投手コーチとしてWBC優勝に貢献した吉井理人監督が、指揮官としても手腕を発揮
今季の千葉ロッテは開幕前の前評判こそ決して高くはなかったが、8月22日の試合終了時点で9個の貯金を作って2位に位置している。上位争いを繰り広げている要因の一つとして挙げられるのが、今年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表の投手コーチを務めた、吉井理人新監督のもとで整備された投手陣の奮闘だろう。
今回は、今季の千葉ロッテにおける先発投手に焦点を当て、各投手の活躍ぶりを紹介。それに加えて、セイバーメトリクスで用いられる指標を用いながら、今季の千葉ロッテ先発陣についてより深く掘り下げていきたい。
開幕からローテーションを守ってきた投手たちは、いずれも安定感を見せている
今季の千葉ロッテで2試合以上に先発登板した投手たちの、投手成績は下記の通り。
佐々木朗希投手は13試合で7勝を挙げて防御率1.48、奪三振率13.76と、文字通り圧倒的なピッチングを披露していた。高確率で勝ちを計算できる投手の存在は、チームにとっても非常に大きなものとなっていた。だが、7月24日の試合で左わき腹の肉離れを発症し、現在は長期離脱を余儀なくされている。
種市篤暉投手は2020年に右ひじを痛めて1シーズン半を棒に振り、復帰を果たした2022年も一軍登板は1試合のみ。しかし、今季は開幕ローテーション入りを果たすとそのまま好投を続け、自身初の2桁勝利を達成。奪三振数はリーグ1位タイ、勝利数はリーグ2位とタイトル争いにも加わっており、一気にエース格へと成長を遂げつつある。
西野勇士投手は2022年にリリーフとして37試合に登板して15ホールドを挙げ、防御率1.73と復活の足がかりをつくった。そして、先発に再転向した今季も安定感のある投球を続け、13試合の登板で8勝を記録。起用法としては中10日以上の間隔を空けての登板が続いているが、登板した試合では質の高い投球を見せてチームを支えている。
小島和哉投手は2022年に防御率3.14ながら3勝11敗と大きく負け越したが、今季は交流戦前の時点で5勝1敗、防御率1.88とすばらしい投球を披露。6月は月間防御率8.50、7月は月間防御率5.66と大きく調子を崩したが、8月は3試合で防御率2.25と復調傾向にある。先発陣に離脱者が相次ぐなかで、ローテーションを守り続けている点も頼もしいところだ。
新加入のメルセデス投手も開幕から先発陣の一角を務め、18試合で防御率2.95と試合を作り続けている。今季はデータに基づいて比較的早いイニングでマウンドを降りる試合が多いこともあり、勝ち星はやや伸び悩んでいる。それでも、チームに不足していた左の先発として安定した活躍を見せており、新天地でも大いに持ち味を発揮しているといえよう。
昨季は防御率2点台で10勝。美馬学投手の復調が待たれる
美馬学投手は2022年に10勝・防御率2.91と好成績を残したこともあり、今季も先発陣の軸としての働きが期待されていた。だが、今季は12試合で1勝7敗、防御率5.34と、安定感を欠く投球が目立っている。ただ、昨季も後半戦に入ってから大きく調子を上げて10勝に到達した経緯を持つだけに、残るシーズンでの復調が期待されるところだ。
新外国人のカスティーヨ投手はシーズン途中にリリーフから先発に転向し、一軍で2勝をマーク。だが、先発した6試合のうち3試合で3回が終了した時点で降板しており、不安定な面は否めない。育成出身の森遼大朗投手も4月19日の試合でプロ初勝利を挙げたが、その後は安定感を欠く投球が続き、先発ローテーションへの定着は果たせていない。
今季は佐々木朗投手の離脱に加え、シーズン前は開幕投手に指名されていた石川歩投手と、背番号「18」を背負う二木康太投手の2名も、故障の影響でいまだに一軍登板がない状態だ。主力投手の離脱が重なりながら、先発陣が大崩れしていない点は特筆ものだ。
先発陣の主力を務める投手たちは、いずれも高確率で試合をつくっているが……
次に、今季の千葉ロッテで2試合以上に先発登板した投手たちが記録している、各種の投球指標を見ていきたい。
種市投手、西野投手、佐々木朗投手、小島投手の4名が、いずれも60%を超えるQS(クオリティ・スタート)率を記録。メルセデス投手のQS率も56.3%とそれに次ぐ数字であり、先発陣の主力を務める投手たちは、一定以上の確率で試合を作り続けていることがわかる。
一方、それ以外の投手のQS率に目を向けると、美馬投手が25%、カスティーヨ投手は33%。そして、森投手は一軍でのQSを一度も記録できていない。13試合中11試合でQSを達成していた佐々木朗投手の離脱も重なり、先発投手の駒不足が顕在化しつつある。
さらに、WHIPに関しても種市投手、西野投手、佐々木朗投手、メルセデス投手の4名が、1.10台以下と優秀な水準に到達。その一方で、美馬投手、カスティーヨ投手、森投手のWHIPはいずれも1.40台以上で、カスティーヨ投手と森投手は被打率も.300以上と、走者を背負っての投球が多いことがうかがえる。
また、故障歴のある種市投手と西野投手、中6日でローテーションを回るのは今季が初めてとなる佐々木朗投手、巨人時代は夏場以降に調子を崩すことが多かったメルセデス投手の4名は、登板間隔を空けるための登録抹消を何度か挟みながら、コンディションに配慮した起用が続いていた。
そうした事情もあり、徐々に先発の頭数が足りなくなりつつあるなかで、石川投手と二木投手がともに二軍で実戦復帰を果たしているのは吉報だ。いずれも開幕投手を務めた経験を持ち、先発投手としての実績も十分な両投手が復活を果たせば、チームにとっても大きなプラスとなることだろう。
打たせて取る投手が多いなかで、奪三振率の高い2名の若手が異彩を放つ
また、奪三振率が10.00を超えている佐々木朗投手と種市投手を除く6名の投手は、いずれも奪三振率が7点台以下と高くはない。その一方で、小島投手を除く7名はいずれも与四球率が2点台以下と良い水準にある。
これらの数字からも、極力四球を出さずに打者と勝負し、打たせて取る投球を展開するタイプの投手が多い編成になっていることがわかる。ただし、先発投手としては奪三振率が非常に高い佐々木朗投手と種市投手はそのなかでも異彩を放っており、ローテーションに緩急をつけるという側面でも両投手の存在価値は大きくなっている。
名伯楽の思い切ったマネジメントのもと、近い将来に投手王国を形成できるか
疲労や故障歴を考慮し、状況に応じて登板間隔を空ける首脳陣の思い切ったマネジメントもあり、先発陣は一定以上の安定感を維持してきた。不振に陥っていた小島投手が8月に入ってからは復調を見せている点も明るい材料だ。
その一方で、いわゆる先発の谷間を担う投手がやや安定感を欠いていることもあり、主力投手の登板間隔を空けることに少なからずリスクが伴うという課題も見えている。そのため、実績のある投手の復活や新たな投手の台頭によって、頼れる先発投手の頭数が増えるか否かが、シーズン終盤の戦いに大きく影響してきそうだ。
WBC日本代表に続いて、千葉ロッテでも優れたマネジメントの手腕を発揮している吉井監督。監督就任1年目からチームを躍進させている名伯楽が、近い将来に投手王国を築き上げるか。その第一歩となりうる2023年の戦いぶりには、今後も要注目となりそうだ。
(成績は8月22日終了時点)
文・望月遼太
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