山崎颯一郎はどこまで進化するか。最速160km/h右腕を支える変化球の進化

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春季キャンプで野茂英雄氏からフォークを教わる山崎颯一郎投手(C)PLM
春季キャンプで野茂英雄氏からフォークを教わる山崎颯一郎投手(C)PLM

 昨季9月からリリーフに転向し、ブルペンを支える活躍を見せたオリックス・山崎颯一郎投手。ポストシーズンでは4ホールドを挙げ、球団26年ぶりの日本一に貢献した。迎えた今季は開幕から勝ちパターンの一翼として防御率1点台をマークするなど、ここまで目覚ましい進化を遂げている。本稿では、山崎颯投手が堂々たる成績を残せるようになった要因を探っていきたい。

奪三振能力が大幅に向上

山崎颯一郎 投手成績(C)PLM
山崎颯一郎 投手成績(C)PLM

 昨季との比較で明確な違いが表れているのが奪三振率だ。昨季まではリーグ平均レベルの数値だったが、今季は11.34と大幅に向上している。いうまでもなく、奪三振は打球の行方や味方の守備力に影響されることなく1つのアウトを確実に取れるということだ。

 僅差の場面でマウンドに上がる勝ちパターンの投手にとって、奪三振の数は安定した成績に直結する。ここまで40試合に登板していまだに無敗であることも、奪三振能力の向上によるところが大きいだろう。では、奪三振が増えた理由はいったい何なのか。

2022年に比べ、決め球の割合が変化

山崎颯一郎 奪三振内訳(C)PLM
山崎颯一郎 奪三振内訳(C)PLM

 そこで、三振を奪った球種の割合を見てみる。最速160キロの剛速球が代名詞の山崎颯投手だけあって、昨季は約7割がストレートで奪ったものだった。ところが、今季はそのストレートの割合が5割を切り、フォークやスライダーといった変化球で三振を奪う割合が増加している。

 山崎颯投手のストレートは、昨季よりも平均球速、空振りを奪う確率ともに向上しており、ストレートの威力が落ちた訳ではない。このことから、変化球の質が向上したことによって、ストレート中心だった決め球の割合が変わったと推察される。

カウント球として有効なスライダー

山崎颯一郎 球種別ストライク率(C)PLM
山崎颯一郎 球種別ストライク率(C)PLM

 それでは、まず第3の球種であるスライダーから見ていこう。昨季はストレートとフォークが投球の8割以上を占めており、スライダーの投球割合はわずか8.6%にしか過ぎなかった。これはストライク率が低く、カウントを不利にしてしまうケースが多かったからだろう。それが今季はスライダーの精度が向上し、最もストライク率の高い持ち球へと変貌している。これに伴って、スライダーの投球割合は昨季から約2倍の16.7%にまで増加した。

ボールゾーンでストライクを稼ぐスライダー

2023年パ・リーグ スライダーBゾーンスイング率ランキング(C)PLM
2023年パ・リーグ スライダーBゾーンスイング率ランキング(C)PLM

 スライダーはストライク率が大幅に向上したものの、実はストライクゾーンへの投球割合は40.2%で昨季とほぼ変わりがない。ストライク率が向上した理由は、ボールゾーンで相手打者のスイングを誘えるようになったからである。

 スライダーのボールゾーンスイング率は昨季の16.1%から今季は46.9%にまで向上。これはリーグ2位となっており、打者が難しいコースでも手を出してしまうボールのキレがあるということだろう。甘いコースに投げてストライクを取っている訳ではないため、被打率も.107と申し分なく、長打も許していない。7月にはスライダーがピッチングのバロメーターという旨のコメントを本人が出しており、今季の躍進を支える持ち球に成長したようだ。

野茂英雄氏に教わったフォークで空振りを量産

2023年パ・リーグ フォーク奪空振り率ランキング(C)PLM
2023年パ・リーグ フォーク奪空振り率ランキング(C)PLM

 次は、フォークに注目してみる。スライダーと同様にフォークも昨季から変化したデータがあった。それは奪空振り率が昨季の19.0%から27.3%へと大きくアップしたことだ。これはリーグ3位の数字で、球界でも最高峰の決め球となっている。山崎颯投手は今春のキャンプで野茂英雄氏の助言を取り入れてフォークの握りを改良。その結果、よりボールが落ちるようになったとの報道があったが、その取り組みが実を結んだようだ。

打球を発生させない制圧力

2023年パ・リーグ 奪三振割合ランキング(C)PLM
2023年パ・リーグ 奪三振割合ランキング(C)PLM

 190センチの長身から投げ下ろす剛速球に加えて、2種類の変化球を球界屈指のレベルに磨き上げた山崎颯投手。昨季の奪三振割合はリーグ平均レベルの20.0%だったが、今季はリーグ5位の32.3%にまで向上。およそ対戦する打者の3人に1人は三振に倒れるということだ。打球が飛ぶリスクを減らすことで、抜群の安定感を誇る投手へと成長した。

 今春のWBCには侍ジャパンのメンバーとして準々決勝からベンチ入り。7月に開催されたマイナビオールスターゲーム2023では、ファン投票で選抜され初出場を果たすなど、名実ともにスターの階段を登っている。セットアッパー、時にはクローザーとして、首位を走るチームのブルペンを支える男前リリーバー。ペナントレースもいよいよ佳境を迎えるが、今後は豪快なストレートだけでなく進化した変化球にも注目してもらいたい。

※文章、表中の数字はすべて2023年8月13日終了時点

文・データスタジアム編集部

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