実質的な「1対3プラス1」のトレードには、王柏融のCPBLにおける「契約所有権」譲渡も
8月10日、台湾の野球ファンにとって衝撃的なニュースが飛んできた。昨年、第6の球団としてCPBLに参入し、今季は二軍公式戦で戦う台鋼ホークスと、楽天モンキーズの間で成立した、実質的には「1対3プラス1」といえる、CPBL史上最大級のトレード成立である。
10日朝、大手紙がスクープを掲載、ファンが騒然とする中、両チームは正式にリリースを発表した。台鋼からは、7月のドラフト会議で全体1位で指名したばかりの元メジャーリーガー、内外野をこなすWBC代表の林子偉(29)が楽天へ、楽天からは、かつて横浜DeNAでもプレー、CPBL現役4位、通算75勝のベテラン左腕、王溢正(37)、2020年に9勝、怪我からの完全復活を目指す若手右腕の翁瑋均(24)、そして、ハッスルプレーが持ち味、2017年の侍ジャパンシリーズでは岩貞祐太(阪神)から3ランを放った外野手の藍寅倫(33)の3選手が、台鋼へ移籍することとなった。
さらには、昨季は打率.063と低迷し15試合出場にとどまり、今季は育成契約スタートも、登録期限間際の7月30日に支配下切符をつかみ、8月15日の一軍昇格以降、3度お立ち台に立つなど、ここまで活躍をみせている北海道日本ハムファイターズの王柏融の、CPBLにおける「契約所有権」を、楽天から台鋼へ譲渡することについて、両球団が合意したことも発表された。
当然のことながら、王は現在、北海道日本ハムの所属選手である。今回、CPBL楽天と台鋼が合意した「契約所有権」の譲渡とは、あくまでも台湾プロ野球においての話。つまり、王が将来的にCPBLに復帰した際の話ではあるが、両チームのトレード交渉に、現在日本でプレーしている王の契約権が組み込まれたことは、異例なケースといえるだろう。
楽天の前身、ラミゴ・モンキーズ時代の2016年、2017年、2年連続打率4割をマークするなど、CPBLを代表する打者であった王は、2018年のオフ、海外FAを取得。実質的なポスティング制度を利用し北海道日本ハムと契約した。台湾プロ野球には、ポスティング選手がCPBLに復帰する場合、元の所属球団と契約しなければならないというルールがある。そのため、2019年オフにラミゴを引き継いだ楽天が、王の「契約所有権」を保有している。
ただ、台湾プロ野球の規定により、「契約所有権」をトレードの対象とすることはできないため、今回のトレードは「台鋼・林子偉」対「楽天の3選手」、そして、これとは別に、両球団が王の「契約所有権」譲渡について、協議の末、合意したかたちとなった。また、将来的に王がCPBLに復帰した際は、手続き上はまず楽天に「復帰」、つまり正式に契約して選手登録を済ませた後、再度、台鋼にトレードされる流れとなるという。
CPBLは、トレードが活発ではない。しかし、ドラフトで「いの一番」の指名権をもつ台鋼が今季は二軍で戦い、来季から一軍に参入するのに対して、他の5球団はまさに現在、プレーオフ、台湾シリーズ進出を目指し、一軍後期シーズンを戦っており、即戦力の林子偉には、ドラフト前からトレードの噂はあった。ただし、実際に、ドラフト会議の1巡目1位指名選手の即移籍が実現し、さらには、将来のこととはいえ、実質的な「交換相手」に王が含まれていたことで、多くのファンに衝撃を与えたのである。
移籍の林子偉はCPBL3試合目、初打点、初HR含む3安打4打点で「お立ち台」の大活躍
8月14日、台鋼は林子偉を選手登録、球団首脳や洪一中監督立ち会いのもと記者会見を行い、楽天での健闘を祈った。実際にそのユニフォームを身につけることはなかったが、リーグ公示によると、背番号はボストン・レッドソックスやWBCでつけた「5」であった。
そして、トレードの正式な成立日となった翌15日、王溢正、翁瑋均、藍寅倫の3選手は、まず午前、台鋼の遠征先、南部・嘉義市球場で、ラミゴ時代の恩師でもある台鋼の洪一中監督ら首脳陣、そしてナインに挨拶した。台鋼は一部選手の背番号を変更、3選手に楽天時代と同じ背番号を与えるとともに、来季から「9」を空き番号とすることを発表した。ちなみに「9」は王柏融がラミゴ時代につけていた背番号で、「半永久欠番」という扱いとなっていた。親会社が楽天に変わってからも、欠番のままである。
その後、元楽天の3選手は、同日夜、楽天桃園球場の試合で始球式をつとめ、セレモニーでは涙ながらに感謝の言葉を述べた。
16日には、楽天が林子偉の入団記者会見を行い、2年と4.5ヶ月、総額台湾元3100万元(日本円約1億4260万円)の契約を発表、背番号は高校の後輩の主力、梁家榮がつけている「5」は求めず、米マイナー2A時代に初めてつけ、昨季、今季と独立リーグでもつけた「25」を選んだ。
地元高雄の新球団、台鋼にドラフト1位で指名されながら、指名から1カ月弱でトレード移籍となったことについて、ボストン・レッドソックスをはじめ、アメリカで10年以上プレーしてきた林は、「トレードは日常茶飯事だったので驚きはない。今回はたまたま自分が当事者になっただけだ。トレードは各球団にとってプラスになるかもしれない」と笑顔をみせ、両球団の高い評価に感謝した。
林は8月19日、ホームの統一ライオンズ戦で、6番ショートでCPBLデビュー、1回表、いきなり最初の守備機会でボテボテのゴロを弾くと、エラーが記録されて苦笑いをみせたが、打っては4打数2安打と活躍した。その後、新型コロナに罹り休養したが、復帰戦、CPBL3試合目の出場となった8月28日の富邦ガーディアンズ戦では、4回にCPBL初打点となるタイムリー、6回に初HRとなるソロ、8回にも2点タイムリーを放つなど、猛打賞3安打4打点の大活躍、MVP(日本のお立ち台に相当)に選ばれ、チアリーダーのRakutenGirlsにリードされながら、受賞者恒例のダンスを照れながら披露した。
気になるのは、この大型トレードの背景、真相だ。次回は、この8月下旬に北海道日本ハムファイターズと王柏融を訪ね、今回の「契約所有権」譲渡に関する説明を行ってきたという台鋼ホークス・劉東洋GMのインタビューをお送りしよう。
文:駒田 英
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