「フレッシュオールスターゲーム2018」の舞台が誘ったノスタルジー。潜在能力をアピールした若武者たちは今秋に世界へと羽ばたくか
パ・リーグ インサイト 藤原彬
2018.7.15(日) 18:00
新幹線で北上すること4時間あまり。プロ野球「フレッシュオールスターゲーム2018」の開催地となった青森は、東京よりも平均して5度ほど気温が低い。加えて曇り空とあって、当日の現地は不快に感じる天候ではなかった。ご当地選手にして、この日のイースタン先発を務めた種市篤暉投手(千葉ロッテ)が生まれ育った故郷について問われると、開口一番に「涼しい」とコメントしている。出場選手も練習中から身体を動かしやすそうで、若手主体の両チームは初々しさを残しながらもリラックスした様子だった。試合開始時刻の18時が近付くにつれて暑さは和らいだが、球場周辺とスタンドは対照的に人の気配と喧騒が膨れ上がっていく。未来のスターたちが一堂に会したはるか夢球場が、お祭りに特有の高揚感に包まれた。
夏本番、地方球場で開催されるフレッシュオールスターに期待する要素といえば「ノスタルジー」だったが、舞台となったスタジアムの佇まいは、なかなか近代的だった。それもそのはず、2015年から東北楽天が昨年の一軍公式戦開催を目指して改修を進めていたからだ。以前まで6700人だった市営球場の観客収容人数は、現在は14800人に増えた。球場正面から入るエントランスは2階まで吹き抜けになっており、3階は観客席まで通じている。その上には増設されたメインスタンドが乗っかかる形でかぶさり、弘前城と岩木山が合体したような外観だ。コンコースと増設されたメインスタンドはクリムゾンレッドに塗られていて、東北楽天の本拠地を思わせる造りと雰囲気だった。
今月上旬にも東北楽天が主催試合を行うなどプロ野球仕様に変貌したスタジアムだが、会場は1979年だ。齢39年とあって、場内を一周すると、そこかしこに郷愁の残り香が漂っていた。外野席は芝生で後方がジョギングコースとなっており、子供が走り回って、キャッチボールに興じている。外周の飲食店からは、飯テロとばかりに煙が観客席まで流れていた。いずれも、屋内ドーム球場が増えた現在のプロ野球では、なかなか見られなくなった光景だ。夜空と隣り合わせにある屋外球場の環境が照明のまぶしさを助長させ、外周にはグラウンド上の熱気を導くように光が漏れていた。タイムスリップした気分に襲われる。「光の球場」は、今は無き東京スタジアムの愛称だ。訪れたことはないが、オールドファンが見ていた景色を共有できた思いがした。
この日の主役はイースタンの清宮幸太郎選手(北海道日本ハム)だ。試合前に行われたサイン会から、ファンの列はなかなか途切れず、最後の1人になっても対応を続ける。報道関係者からのリクエストも多そうで、練習時も忙しない。ひとたびバットを持てば大型ルーキーならではの存在感をたっぷりと醸し出したが、ベンチに戻ると厚みのある身体をすぼめるようにして引き上げていく。周囲からの群を抜く注目度の高さは、スター候補生の宿命でもある。試合が始まり、名前がアナウンスされると、場内にいる誰もが背番号「21」のバッターボックスを追った。客席から一斉にスマートフォンとタブレットが掲げられ、「清宮だよー」「お前観るために来たんだー」と声が飛ぶ。球場入口は駆け足のファンで慌ただしくなり、売り子も足を止めて打席の行方を見守った。第2打席のアーチで、優秀選手賞とともにスポーツニュースの話題と新聞の一面までかっさらった活躍は既に報道されているとおり。
試合はウエスタンが24アウトのうち13個を三振で奪うなど、3対1で勝利を収めた。若い選手が一つひとつのプレーにみなぎらせた活力と笑顔が印象的で、両軍とも出場選手が次々とポテンシャルの高さを魅せつけている。視察に訪れていた野球日本代表・稲葉篤紀監督(トップチームとU-23代表を兼任)の「若さを前面に出して、のびのびやってくれたらいいのかなと思います」との思いにも応えられたのではないだろうか。今回のメンバーから、将来の日本代表入りはもちろん、U-23ワールドカップなどへの“飛び級”も考えられなくはない。笑顔を真顔に変えて、世界を舞台に戦う姿にも期待したくなる一戦だった。
記事提供: