“大本命”が長期離脱も…… 山本由伸と種市篤暉、奪三振王の栄冠を手にするのは?

パ・リーグ インサイト 望月遼太

オリックス・山本由伸投手、千葉ロッテ・種市篤暉投手【写真:球団提供】
オリックス・山本由伸投手、千葉ロッテ・種市篤暉投手【写真:球団提供】

リーグトップの奪三振を記録していた佐々木朗希投手が、故障で戦線を離脱

 7月27日の時点で奪三振数でリーグトップに立っていた佐々木朗希投手が、故障で2か月以上にわたって戦列を離れる見通しとなった。7月末の時点で奪三振と防御率でリーグトップに立ち、自身初タイトルも視野に入っていた「令和の怪物」の離脱は、ファンならずとも非常に惜しまれるところだ。

 8月2日現在の奪三振ランキングにおいて、佐々木朗投手に次ぐ2位は114奪三振の山本由伸投手で、3位は112奪三振の種市篤暉投手。わずかに2奪三振の差で2名の投手が競り合っているだけに、今後は激しいタイトル争いが展開されていきそうだ。

 今回は、山本投手と種市投手のこれまでの球歴や、指標に基づく両投手の特徴を紹介。タイトル争いのカギを握る「奪三振率」に加えて、2023年における両投手の全ての登板データを振り返ることによって、ハイレベルな争いが期待される今後の展開にも期待をかけたい。(成績は8月1日の試合終了時点)

4年連続でタイトルを獲得し続ける、球界を代表する大エース

 山本投手がこれまで記録してきた、年度別成績は下記の通り。

山本由伸投手 年度別成績(C)PLM
山本由伸投手 年度別成績(C)PLM

 山本投手は2016年のドラフト4位でオリックスに入団。プロ2年目の2018年に中継ぎとして54試合に登板して32ホールドを挙げ、3年目の2019年に先発再転向。同年は防御率1.95を記録して最優秀防御率を受賞し、続く2020年は149奪三振を挙げて最多奪三振に輝いた。

 そして、2021年は18勝5敗、防御率1.39、206奪三振という圧倒的な成績を残し、最多勝・最高勝率・最多奪三振・最優秀防御率の投手4冠に輝き、リーグMVPと沢村賞も受賞。

 翌2022年も支配的な投球を続け、2年連続の投手4冠という快挙を達成。リーグMVPと沢村賞も2年連続で獲得し、オリックスのリーグ連覇の立役者の一人となった。

 2023年もここまでリーグトップの10勝を挙げ、最多奪三振と最優秀防御率も射程圏内に捉えている。今季も抜群の投球内容を示しているだけに、3年連続の投手4冠という球史に残る快挙が達成される可能性も大いにありそうだ。

およそ2年半を棒に振った大ケガを乗り越え、ついに完全復活へ

 種市投手がこれまで記録してきた、年度別成績は下記の通り。

種市篤暉投手 年度別成績(C)PLM
種市篤暉投手 年度別成績(C)PLM

 種市投手は2016年のドラフト6位で千葉ロッテに入団。プロ2年目の2018年は7試合に先発して防御率6.10と苦しんだが、翌2019年はリリーフとして開幕一軍を勝ち取って2ホールドを記録。4月29日以降は先発に回ると、116.2イニングで135個の三振を奪い、23イニング連続奪三振を記録するなど、奪三振力の高い本格派右腕として台頭した。

 続く2020年は7月終了時点で防御率2.20と絶好調だったが、5.2回を8失点と大乱調だった8月1日の試合を最後に、右ひじの故障で長期離脱を余儀なくされた。その後はトミー・ジョン手術と長いリハビリを経て、2022年におよそ2年ぶりとなる一軍登板を果たした。

 そして、2023年は開幕から先発として活躍し、7月終了時点で7勝をマーク。最大の特徴だった奪三振も故障前を上回るペースで積み上げ、自身初のオールスターにも選出された。ほぼ2シーズン半を棒に振った大ケガから、若き右腕がついに完全復活を遂げつつある。

奪三振の多さだけではなく、制球力も極めて優秀

 山本投手がこれまで記録してきた、年度別の各種指標は下記の通り。

山本由伸投手 年度別指標(C)PLM
山本由伸投手 年度別指標(C)PLM

 2019年までの奪三振率は3年続けて7点台と高くはなかったが、キャリアベストの奪三振率10.59を記録した2020年以降は傾向が変化。2023年も含めて4シーズン連続で投球回を上回る奪三振を記録し、独力で打者をねじ伏せることができる投手へと進化を遂げている。

