーグの「テスト外国人」の一人としてオファー、小野寺は優勝に貢献する活躍をみせ、本契約を勝ち取った。

 元NPBの選手も多い。台湾人では王柏融の他、元横浜の王溢正、さらにドラフト会議までの練習生契約ながら元埼玉西武の張奕も二軍でプレーしている。外国人選手ではモヤや笠原のほか、二軍では、元広島のブレイディン・ヘーゲンズが支配下登録を目指している。一軍打撃コーチをつとめるのは、元読売のルイス・デロスサントス氏だ。

4月20日の中信兄弟戦で8回途中までノーヒットと好投、プロ初勝利をあげた陳柏清 【写真提供:台鋼雄鷹球団】
4月20日の中信兄弟戦で8回途中までノーヒットと好投、プロ初勝利をあげた陳柏清 【写真提供:台鋼雄鷹球団】

 開幕からおよそ3週間、ここまでの戦いぶりと、主な選手をご紹介しよう。開幕6試合は4勝2敗と好調だったものの、その後は7連敗もあり、4月22日時点で成績は5勝10敗。首位統一から7.5ゲーム差、4位タイの富邦、楽天とは0.5ゲーム差で、最下位(6位)となっている。

 チーム打率.245、41打点、守備率.964はリーグ最下位だが、防御率4.05はリーグ3位だ。個人成績に目を向けると、打者ではモヤが、リーグ3位の打率.346、4本塁打(同2位タイ)、11打点(同3位)、OPSはリーグトップの1.049とチームを牽引、キャプテン王柏融も.296、2本塁打、7打点、OPSはリーグ4位の.878と、しっかり仕事をしている。

 生え抜きでは、2022年ドラフト会議の1巡目1位、井端監督から直接指導も受けた20歳の曾子祐が主に一番を打ち、打率はリーグ10位の.310、出塁率も同8位の.385をマーク、ショートの守備では既に4エラーを記録も、期待のプリンスは一軍初年度でここまで十分に働いている。

 投手では、統一からトレード加入した江承諺がここまで1勝ながら、先発全3試合でクオリティスタートをみせ、防御率1.00。昨年4試合登板に終わった28歳の左腕は18イニング1四球と課題だった制球を大幅に改善させ、先発の軸となっている。また、昨秋のアジアプロ野球チャンピオンシップで、チームから唯一選出された生え抜き左腕、25歳の陳柏清は4月20日の中信兄弟戦で8回二死までノーヒットの好投をみせ、プロ初勝利をあげた。笠原祥太郎もここまで3試合、1勝1敗、防御率3.18。最低5回は投げ、大崩れはせずに試合をつくっている。

 選手層が薄く、得点力も高くないなか、先発投手が好投し、経験あるリリーフ陣が僅差を守って逃げ切るのが勝ちパターン。しかし、その想定が狂うと、大型連敗する脆さをはらんでいる。

 横田コーチは「戦うならば目指すのは優勝。プレーオフ圏内の3位になればいい、という考え方はない」と強調しつつ、「新チームが簡単には勝てないのも現実。一試合一試合しっかり戦うことで、後期シーズンに向けた力を備えていく」と、前を向いている。

 新参入チームでは、2021年に「第5の球団」味全ドラゴンズが、年間勝率こそ.427で最下位に終わったものの、後期は.475で3位に食い込んでおり、台鋼にとっては一つの目標となりそうだ。

 ホークスの選手のなかには、アマチュアのエリート街道を歩んできた選手もいるが、新人ドラフト、拡張ドラフト、他球団からの移籍選手、さらには外国人選手も含めて、山あり谷ありのキャリアを歩んできた選手が少なくない。指名漏れからまずはトレーナーとして入団、その後、練習生に転じ、そこから支配下選手に這い上がり、開幕スタメンにも名を連ねた葉保弟は、象徴的な選手の一人だ。応援しがいのあるチームであることは、間違いない。

4月5日の開幕戦、澄清湖球場では同球場史上5番目となる1万6322人のファンがつめかけた 【写真提供:台鋼雄鷹球団】
4月5日の開幕戦、澄清湖球場では同球場史上5番目となる1万6322人のファンがつめかけた 【写真提供:台鋼雄鷹球団】

 本拠地、澄清湖球場は、昨年7月から今年3月にかけ、高雄市により第一期改修工事が実施された。選手会から改善を求められていた内外野の赤土、天然芝は、最高のコンディションに仕上がったほか、ダグアウト、ウエイトルームもリニューアルされた。

 エントランスサインが一新され、スタイリッシュなイメージとなったスタジアム。スタンドでは応援ステージの改修のほか、内野席の一部(8000席)、防球ネットが更新、トイレ、コンコースの改修もなされ、観戦環境が大幅に向上した。

 ただ、球場を直接運営する他球団とは異なり、現時点では地元自治体、高雄市政府の管理であることから、まだまだ課題点はある。ただ、澄清湖球場がプロ野球チームの本拠地となるのは8年ぶり、南部のスポーツを活性化させたいと考える台鋼グループは、高雄市と提携し、ライトレールにラッピング車両を走らせたり、劉GM、洪監督はじめ、コーチや選手たちが「辻立ち」をして市民にPR、そうした効果もあり、本拠地開幕の三連戦には3万6183人、4月19日からの三連戦でも2万6410人のファンを集めた。今年のオフには、スコアボードのビジョンや、内野二階席の更新など、第二期の改修工事が行われる予定となっている。市の全面バックアップを期待したいところだ。

 なお、グッズは試合開催時、スタジアム内のショップで購入できるが、ゆっくり選びたい方は、送迎バス乗車前に、球団事務所一階のショップ「鷹House」(高雄市三民區九如一路67號 定休日は日、月)に立ち寄るのがおすすめだ。

 チアリーダー「Wing Stars」にも注目だ。現在の台湾のチア応援スタイルの元祖といえる韓国で、各プロスポーツのトップチアとして活躍してきたアン・ジヒョンと、「Mingo」ことパク・ミンソの2人が、台湾人メンバー12人とマレーシア出身のメンバー1人をリード、メンバーたちはステージだけでなく、試合後には出待ちのファンにサインをしてPRしている。台湾人メンバーの「一粒(イーリー)」はチャルメラを使った葉保弟のユニークな曲調の応援動画から、その美貌が注目され、一躍、時の人となっている。

 日本市場を重視する台鋼ホークスでは、公式X(旧ツイッター)でも日本語で情報を発信している。各国の野球のトップリーグで、ゼロから立ち上がった球団の成長ストーリーを見られる機会は稀だ。日本とゆかりのある指導者、選手が多く、今後日本球界との交流も期待される台鋼ホークスに注目してみよう。

葉保弟の応援歌のダンスで注目を集め、一躍時の人となった「Wing Stars」の「一粒(イーリー)」 【写真提供:台鋼雄鷹球団】
葉保弟の応援歌のダンスで注目を集め、一躍時の人となった「Wing Stars」の「一粒(イーリー)」 【写真提供:台鋼雄鷹球団】

文・駒田 英(情報は4月22日現在のもの)

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駒田英(パ・リーグ インサイト)

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