引っ張る意識を捨てて柔軟に対応する打撃「打率を残しつつ、長打も打てる打者が理想」
プロ野球は交流戦も佳境を迎え、本命ソフトバンクは4位と今ひとつ波に乗り切れていないようだ。だが、ここからが勝負。稀代のヒットメーカー内川聖一が16日に1軍復帰を果たした。
早いものであれから1か月以上が経つ。2000本安打に王手をかけた内川は、まさに「生みの苦しみ」に悩まされた。あと1本から15打席目での達成と時間がかかった。
「通過点という気持ちになるわけねえだろ(笑)」
苦労した分、この日のヒーローインタビューでは内川の本音のようなものが漏れたが、周囲は時間の問題と考えていた。誰もが羨むような打撃技術を持ち合わせているのは周知の事実だからだ。その打撃の秘密について、内川自身がわかりやすく、時間をかけて語ってくれたことがある。
「しっかりミートすることを考えている。高校時代などは引っ張って打って本塁打を打つことを意識したこともあった。でもプロでそういう打撃をやっていたらスピードについていけない。とてもじゃないけどやっていけないと思った。だからすべてのボールを引っ張るような意識を捨てた。柔軟に対応してしっかり引きつけて打つことを一番大事にしている」
内川の特徴はグラウンド上90度すべてを使った打撃。それが当たり前であり、ヒットを量産しているため、かつてレフト方向を強く意識していたというのには驚かされた。
「そういう意味で左右の違いがあるけど、理想にしているのは青木宣親さん(現ヤクルト)。ゴロを転がして野手の間を抜くようなヒットも多い。そうかと思えば引っ張って長打も打てる。僕も打率を残しつつ、長打も打てる打者が理想」
確実性と長打力。そのためには柔軟性を持ちつつも、しっかり強くスイングしなくてはならない。日本一広いと言われるヤフオクドームのスタンドに打ち込めるのも意識が高いからであろう。
「打撃動作に入った時に、右ヒジと右ヒザが同じ動きをしてほしい」
理想の打撃を体現するために大事にしているのは打撃練習である。試合中は対戦相手も「崩そう」と思って投げてくる。当然、理想通りのスイングはなかなかさせてもらえない。だからこそ練習では100%に近い確率でしっかりと打ち返せるようにしている。
「試合では、身体をこう使って打とう、とか思っていたら絶対に遅れてしまう。相手投手もなんとかして打者のタイミングを外そう、崩して打ち取ろうと思って投げてくる。だから試合では細かいことはあまり考えない。来た球に対応する。でも練習ではチェックポイントをしっかり確認する」
「一番のポイントは、打撃動作に入った時に、右ヒジと右ヒザが同じ動きをしてほしい。テイクバックを取って打ちに行く際に、右ヒジと右ヒザが同時に同じ動きをする。そうすれば身体の左側にしっかり壁を作り出すことができる」
「壁をしっかり作れると力の出るポイントが身体の正面、ヘソの前あたりにできる。よくいうタメを作るということ。そこへボールを呼び込んで打つことで、パワーをしっかり伝えることもできるし、確実性を高めることができる。しっかり対応して打ち返すためには、タメができていないとダメなんです」
実はプロに入って多少、変化した部分がミートポイント。元来は身体の前で「さばく」ように打つタイプであったが、しっかりと手元まで引きつけるようになった。こうすることで広角に打ち分ける確率も格段に上がったという。
「打撃コーチの方に、前でさばくタイプはもろい、と言われて意識を変えた。だから僕のファールは下に落ちる打球が多い。自打球もスネより下に当たる。これはしっかり手元まで引きつけてスイングできているから」
「手元まで引きつけると投球を長く見られるので、選球眼も良くなったと思う。打つための準備をしっかりできるし、打席での内容もしっかり覚えていられるようになった。とにかくスローボールを打つ練習を反復してやりました」
「投球にまっすぐバットをぶつけるイメージ」「インパクト後はしっかりフォローで押しこみたい」
どの打者でもそうだが、一番大事にして難しいのがタイミングの取り方。これがしっかりできていれば結果につながる確率も自然に高くなる。内川が大事にしているのは自分のタイミング。投手という相手がいるのだが、その中でも自分のタイミングを作り出すことを重要視している。
「元々はすり足で打っていた。これだと投手によってタイミングを変えないといけないので難しさを感じていた。それならばあらかじめ足を上げて自分の形で投球を待とう、と思った足を上げて自分の懐に呼び込んで打つイメージ」
「ゆっくり足を上げて待って打つ。もちろん打撃は投手に合わせないといけない。でもその中でいかに早く自分が準備をしておけるか。早め早めにタイミングを取って慌てないことを考えている」
コンタクトの際には強く、正確にバットを当てないといけない。そのためにはバットが出やすい場所からスイングを行い、確実にボールをとらえる。ムダな動きを省いて最短距離で投球にバットをぶつけて行くイメージである。
「強いスイングをするために深いトップは作りたい。でもヘッドが内側に入りすぎると出てこなくなる。バランスが一番大事。力が入る大きいトップだけど、バットが出やすい場所。それが難しいんですけどね」
「意識の中では最初からグリップを引いたトップの位置で構えるようにしている。あらかじめ投球としっかり距離を取って構えて、ムダな動きをしない。そこから投球にまっすぐバットをぶつけるイメージ」
「インパクト後はやはりしっかりとフォローで押しこみたい。そのためにも打撃の基本は後ろを小さく前を大きく。スイングまではムダな動きをなくす。当たってからは前に押し出す。そうすることで投球にも負けない、強い打球を打ち返すことができると思う」
「もっともっとうまくなりたい。打ちたい。現実的には難しいけど、10割打てればそれに越したことない。そのために研究を重ねてバットを振り続ける。諦めずにそこに向かう気持ちがあれば可能性は無限大。理想の打撃をずっと追い求めて行きたいと思っています」
貪欲なまでの向上心が、至高の技術を日々、磨き上げる。内川の進歩は止まることを知らない。打線のキーマンの復帰はチームの起爆剤になるはずだ。
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