 それだけでなく、与四球率も2021年以降は3年連続で1点台と、四球から崩れるケースも非常に少ない。そして、制球力を示す指標の「K/BB」は一般的に3.50を上回れば優秀とされるが、山本投手は2019年から5年連続でその水準を上回る圧巻の投球を見せている。

 とりわけ、2023年はここまで15試合に登板して与四球は14と、1試合平均の与四球は1個未満。与四球率も1.17と過去最高の数字で、K/BBは8.14という驚異的な水準に達している。今季の山本投手の投球内容は、まさにキャリア最高のレベルにあると考えられる。

奪三振率の高さは山本投手を凌ぎ抜群の水準に

 種市投手がこれまで記録してきた、年度別の各種指標は下記の通り。

種市篤暉投手 年度別指標(C)PLM
種市篤暉投手 年度別指標(C)PLM

 種市投手の最大の持ち味は、なんといっても非常に高い奪三振率だ。故障に苦しめられるシーズンも多かったが、8試合以上に登板した2019年と2023年の奪三振率はともに10点台以上。通算の奪三振率も9.75と、奪三振数が投球回を上回っていることを示している。

 そして、2023年の奪三振率は11.33と、佐々木朗投手の数字(13.76)には及ばないものの、7月終了時点で規定投球回に到達している投手の中では最も高い。同ランキングで2位の平良海馬投手の数字が9.60であることを考えれば、まさに頭一つ抜けているといえよう。

 また、2023年の与四球率は3.03と、キャリア平均の数字(3.46)を上回っている。今季の「K/BB」も3.73と優秀な水準に到達している点からも、奪三振の多さだけではなく、投手としての総合的な能力についても着実に成長を遂げていることがわかる。

奪三振・投球回ともに圧倒的な安定感

 山本投手が2023年に登板した試合における、投球成績は下記の通り。

山本由伸投手 2023年試合別成績(C)PLM
山本由伸投手 2023年試合別成績(C)PLM

 今季登板した15試合すべてで6回以上を投げぬき、そのうち14試合で6奪三振以上を記録。6月23日の福岡ソフトバンク戦を除く14試合でクオリティスタートを達成するなど、奪三振と投球内容の両面において、群を抜く安定感を見せている。

 また、15試合中11試合で投球回以上の奪三振を記録し、6月13日の阪神戦(8回11奪三振)、7月8日の埼玉西武戦(9回13奪三振)と、2桁の三振を奪った試合も2度ある。山本投手の奪三振率が4年連続で9.00を上回っている理由は、こうした数字にも示されている。

 コンスタントに長いイニングを投げられる安定感は、奪三振を積み重ねるという観点においても大きな要素だ。それに加えて、多くの試合でイニング数と同じだけの奪三振を記録できる点が、3度の奪三振王に輝いた山本投手の、タイトル争いにおける強みとなっている。

ほぼすべての試合において、投球回を上回る奪三振を記録している

 種市投手が2023年に登板した試合における、投球成績は下記の通り。

種市篤暉投手 2023年試合別成績(C)PLM
種市篤暉投手 2023年試合別成績(C)PLM

 種市投手の今シーズンは、4イニングで被安打4、与四球3ながら1失点に抑え、12個のアウトのうち10個を三振で記録する“怪投”でスタート。その後も高い奪三振力を発揮し続けており、今季登板した15試合のうち、実に14試合で投球回以上の奪三振を記録している。

 その一方で、現時点での投球イニングは89回と、山本投手の101回とは12イニングもの差がある。4月23日以降はすべての試合で5回以上を投げている点はプラスだが、8回以上を投げぬいた試合は9回9奪三振の快投を見せた5月16日のオリックス戦のみとなっている。

 奪三振の“効率”という面では山本投手をも上回っていることもあり、今後はどれだけ投球回を伸ばせるかがタイトル獲得のカギを握る。

ともに1998年生まれの24歳。2名の若き右腕が演じるタイトル争いは要注目

 今や球界を代表するエースとなった剛腕が、3年連続の投手4冠という大偉業を達成するのか。それとも、無念の離脱を強いられた佐々木朗投手のチームメイトが、自身初のタイトルを手にするのか。ともに1998年生まれの24歳、2名の若き右腕が演じるタイトル争いは、今後も目が離せない展開になることだろう。

文・望月遼太

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