千葉ロッテのマイク・ボルシンガー投手の快進撃が止まらない。
5月4日から続く連勝記録はついに10連勝まで達し、交流戦でも3戦3勝。ここまで登板した13試合全てで5回以上を投げて3失点以内に抑え、計8球団から白星を挙げるなど、相手を問わずに先発の役目を果たし続けている。
球速は最速でも140キロ台中盤で、圧倒的な決め球があるわけではない。しかし、残している結果はまさに圧倒的だ。来日1年目のボルシンガー投手は、なぜこれほどまで連勝を伸ばすことができているのか。今回はいくつかのテーマに分けてボルシンガー投手の投球を分析し、その好成績の要因について探っていきたい。
①動く速球と効果的な変化球
ボルシンガー投手の直球は、カットボールのような軌道を描く独特の球筋で、バットの芯を外して凡打に打ち取るために適したボールとなっている。その速球と10キロ以上の球速差があり、縦に大きな変化を見せるナックルカーブ、同様の球速で縦と横に変化するスライダーを加えた3球種が投球の大部分を占める。
2種類の変化球は空振りを奪えるだけの変化量があり、打たせて取る投球が持ち味ながら83.1回で65奪三振を記録するなど、状況に応じて打者に「振らせる」投球術も使っている。相手打線の反応を見ながら配球を変えていくクレバーさもあり、対戦する打者にとっては様々な意味で的を絞りづらい投手であることは間違いないだろう。
②打たせて取る投球スタイルと、内野の守備力向上の相乗効果
ボルシンガー投手は、メジャーリーグ時代から典型的なゴロピッチャーと評価されてきた。右腕にとって追い風だったのは、井口新監督が施したコンバートによって、千葉ロッテ内野陣全体の守備力が昨季に比べて大きく向上していたことだ。
中村奨吾選手は昨季の開幕を正遊撃手候補として迎え、シーズン終盤は三塁手を主戦場としていたが、いずれのポジションでも不安定と言わざるを得なかった。しかし、今季からは二塁手に回ったことで、持ち前の広い守備範囲を存分に発揮できるようになり、幾度となく好守を見せて投手陣を救っている。
昨季は二塁手としてゴールデングラブを受賞しながら、スローイングの安定性を買われて三塁に移った鈴木大地選手も、新たな持ち場で奮闘を見せている。指揮官の期待通りホットコーナーで安定した守備を披露しており、こちらも守備力向上に一役買っている。
さらに遊撃手にも、新人の藤岡裕大選手が定着し、及第点以上のフィールディングを披露。チーム全体の守備面の安定感が高まっていることは数字にも表れており、昨季は143試合で89個だった失策数は、今季は82試合を終えたところで41個。堅い守備がボルシンガー投手の好成績にもつながっている。
③女房役の田村捕手との好相性
来日初完封をマークした6月16日の試合後、ボルシンガー投手はお立ち台でバッテリーを組む田村龍弘捕手のことを、「今までに組んだことのない、素晴らしいキャッチャー。もう自分の中ではナンバー1ですので、彼の力なくして自分の成績がここまで上がらなかったというのを確信しています」と絶賛していた。
ボルシンガー投手はドジャース時代、巧みなリードを武器にクレイトン・カーショー投手との名コンビで知られたA.J.エリス選手や、球界トップクラスのフレーミング技術を持つヤズマニ・グランダル選手とバッテリーを組んでいる。
また、ブルージェイズではリードとフレーミングの双方で高い評価を受けており、ゴールドグラブ受賞経験もあるラッセル・マーティン選手とも組んだ。世界最高峰の舞台で輝く名手たちを差し置いて田村選手を「ナンバー1」と称える理由は、おそらく洞察力とバッテリー間の呼吸の良さにあるのではないだろうか。
同日のお立ち台では「田村捕手に相手打者の傾向とか対策とか、いろいろ聞いて。彼がいなかったらこれまで自分のピッチングができないな、というぐらいに本当に信頼していますし、彼が居てこその自分だと思っていますので。本当に感謝の気持ちでいっぱいです」とも話していた。
この言葉を聞く限り、先述した相手の反応を見て巧みに配球を変えていく手法も、田村選手とのコミュニケーションあってのものである可能性も高そうだ。
来日1年目の外国人右腕にとって、伊東勤前監督から英才教育を受けてきた田村選手の経験と、試合全体を読む力は頼もしいものとなっているようだ。
④3ボールから四球を出さずに踏ん張る修正能力
9イニングを投げてどれだけ四球を与えたかを示す指標であるBB/9を見てみると、今季のボルシンガー投手は3.03と、平均値である3.00とほぼ同値。ちなみに同じく9イニングでの奪三振を示すK/9は7.02と、こちらも平均の7.00とほぼ同じ。いずれも突出こそしていないが、同時に目立った欠点が存在しないこともうかがえる。
6月10日の阪神戦や7月7日の北海道日本ハム戦のように、制球を乱して3ボールにするケースを多く作る試合もあるが、与四球の数は阪神戦が7回を投げて3、北海道日本ハム戦が5回2/3を投げて1。調子が悪くとも自滅せずに打者との勝負に持っていけるところが、大崩れせずに試合を作り続けられる要因のひとつではあるだろう。
⑤本拠地との相性の良さ
ZOZOマリンスタジアムは海風の影響で本塁打が出にくい球場として知られ、その強風はしばしば投球にも影響を与える。その対応に苦慮する投手も少なくない中で、ボルシンガー投手は来日初年度から瞬く間に適応し、海風を完全に自らの味方につけている。
これまで本拠地で登板した6試合全てで勝利し、40回1/3で失点はわずかに8、防御率1.79という抜群の相性を見せており、前半戦が終わった今なおホームでは「全勝」と「無敗」を継続中だ。7試合5勝1敗、防御率2.51というビジターでの成績も素晴らしいものだが、ホームゲームでの支配的な投球内容は特筆すべきだ。
……以上のように、対応が難しい持ち球を巧みに操り、凡打の山を築くボルシンガー投手自身の確かな実力に加え、相性の良い田村捕手や本拠地球場の存在も含め、千葉ロッテという球団自体がボルシンガー投手に合っていた面も少なからずありそうだ。
ボルシンガー投手以外にも、オリックスのアンドリュー・アルバース投手や北海道日本ハムのニック・マルティネス投手のように、今季のパ・リーグではMLBでも実績のある投手が日本球界にすぐさま適応し、期待通りの好成績を収めるケースが多い。
現在ハーラーダービーのトップに立ち、勝率は驚異の.917という数字を誇るボルシンガー投手は並み居るライバルたちとのデッドヒートを制し、来日1年目で見事タイトルを獲得できるか。
月間MVPの受賞会見で、「前半戦はしっかりとした投球ができましたので、後半戦はその調子を崩さず良いピッチングをしていきたいと思います」と語った頼れる外国人右腕が、残るシーズンでどのようなピッチングを披露してくれるか注目だ。
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