台湾プロ野球の前期シーズンを制した統一ライオンズ、その優勝の立役者には元NPBの選手もいる。それが、2015年、東京ヤクルトスワローズではセットアッパーとして活躍、リーグ優勝に貢献した「羅昂」ことローガン・オンドルセクだ。
今年2月に38歳となったオンドルセクは、スワローズ退団後、米マイナーや独立リーグ、メキシカンリーグやドミニカウインターリーグなどを渡り歩いた。2017年には32歳でトミー・ジョン手術を受けるも、懸命なリハビリに励み復活、2019年、34歳にして先発に再転向すると、メキシコやドミニカでの先発での実績が認められ、2022年1月、統一ライオンズ入りを果たした。
初年度の昨季は開幕から6連勝、防御率1.70と絶好調で、チームの前期優勝争いに貢献したが、6月中旬、ベースカバーの際に足裏の筋肉を痛め離脱、エースを失ったチームは前期優勝を逃したが、オンドルセク個人は9月に復帰すると、変わらず安定した投球内容をみせ、最終的に9勝1敗、防御率1.87という好成績を残した。
今季の前期は、勝ち星こそ4勝5敗と伸び悩んだものの、12試合先発、投球回数79回1/3はいずれもチームトップ、防御率2.04はKBOに引き抜かれた同僚サンチェスに次ぐリーグ2位と、ローテーションの軸として活躍し、チームの前期優勝に貢献した。結果的には救援失敗に終わったものの、前期終盤には過去の経験を買われ、クローザーとしても起用された。
オンドルセクについて語るならば、2016年、シーズン中のスワローズ退団につながった味方野手のエラーをきっかけとしたダグアウトでの激高について避けるわけにはいかないだろう。台湾で、この一件について問われたオンドルセクは、「当時は勝ちたいという思いが強いがあまりに、一瞬、理性を失ってしまった」と誤りを認めている。
勝利に対する強い意志は健在で、自身を「燃える野獣」と称するオンドルセクは、成績面はもちろん、チームの士気を高める重要な役回りを果たしている。NPB好きも多い台湾のファンに「守備コーチ」というあだ名をつけられるなど、人気も高い。
――投手にとって、高温多湿の台湾は過酷な環境だと思いますが、台湾でのこの一年半の好成績の秘訣を教えてください。
こうした環境の中でプレーする上で大切なのは、フィジカル面はもちろんですが、それ以上に精神力の強さです。全てのピッチャーにとってタフな環境だと思いますし、自分も特に夏はキツいですけど、相手投手も同じ条件で投げているわけで、それを言い訳にはできません。自分にそう言い聞かせて、ベストをつくす努力をしています。もちろん汗はかくので、アンダーシャツは何枚も取り替えないといけませんがね。
――オンドルセク投手からは常に燃えたぎる闘志を感じます。38歳になった現在も、そうして闘志を持ち続けてプレーできているのはなぜなのでしょうか。
なぜかというと、野球が好きだからです。メジャーリーグ、マイナーリーグ、日本、台湾、メキシコなど、各国でプレーしてきましたが、試合でマウンドにあがった時は、必ず最高の選手でありたい、最良のパフォーマンスを発揮したい、と思ってプレーしています。それゆえに、ありのままの感情がむき出しになることがあります。ただ、日本での「教訓」を経て、それからは、マウンドを下りたらリラックスして、自然の成り行きに任せるよう、心がけています。
――台湾プロ野球において、手強い打者を何人か挙げるとすれば誰になりますか。
台湾プロ野球は、長打力をもちつつ、粘り強かったり、こちらに多くの球数を投げさせたりする打者が多いです。個人的には、純粋なリーグトップクラスのパワーヒッター達よりも、くさい球はファウルで逃げ、失投はしっかり仕留めてくるような打者が手強いですね。具体的には、中信兄弟の王威晨選手、富邦の王正棠選手、味全の郭天信選手や李凱威選手などでしょうか、彼らのようなタイプは、ツーストライクを取られてからも焦りませんからね。
――日本の野球ファン、特にスワローズのファンは、オンドルセク投手の事を懐かしく思っています。オンドルセク投手ご自身の、日本に対する思い出を聞かせていただけますか。
日本でのさまざまな事柄がとても懐かしいです。日本の野球、日本のファン、そして食べ物、風景、ひとつひとつに思い入れがあります。日本は、私と妻が一緒にアメリカ以外で暮らした初めての国でもあり、かけがえのない思い出があります。上の娘も日本での生活を気に入っていました。自分に、日本はどうだったのと聞いてくる人がいますが、「99.9%、素晴らしかった」と答えていますよ。「教訓」もありましたが、思い返すのはすばらしいことばかりです。東京にはおいしいものがたくさんありましたね。ラーメンは特に忘れられないもののうちのひとつです。
――日本のファンへのメッセージを一言お願い致します。
統一の試合を見に来てくれたら、ぜひ大声で応援してください。特にスワローズのファンが来てくれたらとても嬉しいですね。その際には、最高のパフォーマンスをお見せできるよう頑張ります。
練習の合間のインタビューとなったが、オンドルセクはひとつひとつの質問に対し、真剣に答えてくれた。紙面の都合上、割愛したが、今季のチーム状況の良さについて、野手陣のコンディションや陣容の昨季との違いを詳細に解説してくれる姿からは、チームへの強い思い入れを感じると共に、首脳陣からの信頼の厚さも頷けた。
ただ、残念なことをお伝えしなければならない、ショッキングな事態が発生したのだ。後期シーズン初登板となった7月21日の楽天モンキーズ戦、2-4で迎えた5回二死1、2塁、センターに抜けそうな強いゴロを、オンドルセクは利き手の右手で掴みにいってしまう。指先に触れた打球はショート林靖凱が処理し、ピンチは切り抜けたものの、この回で降板。当初は軽症とみられたが、病院での診断の結果、右手人差し指の剥離骨折で全治8週間から10週間と判明、彼らしいプレーではあるが、悔やまれる形での一時離脱となった。なお、統一球団はいちはやく、リハビリのサポートをすることを明らかにすると共に、2人の新外国人投手と契約間近であることを明らかにした。
各チームが、外国人枠4枠を決める外国人最終登録期限は例年8月31日だ。統一は、オンドルセクのリハビリの状況や、他の外国人投手の投球内容を見ながら判断することになるだろうが、オンドルセクの一日も早い回復を期待したい。
文・駒田英
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