2年目以降の投手がプロ初登板で開幕投手を務めるのは、2リーグ制では史上初だった
オリックスの山下舜平大投手が、3月31日にプロ初登板ながら開幕投手の大役を務めた。近年では、則本昂大投手(2013年・東北楽天)や北山亘基投手(2022年・北海道日本ハム)が新人ながら開幕投手を務めたケースはあったが、2年目以降の投手がプロ初登板で開幕投手を務めた例は、2リーグ制導入後では史上初だった。
山下投手が大抜擢を受けた背景には、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の影響で、山本由伸投手と宮城大弥投手の合流が遅れたことがある。しかし、山下投手が大役を務めたことには、もちろんそれ相応の確固たる理由も存在している。
今回は、山下投手のこれまでの球歴に加えて、投球スタイルや持ち球、具体的な長所など、今季の大ブレイクが期待される若き剛腕の特徴を、より詳しく掘り下げていきたい。
1年目はプロの壁に苦しめられたが、2年目には大きく成績を向上させた
山下投手は福岡大大濠高校から、 2020年のドラフト1位でプロ入り。プロ1年目の2021年は一軍での登板はなかったが、二軍では先発の一角として年間を通じて登板。18試合で2勝9敗、防御率5.48とプロの洗礼を味わったが、ルーキーイヤーから貴重な経験を積んだ。
続く2022年も二軍で研鑽を積むシーズンとなったが、身体の成長とトレーニングの関係で登板数は8試合に減少。しかし、防御率3.31、奪三振率10.70と、投球内容は大きく改善を見せた。さらに、クライマックスシリーズと日本シリーズでは登録メンバーに入り、秘密兵器として大舞台でのベンチ入りも経験した。
そして迎えた2023年、オープン戦ではセ・リーグチーム相手に4試合に登板して防御率2.35、奪三振率13.50と圧巻の数字を記録。この活躍が認められて自身初の開幕ローテーション入りを果たしただけでなく、一軍登板未経験ながら開幕投手の大役に抜擢された。
そして、3月31日に行われた開幕戦では重圧に臆することなく、150km/hを超える速球を軸に堂々たるピッチングを展開する。5.1回を投げて7奪三振、失点はわずかに1と快投を披露した。プロ初勝利とはならなかったものの、開幕投手を務めるに足るポテンシャルの持ち主であることを、全国の野球ファンに示してみせた。
続く4月11日の対東北楽天戦では、前回登板で暴投も記録したフォークの精度を修正し、5回を被安打2、奪三振10、失点0と圧巻のピッチングでプロ初勝利を手にする。
マウンド上での堂々とした立ち居振る舞いから一変、お立ち台では記念球の行方を聞かれ、「もちろんお母さんに」とはにかむ姿には初々しさが見られ、そのギャップも印象的だった。
最速158km/hの速球に加え、2つの変化球も一級品の精度を備えている
ここ2試合の山下投手の投球割合を見ていきたい。
最速158km/hに達する快速球が、山下投手にとって最大の武器となっている。ほとんどが153〜155km/h前後出ているというのも、球界の常識を変えうる存在だ。さらに、130km/h台後半から140km/h台前半の速度から鋭く落ちる高速フォークで空振りを奪い、120km/h台と大きく曲がるカーブで緩急をつける。球種は3つだけながら、その精度はいずれも一級品だ。
持ち球の数こそ決して多くはないが、各球種の間にはそれぞれ大きな球速差が存在しており、打者にとっても対応は決して容易ではない。若くして速球と変化球の双方が高い完成度を誇っているところが、山下投手の非凡な点といえよう。
3月31日の投球と4月11日の投球の割合を比較すると、ストレートの割合が高くなり、変わりにカーブの割合が減少している。しかし2ストライクと追い込んでからは、ストレート43%に対し、カーブが32%、フォーク25%となり、まさしく“すべてが決め球”となっている。
山本由伸投手に次ぐ若き剛腕の台頭は、先発陣のバランス面でも大きなプラスに
現時点でのオリックスの先発陣は、山本由伸投手と宮城大弥投手の左右の両輪が中心で、それに加えて、昨季は防御率2.66で9勝を挙げた田嶋大樹投手と、先発の一角としてリーグ連覇に貢献した山崎福也投手と、有力な左投手が揃っているのが強みの一つでもある。
宮城投手、山崎福投手、山岡投手の3名は、快速球で押すというよりも、優れた投球術で打者を手玉に取るタイプの投手といえる。山本投手に次ぐ剛球右腕として山下投手がローテーションに定着すれば、先発陣全体における左右のバランスや、投球スタイルの緩急といった面においても、さらなる向上が見込めるだろう。
圧倒的なポテンシャルを秘めた逸材の投球が、今後はより一層の注目を集めそうだ
千葉ロッテが昨季まで佐々木朗希投手に対して取っていたアプローチと同じく、オリックスも山下投手に対しては、故障のリスクを極力避けるための慎重な起用が続く。
裏を返せば、こうしたアプローチは山下投手がそれだけの価値を持つ存在であることの証明でもあるだろう。鮮烈なデビューを飾りながらトミー・ジョン手術で長期離脱を余儀なくされた椋木蓮投手の例もあるだけに、山下投手には順調な成長を期待したいところだ。
2022年に二軍で記録した好成績を今年のオープン戦での好投につなげ、開幕投手としても見事な投球を見せた山下投手。故障による長期離脱も経験したが、昨季途中からはハイペースでステップアップを遂げているといえよう。
12球団でも屈指の強力投手陣を誇るオリックスにおいて、新たに台頭を見せ始めた超新星。今季は大ブレークが期待される弱冠20歳の逸材が投じる強烈なボールには、今後さらなる注目が集まってくることだろう。4月23日、2勝目をかけた登板にも期待したい。
文・望月遼太
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